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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
36/163

26.戦う商人

「武器を捨てろ!」


 クロスボウをこちらに向けた商人の1人が叫ぶ。


 隊商は複数台、多ければ10台以上の馬車を率いて荷を運ぶ。

 時に魔物が蔓延る道を()き、荷を狙う盗賊に襲われることも多い彼らは当然自衛する手段を備えている。

 だからこそ彼らはこう呼ばれる。"戦う商人"と。



 俺たちは商人に物を売りに来たのであって敵対したいわけじゃない。ひとまず大人しくしておこう。


「こんな格好なんで賊って思われても仕方ないけどね!賊じゃないんすよ!」

「ボク達丸腰で-す」

「ヴァフ!」


 抵抗の意思がないことを示すためにホールドアップする。クローバーは解体用のナイフを床に落としているし、ゲッカは伏せをしている。

 どう見ても無抵抗で善良な市民!いや怪しい恰好してるから善良な市民は無理があるけど、大人しくしているので事情を説明すれば分かってもらえるはず。


 などと思っていたら矢が放たれた。


「あでーー!?」

「ヴァフッ!」

「ボス!?」


 矢が脇腹に直撃したものの刺さるには至らず棒で思いきり突かれた感じ。刺さらなかったのは俺の防御力が高いからだろうけど突然脇腹つつかれりゃ痛い。


「キピテルさんの矢を受けて無傷!?」


 武装した商人達がどよめいた。

 矢で傷1つつかなけりゃそりゃ驚くよな。いや痛かったんで無傷ではないけど。

 矢を射ったのはキピテルと呼ばれた縞々模様の特徴的なターバンの人物で武装商人の中で唯一弓を使っている。

 周りの反応からしてアイツがリーダーみたいだ。


「まさか刺さりすらしないとは」

「おめーな!!ホールドアップした相手に攻撃とか倫理観どうなってんの!?」

「賊が倫理を語るとは荒唐無稽な話もあるものだ」

「賊じゃないんです!」

「御託はいい。何者だ」


 ターバンからのぞく鋭い目つきがより険しくなる。

 この場に盗賊達が転がってる以上、まだ俺が魔人と知られるわけにはいかない。


 何と答えたものかと迷っているとキピテルが矢を複数本上空に放った。矢の自由落下する速度で矢の破壊力をあげるやつだ。避けられない!


「あだだだだ!コラやめろ!刺さらなくても痛いんだか……」

「正体を隠して攻撃する輩だ、総員余力は考えず攻撃しろ!奴を撃退できなければ次に土に転がるのは我々だ」

「は、はい!」

「ちょっと待て!!?」


 キピテルが右手を俺に向けて突き出せば、商人達が呼応するように一斉にクロスボウを向ける。

 クソ、本格的に攻撃する気だ


「顔を隠してるのはお互い様だろーが!」

「痴れ者め、タグも見えんのか」

「?」


 タグ is 何?


「その人のターバンについている飾りのことです!それぞれ商会と冒険ギルドから発行されてる身分を証明するものです!」


 クローバーが後方から教えてくれる。

 へぇ、あれが身分証になってるんだな。商会と冒険者ギルドってことは商人と冒険者兼業かな。

 ともかくやられっぱなしではいられない。


「仕方ねぇ、無力化させてもらうぞ!」

「ボス、待って、うわ!」

「ヴァルルルガッ!!」


 クローバーを商人達のボウが狙うが間一髪のところでゲッカが噛み砕く。クローバーはゲッカに任せて俺はリーダーを抑えよう。


 向かい来る矢を叩き落しながらキピテルに特攻して目前に迫る。

 狙うは足!でもなく、足元!


「何!?」

「これでどうだぁ!!」


 魔人の力で地面を力任せに殴りつければ地面に大きな窪みができる。

 倒す必要はない、一瞬隙を作ることができればこちらの勝ちだ。


 突然足元が不安定になったことでキピテルが体勢を崩す。そこに掴みかかって押さえつければ完了だ。無論怪我はさせないように加減も忘れない。


 ……とはならなかった。


 掴みかけた俺の手は宙をかく。

 キピテルの背から翼が生え、軽やかに羽ばたいて宙に浮く。


「なに!?アンタ飛べんのかよ!」

「あれは……バードマン!有翼の亜人です!」

「この商会は私のようなはみ出し者も受け入れてくれてな」


 空中を舞うキピテルが辺りに激しい風を巻き起こしながら目前の俺の顔目掛けていっぺんに3本の矢をつがえ、限界まで弓を引いている。



「体は頑丈のようだが顔ならどうだ?」


 舞い散る羽根と砂埃から俺に向けられた矢に風の力が収束していることが分かる。

 だが俺は魔人の耐久力を信じる!


