17.災厄の終わり
ギガントゴーレムを倒しラバルトゥも去り、最後のダムも完成した。
魔法を放ってから7日。
水の災厄六夜の洪水は静かに収束していった。
もう大丈夫そうだし撤収するかと用意してもらったリザードマンサイズの椅子を片付けていたところに報告が来た。
「超大型モンスターが出ましたッ!」
「何だって?」
またラバルトゥの妨害か?
いや魔法が収束した今来ても効果は薄いか。
「いや既に倒してます。大きいだけで強くはなかったので報告だけしようかと」
「そりゃ良かった。怪我人は?」
「ナシです。現れたのはビッググローフロッグ。水を求めて来たようで強い魔物ではないですがノームが潰されかねなかったので討伐しました」
フロッグ、どこかで聞いたことあるな。
「ビッググローといえば非常に珍しく美味な魔物ですよね!」
クローバーが目を輝かせている。ラバルトゥの襲撃以降元気がなかったけどようやく調子を取り戻してきたようだ。
でかくてウマいとはいいヤツを倒したな。
「突然超大型モンスターが現れた原因ですが、近場に栄養価の非常に高い野生の実が群生した形跡がありました。おそらく果実を食べ尽くし進化したのではないかと」
「「……ああーーーー!!!」」
「ヴァウウ!!!」
「うおッ!?」
フロッグ!イチゴ!俺たちが放置してたゴルファフロッグだ!
あいつ無事だったのか!いや討伐されたけど。
「質の良い栄養を取り続けることで進化する魔物もいますから、そのパターンだったのでしょうね」
ということでゴルファフロッグ改めビッググローフロッグの肉は今日の夜の工事成功の打ち上げで振る舞われるらしい。
カエルはダメになったけど皆喜んでるし良しとしよう。
◆
「さてノーム及びリザードマン諸君。いろんなトラブルがあったけどまずは健闘を称えたい!よく頑張って戦い抜いた!」
山の民から歓声が上がる。
今日はリザードマンの里で打ち上げだ。
初めて来た時は水が枯れて寂れた里だったけど水路に流れる透き通った水が月明かりに照らされて見違えるほどに綺麗な里になっていた。
食事は大きくて美味しいカエルの肉に、俺が増やした芋。
それからノームとリザードマンのに頼まれて増やしたカボチャと小麦を使ってカボチャ料理やパンも振る舞われた。
スイカをダムの水で冷やしておいたのでスイカ割りをやろうと提案。
誰もスイカ割りを知らなかったので俺が手本を見せようと拾った長い棒を構え……たところで沼を割ったことを忘れていないゲッカとクローバーにより全力で止められたので参加ならず。
リザードマンとノーム達が楽しんでいたので良しとしよう。
ラバルトゥが化けていたリザードマンは初めからそんな奴はいなかったらしい。
長老の側近にも関わらず誰も違和感を覚えない程の洗脳を一族ごとかけていたのではないかとクローバーが言っていた。
「あれだけひとがいて誰もダムの満水予想時間の報告を疑わなかったのも今思えばおかしいですね。違和感を抱くこともなく潜り込み、そうあるのが当たり前だと思い込ませる。そういった力に秀でているのでしょう」
ラバルトゥの能力は変身、洗脳、ワープ、魔物の召喚、影を操る魔法らへんか。めっちゃ厄介だからできれば逃がさず捕まえておきたかった。
そんなことを考えながらカボチャを食べているとノームの長エアルスとリザードマン長老のサイプレアが揃って挨拶にやってきた。
「魔人殿、一族を代表して礼を言いたい。我ら一族だけでなく、この山を解決していただいたこと、心より感謝する」
「感謝の念に絶えぬ。我が一族、魔人様の御身に何かあれば必ず駆けつけ力になると約束しよう」
