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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
41/163

31.勇者の事情

 昼下がり。


「本当に!申し訳ありません!!」


 そこには平謝りする女勇者ユーリスの姿があった。



挿絵(By みてみん)



「この地方に魔族が出ると聞いて馳せ参じ、メロウ達が魔族にさらわれてるというので魔族討伐に来たのですが、まさかあなた達がメロウの少女を保護していたとは知らず……衣類も弁償するので!」


 ユーリスが頭をとにかく下げる。

 ユーリスの攻撃によって俺の服はそれはもうボロボロの布切れになっていた。


 さようなら俺の服。

 というわけで俺は元の包帯ぐるぐると腰布1枚の姿に戻っている。


「ハァ、分かった分かった。怒ってないから頭上げてくれ」


 メロウを助けようとしていたのだから悪い奴じゃないだろう。

 するとユーリスは懐から銀貨を取り出す。


「こちら弁償です」

「大銀貨ですね」


 えっと、大銀貨って確か10万円くらいの価値だよな。


「いくらなんでも高すぎだろ!いらねーよ」


 服とはいえ簡素な布に10万は受け取れない。

 ユーリスが目を反らしながら口をモゴモゴさせる。

 なにやら顔が紅潮している。


「その、亜人の文化と言うのなら無理強いはしませんが下穿きをはいた方が良いかと思い……もしかして買えないのではと思ったのですが余計なお世話だったでしょうか」

「まさに余計な世話だわ!!」


 ……さっき派手に吹っ飛ばされた時に腰布の下とか見たんだろうな。

 下着も買えない貧乏人に見えたんだろう。

 ユーリスが慌てて弁解する。


「いえでも、女の私から見ても、見られても恥ずかしくない程のモノだとは思いますので胸を張っても問題はないかと!」

「自慢にしてねぇし感想求めてねぇから!!!」


 いい加減はいてないを卒業したい。




「ユーリスさんは勇者様なんですよね。ノーラン領の魔族討伐依頼はずっと放置されてるそうですが、魔族討伐の勅命でも出たんですか?」


 魔族は手強いし、希少な素材を落とす魔物と違いって討伐自体に旨味がほとんど無い。

 本来は領主が報酬を用意して討伐依頼を出すけどこの地方の領主は報酬を出し渋っているため依頼を受ける者が現れなくてずっと放置されてるんだったな。


「これは私の判断です。魔族を倒すのは我ら勇者の宿命ですし、人間に被害が無いとはいえメロウ達は間違いなく困っていますから」


 お?

 これまで出会った人間はアレやコレなのが多かったけど、初めて普通に良い奴にあった気がする!


「それよりミトラ殿の怪我は大丈夫ですか?並の魔物なら跡形もなく消し飛ぶ威力の光線だったのですが……」

「どうりで痛てぇわけだよ!?」


 俺じゃなかったら即死コースでした。次からマジ気を付けてね。


「正直なところ、魔族が現れたのに亜人がこのようなところにいるはずがないと思い込んでおりました。己の至らなさに恥じ入るばかりですがミトラ殿ほど屈強な御仁であれば納得もいきます」


 魔人の体だからね、めちゃくちゃ強いぞ!


「さらにメロウの少女を救出し、高価な菓子を無償で提供する心優しさ。このユーリス、大変感激いたしました」

「女の子が困ってるんだ。ほっとけないだろ」

「分かります。こんな罪の無い少女を拉致する非道な輩がこの地にいる事実が度し難く」

「分っかるー!!許せねぇよな!!カロンの話聞いて殴り込み行こうかと思ってたとこだわ!」

「まさに!弱者を攫うなど本当マジ(はらわた)が煮えくり返ると言いますか!」



 がし!



 俺たちは力強く握手を交わしていた。

 こいつ!!めちゃくちゃ話分かるヤツだぞ!


「ミトラ殿!本来私1人で成し遂げるつもりでありましたが……討伐ならともかく救出となると1人では困難でしょう。しかし貴殿がいればこの上なく心強い。殴り込みに行くならば是非私も連れて行っていただきたい!共にメロウを救出していただけませんか!」

「もちろんだ!カロンの仲間達がまだ捕まってるんだろ?まとめて助け出してやろうぜ!」


 意気投合だ!



 ◆



 その女勇者なのに何してんの???

 魔人ってバレたらどうなるか分かってるんですか???

 ……って感じのゲッカとクローバーの視線が後ろからビシバシ刺さる。


 俺たちはカロンの案内でカロンが来た道を引き返してメロウ達が囚われているところへ向かう。

 下半身が魚のカロンは地上ではうまく歩けないのでユーリスが抱えて歩いている。


 初めは俺が抱えようとしたけど顔が怖いようで嫌がられてしまった。

 仕方がないけど傷つく。


 ということでカロンを抱えたユーリスが先頭で歩いている。

 そんで背後からゲッカとクローバーの何やってんだおめーオーラが痛い。


 分かってるよ、分かってるけど!

 仕方ないじゃんメロウ達助けるためだし!


