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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
35/163

25.商人を待っていたら違うのが来た

「俺は!いろいろと買い物がしたい!今一番欲しいのは!下着!!」

「ボクのならありますけど」

「いらねーーーーーよ!!!!!」

「冗談ですってば」



 というわけで。

 俺は買い物がしたいです。



 生活していくためにはいろんな物が必要だ。

 魔人である俺は街に行けないから街の外を行き来する商人にコンタクトを取ることにした。

 商人に近づく口実の売り物も用意できたから後は交渉するだけ。


 この日をどんなに待ちわびたか!


「亜人が安心して暮らせる場所を作るためにも商人との伝手は必要だ!気合入れていくぞー!!」

「ヴァウ!」


 ゲッカは今日も元気でこっちまで元気が出るな!

 よし、気合いれるためにモフモフしよう。


 モフモフモフモフ……。


「ん?どうしたクローバー。ゲッカをモフりたいのか?」

「え?あ、違いますよ?」


 何か物欲しそうな顔してた気がするけど違うのか。

 いやまぁクローバー自身モフモフしてるしな。耳とか。


 ゲッカをモフりながら今のうちに知っておきたいことを聞いておく。


「クローバー、商談の前にこの世界で流通している通貨について教えてもらえるか?」

「ああ、目覚めてからお金に触れてませんでしたね」


 流通している通貨は小銅貨、大銅貨、小銀貨、大銀貨、金貨。

 一般の人間や冒険者なんかが宿泊費や飲食にかかる費用の相場を聞くと小銅価が日本の100円相当のようだ。

 小銅貨10枚で大銅貨1枚、小銀貨10枚で大銀貨1枚の価値。

 

 小銅貨=100円

 大銅貨=1000円

 小銀貨=10000円

 大銀貨=100000円

 金貨 =1000000円


 大雑把だけどこのくらいかな。

 ただし通貨は基本的に人間の街で使われるもので、小さな村や亜人の間では物々交換が主流だ。


「ありがとう大体分かった。……ところでさっきからどうした?」


 クローバーがそわそわしてる。


「べ、別に」

「ヴァウ!」

「ニャ!何ですか!?」


 ゲッカが飛び出してクローバーの首元を引っ張って俺の元まで連れてくる。

 たし、と前脚をクローバーの頭にのっけた。

 クローバーの顔が赤い。


 ……。

 あ!分かった!


「なでて欲しいんだな!」


 わしゃ、と頭に手を乗せる。


「う、そのっ……も、もっと、優しくお願いします!」


 この間撫でたのがお気に召したらしい。

 それならもっと撫でていこう。もう実質ウチのネコみたいなもんだし。


 リクエスト通り優しく撫でると大人しくなった。

 耳の付け根が好きなようで、ゆらゆら揺れる尻尾がかわいらしい。

 撫でながらそれはそれとして気になる事を聞いてみる。


「ところでクローバーってお尋ね者のわりにやけに人間の事情に詳しいな?どこで知ったんだ?」

「ん~、ネコのヒミツです」


 リラックスしてる今なら教えてくれそうな気がしたけどダメか。

 仕方ない、話題を変えよう。


「隊商ってどこに行けば会える?」

「んん……。隊商が行き来する道で待つしかないですね」


 うん?いつ来るか分からないのに?


「それ時間かからないか?確実でもないし」

「フフン。ベクニア商会の隊商が数日前ドワーフの集落を発ったので遅くとも明後日までにこの道を通るはずです。あ、ベクニア商会というのは大陸(アバンドナル)2番目の規模の大商会でして」

「クローバーの情報網、何かと都合よすぎて却って心配になってくるんだけどどうやって調べてるのか種明かしして欲しいんだけど?」

「ダーメ。ネコのヒミツです」


 くそ、こゆとこかわいい。ネコの強みを理解(わか)っている。

 真面目にクローバーの情報収集スキルの種は知っておきたいんだけどな。



 ◆

 

 

 というわけで隊商を待つことにした。

 街道で待機して通りかかったら呼びかけるだけの簡単なお仕事だ。

 

「ボクらはお尋ね者なので隠れておきましょう。冒険者とかはスルーですよ」

「なんか盗賊になった気分。あ、なんか大勢の足音がする!隊商かな!?」

「え、それにしては早いような……」


 俺たちは息を潜めて耳をすませた。


「お(かしら)、やっぱここらが穴場ですね!」

「おう。ここらはドワーフとの交易を済ませた隊商の通り道だ。武器にしろ金にしろ奪い甲斐があるってもんだぜ」


「……あれは盗賊では?」

「まぁ、狙いが被るとこういうこともあるわけですよ」


 そう言ってクローバーはため息をつく。

 逆に考えれば盗賊が張るくらい良い場所なんだろうけどなんでよりによって今来るかな。


「どうする?あいつらを倒すだけなら問題ないと思うが」

「ちょっと待ってください。あの盗賊どこかで見た気がして」


 クローバーがこめかみを押さえて考え込んでいる。


「思い出した!あの盗賊、賞金首の赤刃盗賊団のマーカスです!捕まえて隊商への手土産を追加というのはどうですか?どうせボクらは街に行けないので隊商に引き渡すしかありませんし、何よりあそこにいられるのジャマですし」


 街に行けない俺たちには縁の無い話だけど賞金稼ぎを捕らえれば高額の報酬が出る。

 商人達なら喜んで引き取ってくれるだろう。


「いいなそれ、のった!」

「ヴァウ!」


 ただし盗賊に俺たち自身がお尋ね者とバレるわけにはいかない。

 というわけでクローバーに変装できそうなものを出してもらった。


「古いローブがあります。あ、頭部を隠せる兜もありますね」


 顔を隠そうと兜をかぶるとぴったりだ。クローバーも獅子舞みたいな面をかぶる。


「でもこのローブ短くない?」

「ラグナさんの背が高いんですよ。人間の一般男性サイズですよそれ」


 背が高くてすまない。

 ……せっかくローブ来てるのに微妙に腰布の中見えそうでヤなんだよな。


「ヴァウ!」


 ん?ゲッカも変装したいって?