「礼は受け取るけど災厄を退けたのはお前たちだ。誇ってくれよ」
水はこの魔人の体の力だけど、水を克服したのはノームとリザードマン達だ。
「ラグナ様、オレからも良いでしょうか」
「よぉウィトル。ギガントゴーレム退治の指揮取ったんだってな」
次に来たのはリザードマンを指揮してギガントゴーレム撃破に貢献した黒リザードマン。
ギガントゴーレムのコアを解析してみるとLV52の強敵だった。大きな被害を出さずに倒せて何よりだ。
「皆の協力とノーム達の技術があったからこその勝利ですッ」
ウィトルはこれからサイプレアに代わりリザードマンを率いていくが、ノームとの共生を考えているそうだ。
ノームがリザードマンに従属する形だけど、ノームに手を出せばリザードマンとも戦うことを意味することを対外に知らしめるためで、関係はあくまで対等でありたいと。
ノームもまた守られるだけではなく物を作ることでリザードマンに協力できる。
これまで家1つ分の岩を掘るのに時間がかかっていたけど爆弾があれば飛躍的に効率が上がる。
この世界は隣人を認めない世界だという。
でもリザードマンとノームはきっかけさえあれば互いを認め合って共存ができることを教えてくれた。
「それとこれ。ギガントゴーレムが落としましたッ」
「お、魔片」
ギガントゴーレムが付けていた魔片だ。多分ラバルトゥが襲わせる時に付けたんだろうな。
これがあればまた新しく魔法が使えるようになるけど。
「ウィトル達が倒したゴーレムが落としたやつだし、お前らが使えよ」
「何故!?ラグナ様の力が込められた欠片ですッ」
「1つくらいなくてもどうってことないさ」
「しかし!」
「これからお前はリザードマンだけじゃなくて、ノーム達も守るんだろ?力だって必要だ」
またラバルトゥみたいな奴が悪さしないとも限らないしな。
そう伝えるとウィトルは暫く考えるように目を閉じて……片膝をついた。
忠誠を誓う騎士のようだ。
……。
聞きたくないけど一応聞くね。なにしてるん?
「オレの力はこの山を守るためにある。しかし、オレの魂はラグナ様のものですッ!」
「なんだよいきなり」
いきなり熱烈なプロポーズされたんだけど。
なんだなんだと周りのノームやリザードマンが様子を見てくる。
「どうかオレをラグナ様の眷属にして欲しいッ。いや……物事には順序があるので今は諦めますが、いつか!オレを眷属にして、オレの力と技の全てを使ってくれッ!」
え。待って、なにこれ。
ちょっとクローバー来て。助けて!
クローバーは思い切り顔を背けてイモ食って知らんぷりキメている。
どこからか聞きつけたノーム達も次々忠誠を誓いはじめた。
そんな大層なモンじゃなくて、俺はただみんな仲良くなればいいと思ってだな。
うわどんどん増える。人だかりができてきた。
ええい、散れ、散れ!
◆
忠誠ムーブが終わり宴もたけなわ。
俺、ゲッカ、クローバーは再び3人で集まる。
「この山はこれでひと段落だな!良かった良かった」
「まさか十日以上足止め食うとは思いませんでした」
魔片もあげてしまうとは、と呟くクローバー。
「まだ言ってるのか。魔片1つ2つなくても変わんないって」
「その1つ2つで争いは起こるんですが」
「そのうちまた手に入るさ。それより見ろよ。ノームとリザードマン、種族を超えて協力して、災厄に勝ったんだぜ」
「ハイハイ、違う種族が手を取りあうなんて無理だと思っていたボクの負けですよ」
「ヴァン!!」
ゲッカが元気に吠える。
ゲッカも本当に頑張ったな、ノームを乗せて走りっぱなしだったし。
それはそうと何を齧ってるのかな?ゴーレムコアの破片?
やめなさいどう考えてもそれ食べ物じゃないだろ!
