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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
21/163

11.リザードマンの里

 シエル山脈の西側にはトカゲの亜人リザードマンが棲んでいる。

 大ききな体躯に好戦的な性格でノーム達ではとても戦闘にならない。

 ノーム達が以前川の堰き止めをやめて欲しいと頼みに行くも案の定門前で脅されて帰ってきたそうだ。


「魔人さま。申された通り、一族の者を集めたが」


 朝、エアルスにノーム達を集めてもらった。

 今回の作戦にはノーム達の力が必要だ。


「本当に、山に水が戻るのですか?」


 エアルスの後ろから痩せた子を抱えたノームが姿を見せる。

 満足に食べさせてあげられないのだろう。


「なんとかなるけど先にリザードマンに話をつけに行くつもりだ」

「しかし彼らとの対話は難しく……」

「もちろん俺たちも同行するぞ」


 ノーム達が一斉にわっと声をあげた。


「我々には魔人さまがいる!リザードマンなど恐るるに足らずー!」

「目にもの見せてくれるー!」

「そうと決まれば武器を取れー!」


 討ち入りみたいな雰囲気だけど話するだけだからね?

 話し合いで解決しようね!



 ◆



「うまくいくかなー」

「大丈夫だって、話せば分かってくれるさ」

「そうかなぁー……」


 さっきまでやる気だったノーム達だけどリザードマンの里が近付くにつれてどんどん消沈してきた。

 リザードマンの里に同行するのはノーム代表のエアルス、案内役として俺がくしゃみで吹っ飛ばしたマジョリ、クローバーに爪楊枝剣を突きつけたサレの3人だ。


 歩幅の小さなノーム達だと移動に時間がかかる。だから歩く俺の肩には案内役のマジョリが乗って、エアルスとサレはクローバーに抱えてもらってる。

 首元に剣を突き付けられたクローバーはいかにも渋々って顔だけど俺に同行する以上指示には従ってくれる。でもってフリーのゲッカは道中の魔物退治に専念だ。


 ノームの指さす方に進み続ければリザードマンの里に到着した。

 岩門の前には3メートルくらいありそうな二足歩行のトカゲが立っている。あれがリザードマンだな!


 リザードマンもこちらに気付いたようで、俺たちを見るや否や怒鳴りつけた。


「止まれそこの!人間……とは違うな。何の用だァ?」


 なかなかガラの悪い門番。


挿絵(By みてみん)


「ノームもいるじゃねぇか。敵わねェから他の種族に泣きついたってワケか」

「わ、我らの長はリザードマンの長老との面会を希望しているー!取り次いでくれないかー!」


 内心怯えているだろうにリザードマンに対して毅然と声を張り上げるマジョリ。

 良いガッツだ。


「ノームと話すことなどねぇ!とっとと帰りやがれ!食っちまうぞ!!」

「ぴぇ!」


 マジョリが怯えて頭抱えて震えている。これ以上は酷だな、俺が変わろう。


「いいから代表に会わせてくれないか。急ぎの話があるんだ」


 クローバーと比較しても俺の身長はかなり大きいと思うんだけどリザードマンはそれ以上にでかいので見上げることになる。このデカさで強くて好戦的ならノーム達が怯えるのも仕方ない。


「ノーム共!こんなチビ連れてきてどういうつもりだァ!」

「そ、それはー……」


 リザードマンから見たら俺もチビか。

 マジョリが恐怖で涙目になっているけど話し合いで大声出すのはよくないぞ。


「オーイ。俺たち急ぎの話が」

「うっせんだよ三下が!」


 リザードマンが素早く体を捻れば長い尾が鞭のようにしなり、鋭く空気を切る音が鳴る。

 一瞬遅れて激しく打ち付ける渇いた音が辺りに響き、肩に乗っていたマジョリが悲鳴を上げた。


「ひぃぃー!!」


 リザードマンの尾の鞭は木をへし折るほどの威力がある、とノーム達に事前情報は聞いている。だから尾で攻撃して来ることは知っていた。


 リザードマンの尾は確実に俺の胴を打ち付ける。

 でも俺の体はそれ以上に頑丈だ。なんせ山から落下して無傷だったし!