「ゲッカさんは別にいらないと思うんですが」

「せっかくだし皆でやろうぜ。ゲッカがつけられそうなのは無いか?」


 皆でやった方が楽しそうだしな。することは盗賊退治だけど。

 クローバーが骨の被り物を取り出したのでゲッカにかぶせてみる。

 おお、いいじゃないか。なかなか正体不明の集団になったんじゃない?


 ……。

 

「これ傍から見たら俺たち、盗賊以上の不審者なのでは?」

「仕方ないでしょう有り物での変装なんですから。さっさと行きましょう!」

 

 そうだな、盗賊に俺たちの正体がバレなきゃいいだけだ。

 ノーム達にもらったロープと目隠し用の布があるからこれでさっさとふん(じば)ろう。準備万端、行くぞ!


「お尋ね者マーカス!お前を捕らえに来た!」

「チィッ!何者だ!?」


挿絵(By みてみん)


「……。いや、何だお前ら??」


 盗賊達がフリーズする。

 だがリーダーのマーカスの言葉にすぐに皆我に還る。


「ボサっとするな、敵襲だ!」

「たった2人で何ができる!やっちまえ!」

「ヴァウヴァウ!」


 ゲッカが3人だ!て怒っているな。ゲッカを頭数に数えなかったこと、後悔するぞ。

 魔人デコピンで無双だ。やりすぎないように軽めにね。


 捕まった盗賊は奴隷になるか強制労働が課せられる。そのため健康体であれば引き渡しの際に多めの報酬が出るからなるべく無傷で渡したい。俺が言うのもヘンだけど悪いことはできないな。


 ゲッカが次々と盗賊達の武器を跳ね上げてクローバーが収納魔法で武器を回収すればあっという間に盗賊の無力化に成功だ。


「犬如きに何遅れをとっているんだ!!」

「でもお頭、この犬とても素早くて……あっ俺の武器!返しやがれ!」


 目の前で武器を奪われる手下にマーカスが強面を怒りに染め上げた。

 そして赤い大剣と利き腕を見せつける。魔片持ちだ!


「この豚野郎共が!俺を赤刃のマーカスと知っての……」

「そーいうのいいから魔片よこしな!」

「「「おかしらァーーー!?」」」


 デコピンで吹っ飛んだマーカスは岩壁に叩きつけられて動かなくなり、下っ端盗賊達の叫びがこだました。






「縛りあげましょう。ボスが縛ると怪我させてしまいそうなので抑えてくれればいいです。縛るのはボクがやります」


 俺が魔人だとバレるわけにはいかないので、クローバーは俺をボスと呼んでいる。……ますます俺たち盗賊っぽいね。

 でも思わぬところで魔片も回収したし幸先が良い。


 クローバーが後ろ手に縛り上げ目隠しをしていく。往生際悪く逃げようとする盗賊はゲッカがおしおきだ。

 盗賊が次々床に転がされ、最後は気絶したマーカスの番だ。



「ん?何か音が聞こえてこないか?」


 盗賊に夢中で気付かなかったけど、獣が走るような音。

 馬車の音かな?荷台を引いてるのは馬じゃなくて魔物だけど。


「お、お前達、そこで何を!?」

「へ?」


 8台ほどある馬車が止まり、そのうち2つの馬車から武装した人間が出てきた。

 異変に気付いたクローバーが固まる。


「あれは、隊商ですね……」


 このタイミングでかよ!


「あー……俺たちは怪しいものじゃなくて」

「その格好で怪しくないと言うのならこの大陸に怪しいという言葉は存在しないだろうな」


 ターバンで目元以外を隠した鋭い目つきの戦士が油断なくつがえた弓をこちらへ向ける。

 他の武装兵達もそれぞれ武器を持ち出してる。


 参ったね、否定する言葉が見つかりません。


 そう、俺たちは盗賊以上に怪しげな格好で道の真ん中で盗賊達を縛り上げている。

 盗賊達の武器になりそうなものは全て回収してしまったので、傍から見ると俺たちが丸腰の人を襲っているように見えてもおかしくなかった。


「どなたか存じませんがお助けを!オレたちこの不審な賊に襲われたんです!」


 状況を察したのか盗賊が哀れな旅人のフリをするとか余計な事をしはじめてクローバーがあちゃーと額を押さえた。

 こいつら、さっきまで奪い甲斐があるとかそんな話してたのによぉ!


「盗賊に不審って言われたくねーよ!!」

「あだぁ!!」


「よし。なんとか誤解を解くぞ2人とも!」

「ヴァウ?」

「誤解を解く?この不審な格好のままで?」


 ……やるぞ!

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