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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
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22.亜人の居場所

 ゲッカがユニークコアを食べてしまったけどやっちゃったもんは仕方ない。

 クローバー曰く、通常と異なる進化をする以外は影響はないとのこと。その進化が一番気がかりなんだけど今から悩んでも仕方ない。



 裂け目から戻った俺たちはハルピュイアの子供達を里まで送り届ける。いろいろ付き合わせちゃったな。到着した頃には日が暮れていた。


「おー、確かにちょっとジッパーが広がった気がする」

「どや!」


 口でドヤりながらクローバーが収納魔法から肝を取り出す。LVを10くらい上げただけでこうも変わるのか。もっとあげたらもっと大きなもの収納できたりするのかも。


 子供達が帰ってこないと心配していたハルピュイアの大人たちに経緯を説明し、出したばかりのサンドアングラーの肝を分ける。

 感謝したハルピュイア達に名前を尋ねられたので名乗ったら俺が災厄の化身だと大人たちが気付いてひと悶着。……さすがに会う人会う人からこのリアクションされると偽名とか用意した方がいいかもしれない。



「何とお礼を言って良いのやら……。サビドゥリア様を助けたくとも我々ではサンドアングラーを倒すことはおろか近付くことすらできませんでした」


 お礼を言うのは送り届けた少年の母親。


 一目見ただけで魔物の弱点を見抜くスキルを持って生まれたサビドゥリアは人間からも重宝された。サビドゥリアの功績により討伐ランクが下がった魔物もいるらしい。

 スキルに恵まれただけでなく思慮深いサビドゥリアの功績により人間とハルピュイアの関係が改善され、状況・場所を問わずハルピュイアへ危害を加えることは重罪と定められるなど亜人としては破格の保護を受けることになった、それほどの傑物だそうだ。


「たったひとりの功績でそこまで待遇が変わるのはすごいな」

「異例ですし特例ですね」


 そんなサビドゥリアが病のため動けなくなった。

 ハルピュイア達も助けようと奮闘したものの治療には滅多に市場に出る事のない素材が必要だ。


「サンドアングラーってそんなに倒すの大変なの?」

「特異個体の馬をワンパンで倒すラグナさんには理解できないかもしれませんが、Bランクの魔物ってそこらの村を滅ぼす恐れがあるんですよ」


 なるほどね。

 そんな説明を聞いているうちにハルピュイアの女性が肝を使って薬の調合を始めたようだ。『調合』スキルを持っていると質の良い薬が作れるんだって。

 俺も練習すればできないかな?


「ヴァウ、ヴァフヴァン」


 何?何故か薬が爆発するに賭ける?失礼だな。


「あ、ボクも爆発するに一票入れます」

「お前らなぁ!」


 うっ、こら!

 魚焼こうとして火の海にしたじゃんて顔はやめるんだ。

 薪割りでボクの斧粉砕して地面を割りましたよねって目もよせ!

 この話題になると旗色が悪い。


 よし、夜も遅いし今日はそろそろ寝よう。な?


 なんたって今日は泊まっていってくれとお誘いを受けたんです。

 だからね、なんとベッドで寝れるんですよ!そう、ベッドで!!

 

 亜人の住処に泊めてもらうのは初めてじゃないけど、リザードマンは岩場で寝るし小さな穴の中で暮らすノームの部屋で寝るのは無理。


 それが今日はベッド、それもハルピュイアの抜け落ちた羽を使ったベッドを使わせてもらう。

 俺にはちょっと小さいけどふかふか具合は何物にも代えられない。ハルピュイアこんな布団で寝てるのかよ、いいなぁ!


「このベッド欲しい!!」

「ヴァフーッ!」


 寝るか騒ぐかどちらかにしてくださいとクローバーから苦情が来た。



 ◆




 翌日、俺たちはサビドゥリアの部屋に案内された。


「容体悪いって聞いたけどもう大丈夫なのか?」

「話すくらいでしたら問題ないくらいまで回復しました。サビドゥリア様が是非ラグナ様にお礼を言いたいと」

「マジかよ薬ってそんなに早く効くの?」


 プラシーボ効果とかそういうやつだったりしない?

 ほら、水でも薬だと思い込んで飲めば薬になるってやつ。


「……効果が高いから高値で取引されるんです」


 それもそうですね。

 案内された部屋に入ると大柄なミミズクの鳥人がベッドに腰かけていた。


挿絵(By みてみん)


「お初にお目にかかる魔人殿。ワシはサビドゥリア。希少な素材を分けていただき感謝の言葉も御座いませぬ」


 サビトゥリアが頭を下げる。

 なんでも俺が渡した肝がなければもう数週間くらいの命だったそうだ。結構危ないところだったんだな。


「しかし、我々ではいただいた素材に相当する金銭を用意することはできず……」

「別にいいよ。クローバーのLV上げ手伝ってもらったし」


 残った素材だけでも商人と交渉するなら十分なはずだ。無欲ですねぇとクローバーのぼやきは聞き流す。


「サンドアングラーは稀にしか流通しない素材ですが、私たちも一縷の望みをかけて人間の街で働いておりました。我々は空を飛べるため人間に連絡係として雇われております」


 説明してくれたのはお付きのハルピュイア。

 空を飛べるハルピュイアは地上よりも安全に速く街から街へ移動できるから連絡係として重宝されていた。


「人間の街で働く亜人もいるのか」

「しかし我々の立場は非常に弱く、そこに居ることが許されるだけに過ぎません。殺されないだけ他の種族よりは良いですが稼ぎは微々たるもの。仮に市場に肝が売りに出されたとしてもとても購入はできなかったでしょう」


 予想はしていたが亜人は薄給のようだ。


「弱い一族である我々は住処を追いやられこの地へ流れて来ました。ですがこの地で生きるには我々だけでは立ち行きません」


 過酷な土地で暮らしていくためには人間の作る物資が必要不可欠。

 おまけに近年雨が減って作物は育たない。


「この地に限界を感じ、かといって他に住めるところもなく。他の亜人の住む場所を奪えないかとまで思っておりました」

「ぶ、物騒だな」

「そのくらい生きるのが大変なんですよ、亜人(ボクたち)は」


 ただハルピュイアは戦いに向いた種族ではないから実行できたかは怪しいところ。

 リザードマンやノームはシエル山脈に適応したけど皆が皆環境に適応できるわけでもない。


 滅ぶか、場所を奪うかの二択。リザードマンもその二択を迫られてノーム達の水を奪った。

 この世界において居場所を得るということは思ったよりも大変だ。

 それでも。


「俺も住む場所を探してるんだ」


 マイホームを建てて穏やかに暮らすという俺の夢は変わらない。


「もし旅の途中に良さそうな場所があったら教えるよ。気に入ったらお前らも来るといい」


 この世界を知れば知るほど難しい気はしてくるけれど、真面目に良い場所を探すつもりだ。



「……成程。魔人殿はティルナノーグを探しているわけですか」


 ティルナノーグ?

 ピンとこない俺を察したのかクローバーが横から説明する。


「ティルナノーグ、常若の国のことですね。永遠の命と若さを得られると言われています」

「えっ。いや、俺が作りたいのはそんな大それたやつじゃなく」

「つまりどこにもない理想郷って意味ですよ」


 ……そういうことか。


「失礼。皮肉のつもりではありませぬ。我々にとっては安心して住めるところは理想郷に他なりませぬ」


 サビドゥリアがゆっくり目を開く。


「安心して住める場所がある。それは何物にも代えがたい幸福でありましょう」

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