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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
31/163

21.誰も持っていない宝物

 ◆


 そろそろゲッカとクローバーのLVも上がったかな?

 程よく魔物を倒したら戻ってくると思うんだけどどこまで行ったんだろう。

 あちこちで魔物が倒れてるから順調そうだけど。


「おーい、こっちこっち!」

「ん?」


 ハルピュイアの少年に空から手招きされて先に行ってみれば、大きな岩に明らかに異質なものがある。


「なにこれ?」


 岩間に3メートルにわたって空間が裂けて虹色に発光していた。

 いやはやファンタジーな光景だ。


「あの犬とネコ、この中に入ってっちゃった」

「なんでまたこんな怪しいトコに」

「"世界の裂け目"だよ。知らない?」

「裂け目の中には魔物がたくさんいるから近づくなって里の人に言われてるんだ」


 ってことは魔物を求めてゲッカが特攻したのか。


「様子見てくるか。お前たちはここで待ってな」

「ううん、あたし達が引き受けたしごとは最後までやるわ!」

「ぼくたちもいく!」


 少年少女が目を輝かせてる。

 普段行くなと言われてるからこそ行ってみたいって目だな。

 親御さんに禁止されてるところへ連れて行くのは気が引けるけど子供の好奇心はいつだって止められない。

 まぁ、今は保護者()がついてるってことで連れてってやるか。


「分かった、でも俺が逃げろと言ったらすぐに逃げるんだぞ」

「「「はーい!」」」


 元気なのは良いことだ。それじゃ行ってみよう!

 裂け目の光に手を突っ込んでみると水に手を入れたようにとぷりと吸い込まれた。



 ◆



「迷宮みたいだな」


 避け目に入った先は先ほどとは全く違う空間で俺が目覚めた迷宮を思わせる。

 床も壁も岩だから多少整備された洞窟って感じでちょっと味気ない。


 振り返れば壁一面に大きな亀裂が入って発光していて、すぐに光の中からハルピュイア達がころころ転がるように入ってきた。亀裂が出入口になってるんだな。

 後でこの裂け目についてクローバーにも聞いてみるかと思っていると、気持ちが伝わったのか風を切るようなスピードでゲッカが戻ってきた。


「ヴァウ!ヴァウヴァウ!」


 ひとっ走りししたゲッカはご満悦、対照的に背中のクローバーは目に生気がなかった。

 ……口からエクトプラズムみたいのが見えるしそろそろ解放してあげよう。


 LVを確認すればゲッカはLV23に、クローバーはLV26だ。断りを入れずに解析するのはマナー違反と言われたので一声かけるのも忘れない。


「2人とも一気に上がってるじゃないか!」

「あれだけ倒して上がってなかったらサギです……」


 それじゃあ肝心の収納魔法はどうかな?

 ……いや、まだ出さないでいいからまずは虚ろな目を回復させる方に専念しような。


 ゲッカはまだまだ元気そうでハルピュイアの子達を乗せて走り回りはじめる。

 楽しそうにはしゃぐ子供達を眺めながらクローバーにノーム達に貰ったお茶を出してやれば一気に飲み干した。おかわりあるよ。

 

「ここは世界の裂け目だって教えてもらったんだけどどんな所なんだ?」

「世界の裂け目はダンジョンが生まれる前の状態です」

「ダンジョンが生まれる?」


 お茶で回復したらしいクローバーが教えてくれる。

 クローバーは意外といろんなことに詳しいから助かる。


「時折空間にひずみが生じて亜空へ繋がる裂け目ができます。裂け目の最奥(さいおう)には迷宮の心臓部とも言える"迷宮核"があって、これが魔物を(おび)き寄せます」

「誘き寄せる?」

「核に到達した魔物は迷宮の主となり進化します。魔物が現れるのは本能、生存競争でしょうね」


 ここでも進化が出て来た。進化して強くなるのは生命の本能なわけだな。


「迷宮の主が誕生すれば裂け目はダンジョンに変化します。魔魚が触れれば海に、毒虫が触れれば毒沼に。大陸にあるほとんどはダンジョンは裂け目が変化したもので、年間数個から数十のダンジョンが生まれますよ」

