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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
25/163

15.山の民の戦い

 ◆7日目、洪水から4日目


 最初のダム2つは満水、3つ目も間もなくいっぱいになる。

 本来ノームとリザードマン達なら間に合うはずだった。

 でも計測ミスと魔物の襲撃が来たからそうも言ってられない。


「危ないから離れてろよゲッカ!」

「ヴァウッ!」

「行くぜ、"嘘つきの炎(ロプトフランマ)"!」


 初めて覚えた災厄魔法。

 料理しようと思ったら一面火の海&食材を消し炭にしたこの魔法を再び使うことになるとはな!


 "嘘つきの炎(ロプトフランマ)"は術者の視界の範囲を火の海にする火の魔法。

 この炎の災厄を、"六夜の洪水(エアモンストゥルム)"にぶつけることで水の勢いを削ぐ!

 目には目、災厄には災厄だ。

 

 魔法を放てば眼前に山頂を覆う程の大きな炎が現れてこの世の終わりのような光景を生み出した。熱が水を一気に蒸発させ、待機しているリザードマン達が圧倒される。


「よっしゃー!ここらの水を全部飛ばすつもりで頼むぜ!」


 水を蒸発させて水位を下げれば下流で工事する時間が稼げるはずだ。


「……水位が急速に下がってまス!」 


 紫リザードマンが報告する。 

 よしよし、これで下流の時間稼ぎはできるだろう。


 その時突然崖下の下流から轟音が響いた。


「あ!?今度は何!」

「報告です!3つ目のダムにてギガントゴーレムが出現!!」

「ギガントぉ!?」


 ギガントゴーレム、名前からしてゴーレムの上位種だ。

 崖下を確認すれば巨大な岩人形がダムに向かって歩いている。


「あっあんな奴、数人じゃ相手できねぇ!加勢に行ってきます!」

「おいらも行く。あんなデカイ奴下の奴らの手にゃ負えねぇ!」


 リザードマンが次々と武器を手に取り駆け降りていった。


「……魔人様は行かれないのですカ?」


 計測していたため後れを取ったプレクシが武器を取りながら声をかけてくる。


「行きたいのは山々だけど」


 ここを離れるわけにはいかない。


「満水予想時間の大きなズレ、爆弾運んでる時に炎を持って現れるオーク、今日を耐えればどうにかなるってタイミングで現れるゴーレム。あまりにも露骨な妨害だと思わないか?」


 俺の言葉にプレクシが口角を上げた。


「ところで満水予想時間出したのはお前だったよな。プレクシ」



 ◆

 


 ラグナが炎を起こした頃、下流では突然現れたギガントゴーレムの登場に騒然としていた。


「なんでだよ!ゴーレムがこんな山に現れるはずがねぇ!」

 

 その言葉通り、ゴーレムは古代遺跡などに現れる命なき人形で山に出現する魔物ではない。

 だが現にゴーレムの上位種、ギガントゴーレムは目の前まで迫ってきている。


「昨日のオークといいなんなんだよ!」


 だがギガントゴーレムはリザードマンには目もくれず、ダムに身を落とす。

 狙われなかったことに安堵するが、ノームの長エアルスが叫ぶ。


「いけない、ギガントゴーレムの狙いはダムだ!水中でダムを破壊して決壊させる気だ!!」

「クソッタレが!」

「ゴーレムを止めるぞ!オレに続けッ!」


 ウィトルの号令にリザードマンが次々に水中に潜っていく。

 一方でエアルスがノーム達に指示を出す。


「我々にできることをする。相手は土人形だ!アレを持て!」

「はいー!」


 ゴーレムは呼吸といった生命活動を必要としないため、水中だろうが毒沼だろうが場所を選ばず破壊行為が可能だ。

 体のどこかにあるコアが破壊されない限り動き続けるし傷をつけても自動修復する。


 幸いラグナから戦いの準備をするよう伝えられた彼らは各々が得意な獲物を持って来ていた。

 リザードマン達が水中で次々とギガントゴーレムを攻撃する。


(硬すぎる、コアが見つからない!)

(よりにもよってこのゴーレム、魔片持ちじゃねぇか!)


 ゴーレムの腹部には赤い石が輝く。

 間違いなく強敵だがここで破壊を許せば大量の水が一気に下流へ流れ込み、自分達の集落が危険に晒される。


 止めなければならないと分かっているが、このゴーレムは硬すぎた。

 浮力のある水中ではゴーレムへの決定打が与えられず焦燥が加速する。


(どうすればッ)


 ウィトルは思案しつつも一度呼吸のため水面に戻る。

 

「リザードマンーー!」

「ッ!?」


 水面に顔を出したウィトルはソプラノの声に反射的に振り向いた。

 手を振るノーム達と大砲を見て彼はすぐに察した。


 続いてウィトルが号令をかける。


「同志達ッ!ノームが大砲を用意している!オレ達でギガントゴーレムを引き上げるぞッ」 


 ノーム達の爆弾の威力はこの数日で何度も見てきた。

 山を切り崩した爆弾ならゴーレムも砕けるが、爆弾は水中では使えない。


(だったらオレ達が引き上げる!)


