18.アバンドナル大陸
ノーム、リザードマン達に別れを告げ、俺たちはシエル山脈を後にする。
シエル山脈で作ったジャガイモ、カボチャ、小麦は俺たちが使う分だけクローバーの収納に入れている。足りなくなったらまた増やせるし食糧事情は安泰だ。
ノーム達からは爆裂花の種とロープ、リザードマンから水の模様が施された食器一式をもらった。ノームの作る物は質が良いと言うしお気に入りの食器もできた。
大切に使おう。
「シエル山脈って難所と言われてる割にノームやリザードマン住んでたよな」
風竜とかいたけどあれはイレギュラーっぽいし。
「イワジゴクで命を落とす冒険者が結構いるんですよ。ノームはイワジゴクと生息圏が異なり、リザードマンはイワジゴクをねじ伏せる体格と力があるので問題になりませんが」
「つまりあんな山に住むアイツらが凄いのか」
感心感心。
「住みやすい土地は人間が牛耳っているので、追いやられた亜人は過酷な環境でも住むしかないと言うか……」
あっハイそういうやつね。
「そういえばラバルトゥは魔族と名乗ってたな。魔族ってどんな奴なんだ?」
「そっか、それも知らないんでしたっけ。ではこの大陸と一緒に説明しますね」
そういえば俺がいるこの場所のこともほとんど知らなかったから助かるな。お願いします!
「まずこの世界には魂を持つ存在と持たない存在がいます。魂を持つのは人間、魔族、亜人、精霊。魂を持たない存在で肉体を持つものは魔物、持たないものは亡霊です」
ふーん、俺の魂は空っぽだった魔人ラグナの体に入れられたけど、もし俺の魂が入らなかったら俺の体は魔物扱いされてたのかな?
クローバーは木の板を取り出して地図のようなものを書き始めた。
……うーん。これは。……ラクガキかな?
「さっそく質問」
「何でしょう?」
「絵は下手?」
「……説明は以上になります」
「待った待った!悪かった!イカすユニークな地図じゃないか!」
ほら、現在地とか、どこに何があるか分かるだけでもだいぶ違う。視覚伝達は偉大だ!
脱線させてゴメンナサイ。
クローバーは不服そうにしつつも手書きの地図を指さした。
「ボクらがいるのがアバンドナル大陸。この大陸の北東側を人間が、残りの南西側を魔族が支配しています。そして亜人は人間領や魔族領にお目こぼしの形で小さな集落を作って暮らしています」
人間の勢力圏がかなり大きいな。大陸の5分の3を占めている。
それだけに亜人の肩身の狭さが目立ちますね。
「人間と魔族の仲は最悪で基本的に出会えば殺し合いですが、大陸最大のリティバウンド山脈を越える必要があるため大規模な戦争は滅多に起こりません」
「ラバルトゥがもうすぐ魔王が生まれるって言ってたけど、魔王が現れるとどうなるんだ?」
魔王が生まれると大変なのでは?世界が危機になったり。
「どうって……特に何も。よく現れては殺されますし」
「え、そんな軽く済まされるもんなの」
「魔王によって政策なんかもコロコロ変わると聞いたことあります。絶対王政ですから」
絶対王政って王が絶対的な権力を持つやつだな。
なんとなく無法地帯かと思ってたけど魔王が政とかやるのか。
世界の半分をお前にやろうとかそういうのやったりしないの?
