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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
23/163

13.とんでもないものができた

 簡易ダム作りの報告だ!


 1日目は芋の袋詰め、じゃなかった。

 現地調査やテスト、爆弾の用意をしてもらった。


 2日目の今日は試しに1つ目のダムを作る。


 工事については完全にノーム任せだ。

 一ヶ所に大量に爆弾を用意するよりも、爆破したい場所に点と点で結んだ線で繋ぎ、時間差で爆発させた方が効率が良いといったことを教えてくれた。


挿絵(By みてみん)


 リザードマンが地面深くまで穴を開けてそこにノームが爆弾を設置していく。

 点火する前にリザードマンとノーム達が何度も計算している。

 きっと大丈夫、と言っても緊張する瞬間だ。


「これより着火します!」


 いよいよ起爆だ。

 火薬必要量を出した計算チームリーダーのゲルニカが声を上げる。


「3、2、1、ファイヤー!!!」


 火が導火線を走り穴の中の爆弾へ向かっていく。一拍遅れて大きな音を立てながら次々と爆風を巻き上げて固い地面を次々と砕いていった。


「計算通りー!あとは開削チームおねがいしますー!」

「任せな。岩なんざあっという間に片付けてやる」


 関係はともかく作業仲間としてはノームとリザードマンはなかなか打ち解けて来たようだ。

 リザードマン達が岩や瓦礫を除去しつつ地盤を硬めていく。


 岩運びなら俺もできるぞ!……と手伝おうとしたらリザードマン達が委縮して作業スピードが落ちるからと止められた。通りすがりのゲッカもうなずく。


 そういうもんなの?

 ……そういうもんか。



 一方、昨日まで暇していたクローバーは爆破で壊した岩を収納魔法に詰めては別の場所に捨てる作業で大活躍だった。岩とか砂はあまり入れたくないんですけども、とはクローバーの談。

 収納魔法は術者自身が持つ亜空間への扉を開く魔法で、この亜空間は術者にとって物体のないもう1つの体だから重い物を入れると気持ち的にずっしりくるらしい。


 力のあるリザードマンでも疲れる岩運びもクローバーは収納魔法を展開するだけで肉体の疲労は少ない。ジッパーの中に岩を入れるのはクローバーでは無理なのでリザードマンの仕事だけど、それでも岩運びの効率は劇的に速くなった。


 タブレットで調べてみたら収納魔法の使用ってたったのMP2だった。

 どっかの災厄な魔法にも見習ってほしいコスパ。



 やがて1つ目のダムがほぼほぼ完成した。

 超巨大で深いプールみたいだ。

 強度も問題なさそうなのでこの調子で2つ目、3つ目も作っていく。

 次々に爆弾が運び込まれる光景は壮観だな。

 

 ところで働いてないの俺だけなんだけど、何かない?

 俺だけ暇なのそろそろ罪悪感あるよ。


「暇だ!今日も何か種を育てるぞ!」

「芋以外でお願いしますよ」


 通りすがりのクローバーにそう言われた。昨日めちゃくちゃ芋袋につめたもんな。


 エネルバ先生にもらった種を育てることにしよう。

 育つまで何が出来るか分からないしとりあえず作ってみよう。

 どの種がいいかなー。



 ◆



「報告は以上だッ。2、3つ目のダムも明日完成するから順調にいけば明後日にでもラグナ様に水魔法のお願いを……どうかしたか?」


 黒リザードマンのウィトルの報告中に呆けていたようだ。いかんいかん。 


「おう聞いてるぞ。水は任せとけ!」


 様付けはやめてほしいと言ってるんだけど聞いてくれないんだよね、まぁいいけれど。


 2日目も順調に終わった。

 あと数日の辛抱だと一族総出で頑張ってくれている。

 トラブルもなく喜ばしいことだが、俺たち今ちょっとそれどころじゃなくてね。




「ヴァ、ヴァウ」

「とんでもないものを生産してしまいましたね……」

「やっぱそう思う?」


 ノームやリザードマンが帰路についたところで俺とゲッカとクローバーは緊急会議を始めた。


 適当に選んだ種を植物魔法で増殖させたんですよ。


 ちなみに今日は肉じゃなくて余ったジャガイモを養分に使ったら爆発的には増えなかった。

 養分を減らすことで育つ勢いや範囲を限定できることが分かってきた。

 最初こそ無差別人食い植物かと思ったけど、養分にする物次第である程度植物の育つ規模をコントロールできる。やるじゃん災厄!