 水中のギガントゴーレムはダムの破壊を最優先に行動している。

 ゴーレムの巨大な腕が振り下ろされるたびに地響きが走る。


 リザードマン達がゴーレムに尾を巻き付け引っ張るが、力の入りにくい水中でギガントゴーレムが簡単に引き上げられるはずもない。


 ゴーレムが腕を振り払えば直撃したリザードマンが口から大量の空気を洩らす。

 近付くのは危険だが近付かなければ引き上げられない。


 ウィトルがギガントゴーレムに近付こうとした時、何かが大量に落ちてきた。

 細くて長いそれを咄嗟に掴む。

 

(ノーム達のロープか!)



 ◆



 戦う準備をするよう伝えられた時、ノーム達は自分達が戦力にならないことは分かっていた。


 それでも手助けならできるかもしれない。

 自分達が作ってきたものが役に立つかもしれないとロープや爆弾、大砲を持ってきた。

 どれも手先の器用なノームによる自慢の道具だ。


「ありったけのロープをリザードマン達に渡せー!大砲に爆弾を詰め込めー!今使わないでいつ使うー!」

「よし、いつ来ても撃てるよう大砲を向けよ!」


 エアルスが指示を出す一方、何本ものロープをギガントゴーレムに巻き付けてリザードマン達は水面を目指す。

 ゴーレムが暴れるものの大量のロープが巻き付いている上、地に足がつかず動くこともままならないようだ。



 ウィトルは東の川を大岩で堰き止めた日を思い出す。ノーム達はあんなに小さな体だがその気になれば爆弾で岩を壊すことも、自分達を攻撃することもできた。

 そうなればこの山に流れるのは水ではなく血だったはずだ。


 ノームと協力することが不思議だった。関わることはないはずの隣人と共に戦う日が来るとは思わなかった。


 水面まで泳ぎきったリザードマン達が次々と顔を出し陸に上がる。

 地上の方が踏ん張りが効く。

 三方向から綱引きのようにロープを引く。

 元より大柄で力のある種族、大勢ならギガントゴーレムにも負けはしない。


「ロープを引くぞッ!!せーのッ!!」


 ゴーレムの巨体が水面に引き上げられる。

 ウィトルはふとこんな頑丈な縄を小さなノームが作れるのかと感嘆した。


挿絵(By みてみん)


「今だ、ノーム達ッ!!」

「特製爆弾、用意!」


 エアルラが叫ぶ。

 大砲に詰められた爆弾が向けられる先はゴーレムのコア。


「ファイアーー!!」



 爆音が耳から頭を貫いて視界が強烈な白で塗りつぶされる。


 爆弾は意思持たぬ破壊の人形の胸に命中し、その巨体をコアごと粉々に砕いてギガントゴーレムは完全に沈黙した。

 砕けた岩石が満たされた水に降り注ぎ、水面を派手に騒がせる。


「ゴーレム、停止したー!」

「おれたちの、勝ちだ!!」


 勝鬨(かちどき)をあげる仲間達を眺めていたウィトルは、足元に赤く光る何かに気付く。


「これは……魔片か」


 ギガントゴーレムの力となっていた欠片だった。



 ◆



 俺たちは戦いの一部始終を見下ろしていた。

 戦いの結果は山の民連合軍の勝利だ。やるじゃん!!


「ギガントゴーレムは倒したけど、アンタはどうすんだ?」

「……ウフ!ウフフフフフ!!」


 プレクシの姿が突然蝋のようにドロリと溶けだし別の姿に変化する。


 クローバーに似た猫の耳に、蝙蝠のような羽が生えた女だ。

 豊かな胸を強調するような黒のボンテージ姿に小悪魔っぽい嗜虐的な笑みを浮かべている。

 

「ノームちゃんとリザードちゃんの共倒れを期待してたんだけど、計画がここまで狂うと笑えてきちゃう。せっかくリザードちゃんに化けて川の水を止めるように仕向けたのに」


 女は重力を無視してふわりと浮かび頬杖をつく。

 こいつが諸々の犯人ってことで間違いなさそうだ。


「両種族が死に絶えるのは時間の問題だったのに、どうしてアナタはあのコ達に手を貸したのかしら?」

「やりたいからやっただけさ。お前の目的こそ何だよ」

「アタシもやりたいからやっただけ。我らの王の誕生のお祝いにこの地を絶望で満たそうと思ったんだけど、残念」

「我らの王、だと?」


 宜しくない話の気配だが、目的が読めない。


「でも本来の目的は達成したようなものだし、良いものが見れちゃったから良しとしてアゲル。さっきの終焉の炎、とってもキレイだったもの」

「そりゃドーモ」


 ここまで嬉しくない褒め言葉も無いもんだ!

 女は無邪気に、心から愉しそうに紅の瞳を輝かせている。


「アタシは魔族領から来たラバルトゥ。ねぇアナタ、アタシと一緒に来ない?」

「カッ!」


 答えは当然NO!


「寝言はベッドで言うものだぜラバルトゥ」

「ウフフ、お誘いいただけるのかしら?」

「冷たい土の上で良ければ寝かせてやるよ!」

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