「でもそんなペースでダンジョンができればあちこちダンジョンだらけにならない?」

「核を失えばダンジョンは間もなく崩壊します。毎年いくつものダンジョンが冒険者によって踏破され消滅しますよ。迷宮核を持ち帰れば多額の報酬が出ますし」


 ダンジョンを踏破すればエネルギーの塊と言える迷宮核を持ち帰れるし、ダンジョンに蔓延る魔物そのものも金になるからある程度の実力があれば生活には困らない。

 危険にも関わらず冒険者が減らない理由だそうだ。


「迷宮核はダンジョンを造り変えるほどのエネルギーの塊です。国王や領主が一介の冒険者に多額の報酬を支払う程の価値がありますから……商人への手土産が増えますね!」


 八重歯を浮かべて悪戯っぽい笑みを見せるクローバーは可愛らしかった。



挿絵(By みてみん)



「迷宮核も売り物になるのか」

「ええ。それともラグナさん自身が迷宮の主になりますか?ダンジョンの難易度は主の強さに依存しますからラグナさんなら難攻不落の迷宮ができますよ。試しになってみます?」


 えー、難攻不落の迷宮に住む200年前災厄を起こして封印されれた魔人ってそれいよいよラスボスじゃない?俺穏やかに過ごしたいんだけど……。

 いや待てよ、何人(なんぴと)も寄せ付けない難攻不落の迷宮なら穏やかに暮らせるかもしれないな?


「ダンジョンがマイホームか……いやでもここ立地不便すぎない?殺風景だし」

「冗談のつもりだったんですけど……」


 困った顔をするクローバー。

 いやどっちにしても今のところその気はないからね!!



 というわけで、予定変更。迷宮核のために俺たちはさらに奥を目指す。

 道中の魔物はゲッカが先行して倒してくれるからこの分なら楽に最奥に到着できそうだ。

 主が現れていない裂け目はそんなに広くならないとクローバーが言う通り、最奥に辿り着いた。


「でっかい魔物だなー」


 そこは一段と広いホールのような空間になっていて、天井まで届きそうな二頭の馬の魔物が争っていた。


 二頭の魔物の足元には飾り気のない部屋に不釣り合いな台座と白く輝く玉がある。あれが迷宮核かな。

 馬たちがどちらが主になるかで争っているんだろうけど、大きな魔物だけに迷宮核を踏みつぶしそうで怖い。

 さっさと倒すか!