 突き刺さる視線に気付かないフリしてユーリスとの話に集中しよう。

 敬語じゃなくてもいいと伝えるとユーリスはくだけた感じで話すようになった。



「ユーリスは亜人を助けようとしてくれるんだな」

「珍しいか?」

「すっごく」


 ユーリスが苦笑する。


「……私は勇者として育てられた。人間の剣と盾となれ。けれども亜人を助けよとは教わらなかった。勇者が守る対象に亜人は含まれていない。そう教えられたしそう考える勇者も多い」


 勇者としての教育か。

 魔王を倒すために命をかける勇者に、勇者ではない人間がどんな教育をするんだろう。


「それでも私は彼らのことも助けたい。彼らは人間ではないけれど、人間の隣人だ」


 人間が皆ユーリスのような奴だったら、とは言わないでおく。

 いくら亜人を虐げようと、人間である以上ユーリスが守るべき人たちなんだろう。


「勇者は魔王を倒すんだろ?ユーリスも魔王を倒しに行くのか?」

「ああ、ここを片付けたら魔族領を目指す。この地が気がかりだからまだ出発していないが魔族討伐目的だから咎められはしないだろう」

「行かないと咎められる?」

「魔王討伐が勇者の使命。役割を放棄するわけにはいかない」

「行って戻ってこない奴も多いんだろ?」

「フフ、そうだな。私たちは対魔王専用の使い捨ての兵であり武器だ」


 生まれた時から使い捨てと決めつけられる、それが勇者の使い道か。


「辛くないのか?」

「ミトラ殿は優しいな。だが我ら勇者はその定めを持って生まれて来たんだ」


 まだ幼さの残るユーリスの顔を見る。

 こんな年頃の娘を使い捨てにするっていうのか。


「『勇者』のスキルを持って生まれた者は勇者として育てられ、15になれば死地へ向かう。このシステムに思う所がないわけではない。実際、過去に異を唱え反旗を翻した勇者は何人もいたが彼らは堕ちた勇者と呼ばれた」


 堕ちた勇者は勇者達により殺される。

 人間の剣として育てられた勇者がその力を人間に向ければ脅威は魔族となんら変わりはない。

 使い手に従順ではない剣は処分される。


 と言っても反逆する勇者はごく稀で、たいていは雲隠れして田舎で暮らしたり別の大陸に逃げるそうだ。


「勇者の力は強い。私が剣を人間に向ければ起こるのは戦か虐殺だ。魔族でなく人間の生きる地に血が流れることになる。ならばこの力を魔王にぶつけるべきだろう」


 ユーリスはひと息つく。


「魔族の根絶。それが『勇者』のスキルを持つ者がこの世界に生まれ落ちた瞬間に決定付けられた使命だ」


 生まれた時から魔王と殺し合う未来が確定する。


「ミトラ殿が人間でもなく魔族でもない亜人でよかった。ミトラ殿だからこそ言える」

「何を?」

「魔族は滅ぼすべき敵だと教えられてきたが、私は魔族と魔王にある種の感謝すら覚えている」

「魔王に感謝……?」


 嘘をついているようには見えない。

 ユーリスとは出会ったばかりだが、どこまでも真っ直ぐな人間だった。


「もし本当に魔族を根絶したら、敵を失った人間は次はどうすると思う?」

「……敵の対象が移るんじゃないか?おそらくは、亜人に」


 考えたくもないけど、敵を失えば敵は移る。

 亜人を今以上に支配するか、嫌悪して根絶するかの戦いになるんじゃないだろうか。

 共通の敵がいるということは味方(人間同士)が団結するこの上ない材料だ。


「私も同じ意見だ。そして亜人がいなくなれば最後には人間同士で戦うようになると思わずにいられない」


 そう思っているのに、勇者であるユーリスは人間を守る。


「勇者も大変なんだな」


 勇者にも悩みがある。

 悩みを抱えながら、正しいのかと問いながら魔王を倒しに行く。

 そんな大それたことが俺にできるだろうか。


「まぁな。大変などとは言っていられない。魔王もだが、倒されなばらない敵がいるんだ」


 ユーリスの目には固い決意が込められている。



「ついこの間。私の故郷で人が焼かれたんだ」


 聞かせるというよりも独り言のような調子でユーリスが口を開いた。


「私の親友の恩師で育ての親でもあった人だ。その人には何の罪もなかったが、封印の墓標の封印が解けた際に責を押し付けられ魔女として断罪されたんだ」


 あらやだ物騒。

 ところで封印の墓標ってどこかで聞いたことあるな?


「魔人がこの時代に復活しているのは知っているな?封印の墓標は魔人を封印していた場所。封印の管理をしていたのは私の故郷の神殿だったんだ」


 ん?ちょっと待って。

 それ初耳。


「魔人ラグナが復活したことで、友の恩師は処刑されたんだ。それにここのところ大陸全土で起こる不可思議な災害。天変地異、空から落ちる凶星。一夜で消える沼、魔物の活性化……」


 やべぇ。

 いくつか心当たりある。


「大陸に生きる物は不安になっている。不安は人を暴走させ、人が人を焼くようになる。人間は体も心も弱い。だからこそ私が……勇者が不安を晴らし光とならねばならない。私の友はきっと魔人を討つことを望んでいる。だが司祭である彼女は故郷から離れられないんだ。(しか)らば、」



「勇者である私が討つのみだ」




「ふぇ……」


 不穏な気配を感じ取ったのかカロンが涙目になっている。

 ユーリカはいつの間にかカロンを抱えていたことを忘れてしまったらしい。


「あっ、ごめんごめん!怖い顔しちゃったかな?カロンちゃんたちみんなが笑って過ごせるように頑張るってお話だからね」


 ユーリスはぐずるカロンに大慌てでこちらを見ていない。




 ゲッカ。

 クローバー。


 たすけて。

 魔人だとバレたら俺ころされる。




 ゲッカとクローバーは全力で顔を反らしていた。


 俺が目覚めたせいで処刑されたとか言われても、それ俺のせいじゃなくない?!

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