30.予想外の邂逅
もふもふ。
俺はゲッカの喉下や頬を撫でる。
進化して毛が増えたゲッカは非常にモフモフっとしている。
嫌なことがあったらモフモフに限る。
「ヴァフ……」
気持ちよさそうな顔してる。
うーん癒される。ささくれ立った心が洗われるかのよう。
「俺思うんだけど、こんなハナクソほじるノリで亜人殺す奴がいたら世界中から亜人いなくなるんじゃ?」
「どんな例えですか」
返り討ちにしたけど亜人って理由で殺されかかった。
亜人は殺しても罪に問われないとは聞いたけど遭遇しただけで試し切りしよーぜって何?
「亜人は集落から出なければ安全ですよ」
「そうなの?」
「以前亜人を滅ぼしても人間に得が無い話をしましたよね。基本的に亜人の集落内で亜人に危害を加えれば罰せられます。逆に集落の外では亜人の安全は保証されませんが」
「それって亜人は集落から出るなってことだろ」
「そうなりますね」
例外はハルピュイアのように人間の街で仕事をしたり冒険者や商会に登録した亜人くらいだ。国家やギルドの重要な連絡係を殺せばさすがに重罪になる。
とはいっても亜人は薄給だったり立場が悪いことに変わりはない。
「カーッ!ステータスチェックでもしないとやってらんねー!」
「魔片手に入れましたからね!」
ロス・ガザトニアで2頭の馬を倒した際に2つ、商人を襲おうとしていた盗賊マーカスから1つ。
そして先ほどの冒険者から4つ。ここ最近で7個も手に入れたな!
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名前:ラグナ
種族:魔人
LV:7/14[LIMIT]
HP:4853/4853
MP:40/365
攻撃力 [LOCK]
防御力 [LOCK]
魔法力 [LOCK]
抵抗力 [LOCK]
速度 97
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所持スキルポイント:7
火属性LV2 Next:火属性魔法の消費MPを軽減。
∟天属性LV1 Next:天属性魔法の消費MPを軽減。
∟爆発属性LV0 Next:魔法を修得。
∟光属性LV0 Next:魔法を修得。
水属性LV1 Next:派生属性を解放。
風属性LV0 Next:魔法を修得。
地属性LV2 Next:地属性魔法の消費MPを軽減。
∟金属性LV0 Next:魔法を修得。
∟植物属性LV1 Next:植物属性魔法の消費MPを軽減。
∟創属性LV0 Next:魔法を修得します。
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修得スキル
嘘つきの炎 火属性 MP330
伏ろわぬ神の雨 天属性 MP345
六夜の洪水 水属性 MP325
天牛降臨 地属性 MP300
世界樹の繁栄 植物属性 MP350
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「どれか属性LV上げてもいいかもな」
「ヴァフ!」
ポイント7もあるしね!
水の派生属性を解放したいし、属性LVを上げた時どのくらいMP軽減されるかも知っておきたい。
それから創属性が気になる。振っちゃうか!
まずは一番よく使う植物属性に1振ってみる。
【植物属性のLVが2になりました】
【植物属性の消費MPが減ります】
【世界樹の繁栄 MP350→MP315】
【NEXT:威力が上がります】
「10%減ってところか」
「効果はありますが1日2回使うのは無理そうですね」
「もっとLV上げれば使えるようになるかもな。とりあえず次は水属性!」
【水属性のLVが2になりました】
【闇属性、腐食属性、氷属性が派生しました】
【NEXT:消費MPが減ります】
水が派生して闇になるんだ。
深海とかのイメージかな?深海は宇宙並みに謎が多いって言うし。どんな魔法なんだろうな。
逆に氷属性はイメージしやすい。
「氷魔法で食べ物を凍らせて保存とかできないかな?」
「どうせまた7日間吹雪起こすとかそういうのでしょう」
「ヴァウ!ヴァフっワフ!!」
「ゲッカさんは雪崩を起こすに一票ですか」
「効果の想像するの俺の密かな楽しみなんで奪うのやめてくださる!?」
災厄とはいえ、新しい事できるようになるのは楽しいじゃん?
「よし最後だ、創属性に振るぞ!」
【創属性のLVが1になりました】
【災厄魔法 "鍛冶神の三振り"を習得しました。】
【NEXT:消費MPが減ります】
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鍛冶神の三振り 創属性 MP350
近くの素材を使用して武器を生成する。
火属性LVが高い程性能が上がる。
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「他属性のLV次第で効果が上がること魔法もあるのか」
「高度な魔術師は複合属性とかも使いこなせると聞いたことあります」
なるほどね。
さてこの創属性、武器を生成する魔法らしい。
「あんまし災厄っぽくなくない?」
「武器の性能と量が分からないのでなんともいえませんが、戦争の道具を無限に作り出せるのなら危ないのでは?戦争そのものが災厄みたいなものですし」
「そういうやつか」
一度試してみたいけど無闇に武器作るのどうなんだろ?
もし武器の質がよかったりしたら人間の商売上がったりになるかな?別に武器職人とか武器商人にはなる予定はないけど。
残りは4ポイントある。
必要になったら使う感じでいいだろう。
◆
商人と別れて北を目指してから早十日。
これだけ歩けば景色も変わってきた。
雨が多いのか緑が多く、茂った森の中の道を進む。
木漏れ日が気持ちいいな!
ところで案内は当然のようにクローバー任せなんだけど地図も無しに案内してることに違和感覚えるんだけど俺だけかな?