「なっ、どうして立っていられる!?」

「気が済んだら代表に会わせてくれ」


 リザードマンが狼狽(うろた)える隙にリザードマンの尾を掴んでおく。俺はともかく俺以外に当たったら危ないし。


「テメェ離しやがれ!俺の尾を!」


 リザードマンが俺の顔に向けて拳を振りかぶった。

 おいおいマジョリに当たったらどうすんだ。


 止めたいけれどこっちが全力で殴るのはよくない。何せこれまでいろんな魔物をワンパンで倒したパンチだし……とりあえずデコピンらへんから様子を見よう。

 まぁデコピンだし大きなダメージにはならんだろ!


「ぶげがェ!!」

「あっやべ」


 ブチブチッと嫌な感触が左手に伝わり、同時にリザードマンが岩壁へ吹っ飛んだ。

 ……いや待って、デコピンでもこの威力かよ。


「ヴァウヴァウ!」


 クローバーとノーム達が啞然としている。

 ゲッカはキャッキャと笑っているけど待って、今笑うとこじゃない。


 リザードマンの尾を掴んだまま空いた方の手でデコピンしたせいで、吹っ飛んだ勢いで尾が引っ張られて千切れたようだ。

 それでも勢いを殺せなくてリザードマンは壁に叩きつけられた。


 

「えっと……ゴメン。ほ、ほら尻尾返すから……」

「ヒィッ!?」


 何言ってんだ俺。

 リザードマンが涙目で後ずさった。だよね。


 後ろのクローバーの追い打ちですか?とか言ってるけどちょっと黙って!今謝ってるから!!


「ちなみにリザードマンの尾は切れても時間が経てば再生します」

「マジで!?良かったー!さすがトカゲ!」


 治るんだね!マジ良かった。

 話に来たのに門番に体切断レベルの大怪我をさせたとか話し合いどころじゃない。

 いや怪我させたのは間違いないけど。


 その後騒ぎを聞きつけたリザードマンが加勢に来るも、威力弱めの小指のデコピン威力弱で6人抜きした所でリザードマン達が一斉に地面に付して手のひらを上に向けた。


 ……降伏のポーズだな。降伏も何も俺たち話をしに来たんだけど。



「すごい、あっという間に制圧しましたね!」

「制圧じゃねーーーーよ話し合いに来たんだよ!」

「話し合いだと……?」


 少し立派な装備に身を包んだ黒い体のリザードマンが警戒した顔をしている。

 その格好、偉いリザードマンですか!?ちょっと話があるんだけど!

 俺たちはリザードマンの代表と話をしに来た、敵意はないことを伝える。


「先に仕掛けたのはこちらのようだな……失礼した。長老の元へ案内するぞッ」


 黒リザードマンが里の中へ入れてくれた。


「……な!真面目に向き合えば分かってくれるだろ!」

「向き合うってケンカとか蹂躙って意味じゃありませんよ」


 結果オーライ!!



 ◆



 リザードマンの集落に入ればあちこちから視線を感じる。


 水辺で生きる種族だけあって、里の中には本来水が流れていたと思われる水路や池の跡があるもののどこも空っぽか泥混じりの僅かな水のみ。

 ノームの水を奪ってもこんな状態なのか。


 ……ところでクローバーが俺のすぐ傍を歩いてるけど近すぎない?


「ボク大勢の視線苦手なんです。いいでしょうこのくらい」

「いいけど皆大人しいぞ」

「ラグナさんから見えればそうでしょうけど……」


 あそこの消沈しきったリザードマンの顔とか見てみろよ、とても襲ってくるような雰囲気じゃないだろ?