 ……でも今は今回俺が作ってしまった植物の話をしよう。


「市場価格壊れますよこれ。どうするんですかこんなに」


 今日の成果だよ、と出来立ての実をリザードマンとノームに分けるつもりだったけどクローバーの全力のグーパンで止められました。

 まったく痛くないっていうか殴ったクローバーがダメージ受けたんだけど。


 俺が作ってしまったのは胡椒(コショウ)だった。



 地球でも胡椒の価値が同じ重さの銀や金と同価格だった時代があったとかなんとか。この世界でも胡椒の価値が高いことを察した俺は何を聞いても驚かない心構えをする。


 よし。

 大丈夫。

 いいぞ。


「クローバー。参考までに聞きたい。胡椒の価値はどのくらいだ?」

「同じ重さのミスリルと同価格と言われています」


 なるほどね。

 ミスリルか。


 あのミスリルね。


 ファンタジー定番のやつだよね、鉄より硬く羽より軽いとかいう。


「それってすげー高いんじゃないの!??」

「すげー高いどころかすげーの上に超が3こ付きますよ!」


 確かにホイホイあげていいもんじゃなかったわ!

 あんなに簡単に増やせたのにな。


 人に見せるものじゃないということで胡椒は根から葉の先まで全て収納魔法にしまうことになった。


「葉の1枚実の1粒も落とすわけにはいきません。ラグナさんも胡椒の実が1粒でも落ちてないか注意して見ておいてください。どうせ暇でしょう?」

「んな無茶な……」

「胡椒の実が落ちてるってことは自生か栽培しているということです。誰かが気付きでもしたらどうするんです?胡椒1粒が原因で戦争までありえますよどこまで歩く災厄の名を欲しいがままにするつもりですか!?」

「アッハイ」


 胡椒はこの大陸から遥か遠く離れた別の大陸でしか手に入らない上に栽培も難しいらしい。

 ……魔法で簡単に育ったよ。魔法だから育ったのかな?


 香辛料としての胡椒なら非常に高価ってだけで終わるけれど、胡椒の実や原木ともなれば金の成る木で戦争になりかねない代物。


 とりあえず胡椒は暫く封印だ。

 せっかくだし料理の味付けに使いたいんだけどな。


「商人に会うためにこんな所来てるんですよね。さっさとこんな山下りて商人に胡椒見せれば一発で話聞いてくれますよ」

「お前自分で戦争になるとか言っといて大胆なこと言うよな……」


 却下却下。

 ここまで来たんだし、最後までやらないと。


 ホラ、話はここまでだ。帰るぞ。明日も頑張ろうな。

 ゲッカがヴァウ!と元気よく吠えた。



 ◆大陸南の街インクナブラ



 白を基調とした神殿の回廊に、ひどく目立つ人物が歩いていた。

 黒の神官アンデス。髪も服装も全て黒で統一されており、砂漠の砂と白い石造りの建物が高い陽の光を反射するインクナブラでその姿はひたすらに目立つ。


 その黒の神官を呼び止める者がいた。

 

「アンデス様!!お待ちください!考え直して下さい!どうかお慈悲を!」

「もう決まったことですよ、司祭ステラ」

「魔人の封印が解放されたのは祭司長の責任ではありません!祭司長はこの国の安寧のために尽力し続けた方です!どうか……」

「それがどうかしましたか?」

「!」


 ようやく足を止めたアンデスだが取りつく島もなく、半ば呆れが込められた言葉が返される。

 何か言葉を紡がねばと司祭ステラは頭を巡らせるがそれよりもアンデスが先に口を開いた。


「司祭ステラ。風竜が現れたことはご存じですな」

「え?は、はい」


「近頃魔物どもが騒がしい。先日など沼が消失していたそうです。恐ろしい魔物が現れた前兆。これをどう見ますかな?」


「魔物が、活性化している……ですか?」

「然り。魔人が復活し、災いが起こる前触れなのです。民は怯えている。」


 魔人の復活は悲劇が繰り返されることを意味している。だからこそ神に仕える者達は準備をした。

 200年前、時の司祭達は魔人の封印は300年しか持たないと予言した。


<我らが太陽の子らよ、備えよ>

<この星が三百廻る間にその月日をかけて今度こそ魔人を倒す力を蓄えよ>


 "三百年計画"が始動した。

 だがそれは300年をかける前提のものだった。

 魔人は100年も早く目覚め、その責は祭司長が負うこととなる。

 魔人復活の原因を作った魔女としてこの街を30余年支え祭司の長となった朗らかな女性の処刑が決まった。


「魔人が復活したからこそ、祭司長様の力が必要なのです!」

「予定より100年も速い復活を許した。他ならぬ祈りが足りなかったからではないかね」

「そんな…!!」


 アンデスは踵を返し、再び回廊を歩き始めた。



 祭司長は身寄りのないステラを育て導いてくれたステラにとって親であり、姉であり恩人であった。 

 異端とされた恩人の処刑が覆されることはないだろう。ステラには力も権力も足りない。


「魔人、ラグナ……」


 怒りと呼ぶには不完全であり、侮蔑と呼ぶには感情的すぎる気持ちが膨れ、涙となる。

 どうしてこの時代に復活してしまったかと崩れ落ちるステラの姿は祈りにも似ていた。

◆ダム進捗

1日目:現地調査。

2日目:1つ目のダム完成。2、3個目着手。

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