「受けてやる!!来やがれ!」



 放たれた風の矢を俺の渾身の頭突きがへし折った。

 遅れてやってくる風を切る音が耳に痛い。


「……っ効かぬか」

「キピテルさん!!」


 焦る商人たちの驚愕の声を聞きながら、俺が伸ばした手はようやくキピテルに届く。

 羽交い絞めにすれば身動きもとれないだろう。背中側から腕を伸ばしてホールドすれば飛んで逃げることもかなわない。

 そんでゆっくり敵意が無いことを伝えて……、伝えて……。


 ん?

 思ったより弾力がある。


 うーん。



 キャッチ。

 アンド。

 リリース。



「何してるんですか!!?」

「ヴァウ!!?」


 クローバーとゲッカから猛烈な抗議を受ける。

 あの、違うんです。


「いやその、こいつ、女だったから……」

「だから何ですか!!?」


 いや、話を聞かないとはいえ女性に乱暴するのはホラ、人として、いや魔人としてね。ラバルトゥくらい迷惑なことしたら遠慮なく叩けるんだけど。


 キピテルが羽ばたきながら荷馬車の上に着地する。顔を隠していても困惑してる様が見て取れる。

 その隙にクローバーが床に転がした盗賊の1人を抱えて目隠しを外した。


「商人さん、ボク達が攻撃していたのは旅人ではなく盗賊です!こいつの顔見て下さい!」


 そう言ってマーカスの顔を商人達に見せつければ商人達が驚愕する。


「あいつ、手配中の赤刃のマーカスじゃないか!?」

「こいつらまさか赤刃盗賊団か!」


 マーカスは想像以上に悪名高いみたいだ。

 バレた、と盗賊の下っ端どもが苦い顔をしている。どうやら誤解は解けそうだ。


「ボク達は皆さんと取引のためにここに張っていたところ、隊商を襲撃しようとする盗賊達を見かけたので攻撃しました。あなた方に攻撃する意思はありません!」

「取引?」


 落ち着いた女性の声がキピテルの立つ馬車の中から聞こえてきた。


「ゲイン、まだ出るな」

「稼ぎの匂いがするなら火中の栗も拾わなくてはならないでしょう?」


 目が覚めるような鮮やかな赤いコートを着た背の高い女が馬車から姿を現す。

 強調された衣服というわけでもないのに自然と大きな胸に目がいった。いかんいかん。


挿絵(By みてみん)


「腕が立つみたいだけど正体を隠して隊商を待っていたということはワケアリのようね」

「察していただけて助かります」


 赤服の女性がクローバーの前に歩み出る。武装商人のリーダーであるキピテルがすぐ後方に控えることからこの隊商のトップは女性のようだ。


「あたしはゲイン、レギス商会の商人よ。良い話なら聞いてあげるわ」


 レギス商会?クローバーが言ってた商会とは違う名前だ。 

 クローバーがこめかみを押さえる。関係ないけど考え事する時こめかみ押さえるクセがあるんだな。


「レギス、東のシャンガルドを拠点とする商会で間違いありませんか?」

「あら!よくご存じで。ここらではあまり知られてない名前だと思うんだけど」


 マイナーな商会なのかな?お尋ね者の割に相変わらず物知りなクローバーだ。


「挨拶代わりに盗賊の身柄を引き渡しますので彼らのことはご自由にどうぞ。ただし彼らにボクらのことは一切洩らさないようにしていただけますか」

「良いでしょう。みんな、盗賊を馬車の中に入れて。目隠しも忘れずにね」


 ゲインの一声で商人達が盗賊達の縄を引いて荷台に押し込んでいく。戦う商人と呼ばれるだけあって荒事にも慣れているようだ。


「それと商談は少人数でさせてください」

「あたしとキピテルが話を聞く。それでいいかしら」

「問題ありません」


 ゲインが馬車に入るよう促す。

 室内で話そうってことだな。


 俺はこっそりクローバーに話しかける。


「クローバー。目当ての商会じゃないようだけど良いのか?」

「レギス商会は大陸東側ではそれなりに強い勢力を持っているのですが、この辺……、大陸中央での力は強くありません。ボクらを足掛かりにして商圏を拡大したいと思わせましょう。それに」

「それに?」

「亜人を戦闘部隊のリーダーに置く組織です。亜人への偏見や敵意は薄いと見ていいでしょう。ラグナさんも都合が良いでしょう?」

「確かにな」


 儲けになるなら商人は相手を選ばない、とはいえ個人の好き嫌いは当然あるだろう。

 でも商談に同席させるほどにゲインは亜人であるキピテルを信頼している。どうせ長くお付き合いするなら亜人を嫌わない人物であるに越したことはない。


 誰かが聞き耳を立ててるとも限らないのでゲッカに見張りを頼み、俺とクローバーが先に入れば後からゲインとキピテルが入ってきた。


「要望通り場所は整えてあげたわ。それであなた達はどんな話を持ってきてくれたのかしら」


 いよいよ商談だ!

武装商人のリーダーのキピテルは2章8話で出てきたターバンの人物です。

本業は商人で所属も商会ですが、情報収集と隊商で狩った魔物の納品など副次的に冒険者の立場を利用してます。

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