 と思ったら、尻尾がない。さっきの門番のヤツか。

 尻尾はちょっとやりすぎた、ごめん。


 尻尾ちぎった相手に尻尾を手渡しされるってただの恐怖体験ですよとクローバーは心底同情する顔で言う。そ、そうだな。以後気を付ける。


「魔人さまが敵でなくて良かったですー」


 ノーム達からも畏怖の目を向けられている。

 ……友好的な魔人としてやっていきたいんだけどなぁ!



 ◆



 俺たちは岩壁を掘って造られた家に通された。

 調度品が飾られているが水に生きる種族らしく渦巻きや水の揺らめきを意識した意匠が施されてていいなぁ。

 渦巻のカップは普通にお土産として欲しい。


 案内された部屋に置かれたリザードマンの椅子はデカくて俺がなんとか座れるサイズ。

 ノーム達はとても座れないので俺たちが抱えるか肩に乗るかだ。


 少し待てばひどく足取りが重いリザードマンが現れた。

 体を覆う鱗がところどころ剝がれかけてるし、歩き方からして高齢なんだろう。


 傍には若い黒と紫のリザードマンが控えている。

 黒いのは案内してくれたヤツだな。

 部屋の入り口にも数人のリザードマンが立っていて重い雰囲気だ。


「ワシがリザードマンの長老、サイプレアじゃ。まずは里の者の非礼を詫びたい」

「あ、イヤ、こっちもうっかり尻尾切っちゃって……」


 リザードマン達がうっかりでたまるかって表情してる。


「要件を伺おう」


 沈痛な面持ちで切り出すサイプレア。

 あらゆる諦めを体現したみたいな表情だけど俺たちは別に悪いことをしにきたんじゃない。

 まずは友好的にご挨拶だ。


「ノームの長エアルスである。そしてこちらは……」

「俺はラグナだ。よろしく」


 印象を良くしようとにこやかに友好的に話しかけたつもりだったけど名乗った瞬間リザードマン達の顔から汗が噴き出て室内に緊張が走った。 

 そんな今にも斬りかかりそうな顔しないでほしい。あとノーム達は知ってるんだから改めて怯えないで。


 ちなみに心からにこやかな笑顔を浮かべたつもりだったのに赤子を食い殺してる最中みたいな顔してましたよと後でクローバーに指摘された。

 そんなに俺の顔怖い!?


 ……俺の名前は思ったより刺激が強いっぽいな。今後は名乗り方とか気を付けよう。


「先日凶星が降ったが……魔人が復活したというのは真であったか」


 サイプレアが絞り出すように声を出すが、俺はかつての魔人のように恐怖を与えに来たわけじゃない。災いも戦いもゴメンだ。


「確認だ。この山には今水がない。そしてあんた達リザードマンはノーム達から水を奪った」

「俺たちは水に生きる種族。今更綺麗ごとを言う気はない、恨まれようと里を守るのみだッ!」

「よせウィトル!」


 ウィトルと呼ばれる黒リザードマンが声を荒げたるがサイプレアが片手で制する。


 言い分は分かる。

 一族の危機だから水を奪った。

 その結果相手の種族がどうなるか分かっていながら。


「どちらかが生きて、どちらかは切り捨てられる、あいにく俺はそういうのはゴメンでな。覚えときな、魔人(おれ)はハッピーエンド主義であると!」

「ハッピーエンド……?」


 リザードマン達が困惑している。

 そんな都合の良い話があるはず無い。


 でも俺は世界に恐れられる災厄。

 災いはいつだって唐突で気まぐれで常識破りだ。


「そこで俺から提案だ。俺はこれからこの山を洗い流すほどの水を呼ぶ。リザードマンってのは勇敢な水の民なんだろ?荒れ狂う水と戦う気は無いか。――ノーム達と協力して!」

リザードマンは水があり陽の当たる所ならだいたい適応して生活できます。

元々水辺に生きる上に体が大きい=必要な食料も多いのでノーム以上に状況は深刻。

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