それにしてもだ。
水で満たしたから暫くは大丈夫だろうけど雨が降らないという根本的な問題は解決していないんだよな。
「なんで雨が降らないんだろうなー」
「天気まではどうしようもありませんよ。仮に魔法で雨を降らせられたとしても、必要になったら都度この山に来るんですか?現実的ではありません」
確かに、今の俺にこれ以上できることはない。
「ところで明日から当初の予定通りサンドアングラー探しに戻るけどカエル食べちゃったしどうする?」
今食べてるのがまさにサンドアングラー探すために用意したカエルなんですよね。
贅沢にもイチゴを食い続けたカエルの肉おいしい。肉食動物より草食動物の肉の方がおいしいっていうよね。
「要するに、大きな音や振動で怪魚をおびき寄せられればいいんです」
「そのためのカエルだよな」
「魔法もなしに地面を割れるラグナさんがいれば何とかなるかなと」
……そうだね。
それならどうにかなりそうだ。
商人と伝手を作るためだ。
「明日からも頑張るぞー!」
◆
魔人が去った後。
リザードマンの里では多くのリザードマンが今日も水を浴びて過ごしていた。
いつもより暑い日で、だからこそ水が心地よい。
「ジネヴラの尻尾も順調に再生してきてるな。よかったじゃねぇか」
「たりめーよ。オレ様の生命力舐めんなよ」
「で、あの飾ってある尾は何のつもりだ?」
尾は再生するとはいえ尾を切られることはリザードマンにとっては恥である。
かつて強敵から一目散に背を向け尾を切ってまで逃げ伸びた戦士がいた。
"なんて情けない話。こうはなるな、お前達は勇敢な戦士になれ"と幼少の頃から聞かされる。
だがこの男は誇らしげだ。
「ありゃな、このオレが魔人と勇敢に戦った際に切れた尾なんだよ。もちろん逃げ傷なんかじゃないぜ」
「!!?」
「オレは尾で攻撃したが、魔人は難なくオレ様の尾を受け止めた。尾を掴まれたオレは剣で魔人に斬りかかったんだが吹っ飛ばされてな。その時魔人は俺の尾を掴んだままだったせいで尾が切れたんだ。ヘッ、あの魔人が手放さなかった尾だ。名誉の負傷ってヤツよ」
「ジネヴラにいちゃん、あの魔人さまとたたかったの!?すごおぉぉい!」
子リザードマン達から憧れの眼差しが向けられる。
里を救った恐るべき魔人。
彼の災厄に臆せず戦った結果を恥などと呼べようか。
「ずるいぞ!たまたまお前が門番やってただけじゃねーか!」
「デコピンでやられたくせにイキリやがって!大体オレだって食らったんだからな!」
「うっせぇ!てめぇらは小指だったじゃねぇか!オレは人差し指!オレが一番デカい攻撃食らったんだよ!」
騒ぐリザードマン達をウィトル遠巻きに眺めていた。
騒がしいけれど嫌ではない。右手の甲には赤々と魔片が輝いている。
(救われたこの山の命、命に代えてもオレが守ってみせる)
この大陸の一部でささやかに、けれども確実に。ラグナは運命を変えた。
その第一歩だった。
山での出来事簡易まとめ。
ラグナ達オオイワジゴク退治した後風竜に襲われてノーム達の洞窟へ落下。
0日目 リザードマンと話し合い。工事の計画が進む。
1日目 ノーム達は爆弾関係作業開始、リザードマンは現地と水回りの調査。ラグナ芋づくり。
2日目 瓶1つ完成。2、3個目着手。ラグナ胡椒つくっちゃった。
3日目 瓶2、3個目完成。ラグナがスイカ作る。
4日目 洪水開始。追加工事開始。
5日目 満水予想が外れたと気付く。この時点でじわじわ魔物の妨害が増える。
6日目 露骨な妨害で工事が遅れる。ラグナ、戦闘準備指示。
7日目 ラグナ水を蒸発させて満水を遅らせる。ギガントゴーレム、ラバルトゥ襲来。
8日目 追加の瓶2つ完成。ラグナカボチャ作り。
9日目 追加の瓶さらに2つ完成。ラグナ小麦作り。
10日目 巨大カエル討伐。打ち上げパーティ。
11日目 ラグナ達出発。