「ヴァウ!ガル!!」

「ああ、俺も見つけたぜ」


 ゲッカが鼻先を馬達の首元に向けている。そこにあるのは赤く光る魔片。


「せっかく来たんだ。迷宮の核、魔片、経験値、どれもおいしくいただいてやるか!」



 ◆



【LV上限が解放されました】


 そこまで広くない迷宮。

 平原ならばいざ知らず、この迷宮では馬の巨体が仇となった。

 天上に届きそうな頭は非常に動きにくそうだったので特に苦労することなく撃破だ。


「迷宮核ゲットだ!」


 台座に配置された白く輝く玉に触れればほんのり暖かい。

 さっそく持ち帰ろうか。


「核を迷宮の外に持ち出せば迷宮は数日中に消滅します。中にある物全て消えるので忘れ物はしないでくださいね」

「ならハルピュイア達に間違っても入らないよう伝えとかないとな」

「お人よしですねぇ」


 迷宮核をクローバーに預けて収納してもらい、それから倒した魔物達を解析してみた。


-----------------

 種族:アールヴァク【特異個体】

 LV:50

 HP:0/1650

 MP:290/350

 速度:136

-----------------

 種族:アルスヴィズ【特異個体】

 LV:48

 HP:0/1690

 MP:152/198

 速度:101

-----------------


「クローバー、こいつら特異個体だって」

「2体ともですか!?ユニークコア入手しましょう!」


 特異個体と知るや否や、先ほどまでの疲れはどこへやらの勢いでクローバーが張り切りだした。

 こら、笑顔でナイフを素振りするんじゃない。ハルピュイア達がびっくりしてるだろ。


「沼でも特異個体のカエルと会ったよな」

「特異個体が通常と異なる進化の可能性を秘めているということは以前お伝えしましたよね」


 沼で教わったな。

 普通の個体と異なる色をしていて通常個体よりも強い。

 そして倒すとユニークコアと呼ばれる素材が取れるとかなんとか。

 

「ユニークコアを持つ特異個体は本来の進化の常識を無視した姿に変貌することがあるんですよ」

「へぇ」


 馬にナイフを突き刺しながら説明するクローバーは後ろでハルピュイアがビクっとしてるのには気付いていないようだ。


 さて、解体の結果。

 白馬のアールヴァクから仄かに赤く輝く白いコア、黒馬のアルスヴィズからぼんやり黄色く輝く黒いコアを回収した。


「うーん、コアの性質までは分かりませんね」

「性質って?」

「コアには属性とか特質といった性質があって、それが進化先に影響するんです。雷属性のコアを持った魔物は雷を操る上位の魔物に進化しますね」


 へぇ、面白そうだ。


「ゲッカもまだ進化できそうだよな。アハハ、お前もコイツが欲しいのか?」


 ゲッカがユニークコアに興味を示してフンフンと匂いを嗅いでいる。


「高LVの魔物ですし、もしかしたら珍しい属性かもしれません」

「カエルの時もだけど、コアを目にするとやけに張り切るなぁ」

「誰も持っていないようなものって欲しくなるじゃないですか。ボクは宝物を探すために旅に出たんです」

「宝物か……」


 黒馬から取り出した黒いユニークコアをかざして眺めてみれば、ランプのようにぼんやり光る。


 クローバーにとって宝物って何だろう、誰も持ってないものってどんなもの?

 お尋ね者になってでも欲しいものだろうか?


「じゃあそっちの白いコアはクローバーの好きにしていいぞ。クローバーの分な」

「え!いいんですか!返しませんよ?」

「LVアップ祝いだよ」

「やったー!ありがとうございます!!」


 花のような笑顔が咲いた。

 LV上げで無理させたし、いつも知識面やアイテム持ちで世話になってるし。ネコミミと尾がぴこぴこ動いている。

 喜ぶ姿は見ていて嬉しい、笑顔は健康にいいな!俺にはイマイチ価値も分からないし。


 いそいそと収納にしまうクローバーを眺めながら黒いコアを手元で転がしているとゲッカがぺろりと舐め始めた。

 おっ、ゲッカも欲しいのか?でもこれは食べ物じゃないぞ。


「ヴァウッ」


 ぱくり。


「あっ」



挿絵(By みてみん)


 ごくんと音がする。

 ……飲み込んじゃった。


 ゲッカは何事もなかったかのようにしてる。

 くあ、とあくびをして脚で顔をかきはじめた。


 ……。


「クローバー。ユニークコア、ゲッカが食べちゃったんだけど大丈夫かな?」

「は?何してるんですか!??」


 クローバーが咲かせていた表情は一瞬で信じられないようなものを見る顔へ変わった。

おまけ。レベルアップしたゲッカとクローバーのステータス。

一気に強くなりました。

-----------------

 名前:ゲッカ

 種族:荒野の若狼 

 LV:23

 HP:531/531

 MP:229/229

 速度:296

-----------------

 名前:クローバー

 種族:ケットシー

 LV:26

 HP:117/117

 MP:459/459

 速度:164

-----------------

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