「ゲッカはどう思う?」
「ヴァフゥ?」
便利だしいいじゃんって気にしていないようだ。
出会った頃はクローバーを警戒していたけど最近は普通にじゃれて遊んだり敵から守ってるようになった。仲が良いのは良いことだ。
「それにしてもメロウの住処って遠いんだな」
「海を目指してますから。でも森を抜ければメロウ達の住む海が見えてきますよ」
「やっと到着か!」
こんなに遠いなら車とか自転車欲しいよな。
「移動用のアイテムって無いのかな?」
「大昔には転移装置と呼ばれる移動手段があったそうですが技術はとっくに失われたそうです。魔王領では転移魔法が伝わってるそうですが」
そういえばラバルトゥもワープっぽい魔法使っていたな。
あれ使えれば便利そうなんだけど。
「ヴァウ。ヴァフヴァフッ!」
「お?何かあったか?」
ゲッカが何かに気付いて駆け出した。
追いかけてみると誰かがいるので思わず茂みに隠れる。こんなところに誰だろうと思えばよちよちと這いずる人の上半身に魚の体の少女がいた。
かわいい!人魚の子供だ!
「メロウの子供です。どうしてこんな所に?」
だよな、森に人魚とか普通いないよね。
迷子?1人かな?魔物とか出るし危なくない?
声かけてみよう。
「おーい、そこの……」
「ひっ、ひぇっ、いやああああっ!!」
少女は俺を見るなり顔を青くして叫んだ。
待って、超へこむ。
俺の顔ってそんなに怖い?
「やめて!もうにげないから、ぶたないで!」
「ぶたないぞ!」
「うええええええん!!」
女の子はぽろぽろと涙をこぼす。
「な、泣いたぞどうしよう!?」
「声大きいから怯えさせたんですよ……」
「クローバー、ゲッカ、宥めてきてくれ!」
同性のクローバーなら俺よりマシだろう。
さらに奥の手にゲッカのモフモフもある!モフモフが好きじゃない子がいるだろうか、いやいない。
「ボクだって苦手ですよああいうの……商人から買ったお菓子とかあげても?」
「許可する!じゃんじゃん出せ!」
ゲッカとクローバーがメロウの女の子をなだめて俺は離れておく。
少女のポロポロとこぼす涙が地面に落ちて転がる様は見てて痛々しい。
ん?涙が転がる?
涙が固まって転がった。
……そういう種族なのかな。
商人から買ったお菓子を数個渡してようやく少女は警戒を解いてくれた。
棒付き飴を持ってぺろぺろ舐めながらゲッカのモフモフに抱き着く姿は可愛らしい。
ゲッカがちょっとイヤそうにしてるけど今だけガマンしてくれ。飴のべたべたがイヤなんだろうな。
「で、なんでお前まで飴食べてるんだ?」
「安心して食べれるものだって実演で教えてあげてたんです。ボクが食べたいからじゃないですよ。ええ決して」
……じゃんじゃん出せと言ったのは俺だし功労賞ということでよしとしよう。
ちなみに嗜好品は高級で庶民が食べることは一生のうちに一度あるかないかだそうだ。
メロウの少女はカロンという名前で、魔族にこの辺りまで連れてこられたらしい。
カロンの姉たちがカロンだけでもと逃がしたそうだ。
「オイオイオイオイ人さらいか?許せんな!?」
「カロンちゃん、さらわれた理由に心当たりはありますか?」
「わかんない。でもいっぱいつかまったの」
メロウが集団でさらわれたのか。
クローバーがカロンが落とした涙を拾う。綺麗な石みたいだな。
「人魚の女性が流す涙は人魚の体を離れると硬質化するのですが、これを材料として使う薬もあるらしいので、思いつくのはその辺りかなぁ……アレは……うーん、まさかね」
「まさかって?」
「いえ、眉唾な話を思い出しただけで……にゃあ!?」
考え込むクローバーと俺の間に突如光の塊が放たれて髪を掠めた。
「あぶねぇな、誰だよ!」
カロンを追いかけて来た輩か?それなら遠慮なくぶっとばすぞ!
振り返れば現れたのは人間。鮮やかなブルーの鎧を纏う金髪の女だった。
まだ幼さの残る顔だが凛とした印象を与える。
だが気迫がとにかく凄くて底知れない圧を感じた。
「ヴァフッルルルルル……!」
ゲッカが後ずさり警戒を示す。
そんな気はしてたけどこの女、強いぞ!
「とうとう見つけたぞ!貴様らがメロウを拉致する魔族だな!」
ん?
「我が名は勇者ユーリス!メロウ達の依頼を受け、メロウを救出に来た!」
「えっ」
「えっ」
「ヴァフ」
勇者!?
「勇者って言ってるけどどうすればいい!?」
「こっちが聞きたいですよ!」
しかも俺たちをメロウをさらった魔族と勘違いしている。
これはまず誤解を解かないと。
「待ってくれ、俺たちは魔族じゃない!俺たちは今このメロウを保護したとこで」
「問答は無用!!」
「お前話聞かねぇな!?」
キピテルの時もこんなんだったな!
「ヴァフッ!ヴァウアウアウ!!!」
慌てた様子でゲッカが吠えたてる。
ユーリスと名乗る勇者が剣を掲げ、振り下ろすと剣先から光のビームが放たれた。
「どあーーーっ!!!?」
「ラ……ミトラさん!」
直撃した俺は数メートルほど吹っ飛んだ。
ビームなんてありかよ!勇者なら剣で戦えよ!!
俺が吹っ飛んで木に叩きつけられた間にユーリスはカロンの元へ駆け寄り、膝を折ってカロンに手を指し伸ばす。
「メロウの少女、無事か?助けに来たぞ、もう大丈夫だ!」
「ふえ?」
カロンは首をかしげながら飴をかじっていた。
……この状況で飴を食べるとはなかなか大物だな。
先日20000PV達成しました。読んでいただきありがとうございます。
2章も終盤ですがお付き合いいただけると嬉しいです。