世界どころか大陸の半分も支配できてない?そうだね。
「魔王が死ぬと大勢の魔王候補の中から王のスキルに目覚る者が現れて新たな王になります。逆に人間側も毎年勇者のスキルを持った人間が生まれるので成長したら魔王討伐に行きます」
「……勇者も魔王もスキル持ってたって理由で戦ったり国治めるの?」
それ結構罰ゲームじゃない?魔人に転生した俺が言うのもあれだけど。
「魔王は配下を人間領に送り、送られた魔族が現地で魔物を操って人間領を襲います。ラバルトゥがやったことがまさにこれですね。逆に勇者の狙いは魔王の暗殺一本です。といっても道中で魔王の配下と戦いますが」
「暗殺て」
勇者が暗殺か。魔族側とか第三者目線で見れば確かにそう言えるか。
「勇者と魔王の戦いとか巻き込まれたくねーな、近寄らんとこ」
「いえ、200年前に人間領で勇者8人、魔王領で魔王と30人の魔王候補を魔人ラグナが倒すなど大暴れしたので双方から狙われると思いますけど……」
「昔の俺ーーーーーーーー!!!!!!!!」
そんな感じでこの世界について教えてもらいながら進むこと1日。
俺たちは目的の荒野にたどり着いた。
「ここがロス・ガザトニアか。ここにサンドアングラーがいるんだな!」
荒涼の風が吹きすさぶ寂し気な場所で、険しい崖や鬱蒼とした森に囲まれている。
こんな殺風景なとこ、さっさとサンドアングラーを捕まえてオサラバするに限る。
「ところでラグナさんは商人から何を買いたいんですか?」
そりゃあもちろん。
「下着と服!!」
「露出狂に服がいるんですか!?」
「よーしゲッカ、今からこの小生意気なネコを懲らしめようと思う」
「ヴァウ!」
「うわ、ウソですウソです!ひ、やめっ!尻尾はダメです!ちょっと、ホントにダメですってば!」
ゲッカに追いかけられクローバーが逃げ回るけれどゲッカのスピードに敵うはずもなく早々にギブアップする。
ゲッカも本気で攻撃する気はないけれどステータス差がありすぎるからな。
尾が弱点のようで長い尾を必死に抱えて守ってるしゲッカも執拗に尾を狙っている。
ネコの尻尾は脊髄と繋がっているから引っ張るとすごく痛いって聞いたことあるな。あと尻尾の付け根は性感帯なんだっけ。
……。
「おーいゲッカ。その辺にしといてやれ」
呼びかければふさふさの尾を揺らしながらゲッカが戻って来た。
一方でクローバーは涙目で睨んでくる。
いやそんな目で見られても、露出狂とか先に言ったのはそっちだし……、分かった分かった。尻尾には触わらないようゲッカに言っとくから。
仕切り直し。
買いたいものか、そうだな。
「ベッドと枕がほしい!」
快適な睡眠は大事だ。
「枕はともかく旅をしているのでベッドは現実的ではないですね」
「ゆくゆく俺が手に入れる予定のマイホームには必要なんだよ。でもまぁ当分は寝袋とか毛布らへんだな」
「風を凌げるテントもあればいいですね」
クローバーは1人用のテントを持っているけど俺は持ってないしな。
いつまでも野ざらしで寝るのはちょっと。あとテントってなんかワクワクする。
「商人といえば、胡椒はどうします?」
「今ある分でも売ったら儲かりそうだな」
「現実的な戦争はもちろん、経済戦争も起こせてしまいそうな量ですよ」
どうあっても俺は戦争を起こすタチなんだろうか。
ミスリルと同じ重さで交換される胡椒、今持っている分を売ればいくらになるんだろう。
「ボクらの手に余りますし、いっそ焼き払った方が良いのでは」
「えー!せっかくMP使ったのに!あっそうだ、クローバーってお尋ね者だろ?もし捕まったら胡椒渡せば釈放されるかもしれないぞ。持っとけ」
クローバーがポカンと口をあけ、しばらくしてゆるりと首を振った。
「ラグナさんのものでしょう」
「危ない時なら勝手に使っても怒らないって」
もう2週間ほどの付き合いだ。クローバーには知識面でいろいろ助けてもらってる。
お尋ね者のクローバーが人間に捕まればロクな目に合わないことは目に見えているけど、巨万の富に匹敵する胡椒を渡せば見逃してくれるかもしれない。
「……万が一の時は考えておきます」
俺が傍にいれば人間に襲われても返り討ちにする気ではいるけど、いつか来るかもしれない時へのお守りとして持っておけばいい。
万が一なんて無いようにするつもりだけどな。
当分は胡椒は卸さないことにしよう。
もしもの時のための切り札を今から売って価値を下げては意味がない。
「さて、欲しい物を考えるのは楽しいけど、まずは商人に売りつけるものを用意しないとな!」
「ヴァウゥ!」
さぁ、サンドアングラー捕獲ミッション開始だ!
2章折り返し地点まで来ました。お付き合いいただきどうもありがとうございます。