7.植物の災害
今覚えている魔法は3つ。
火の海にする嘘つきの炎。
隕石を降らす伏ろわぬ神の雨。
地震を起こす天牛降臨。
……どれも封印しようって決めた魔法、というか山で使うには被害がでかそう。
「よーし新しい魔法覚えるぞ!」
「その板で魔法を覚えられるんですか?見たことない文字ですね」
クローバーがタブレットを覗き込む。この文字は日本語って言うんだよ、とは黙っておいた。
「自分のことは知らないのにこういう言語は読めるんですね」
「うるせー!」
さてどの魔法を覚えるか。
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所持スキルポイント:2
火属性LV2 Next:火属性魔法の消費MPを軽減。
∟天属性LV1 Next:天属性魔法の消費MPを軽減。
∟爆発属性LV0 Next:魔法を修得。
∟光属性LV0 Next:魔法を修得。
水属性LV0 Next:魔法を修得。
風属性LV0 Next:魔法を修得。
地属性LV1 Next:派生属性を解放。
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スキルポイントは2だからLVは2まで上げられる。
爆発や風は山でやるには不安があるし、地属性の派生にかけてみるか。
「地属性にスキルを振るぞ!」
【地属性のLVが2になりました】
【地属性から金属性、植物属性、創属性が派生しました】
【NEXT:消費MPが減ります】
創属性ってのはよく分からないけど植物は分かりやすいな。
よし、植物属性に振るか!
地震や大雨の時、森が崩れた土砂を堰き止めて被害を防いでくれると聞いたことがある。
植物ならあの岩の流砂を止められるかもしれない。
【植物属性がLV1になりました】
【災厄魔法"世界樹の繁栄"を習得しました】
【NEXT:消費MPが減ります】
来たぞ新しい魔法!
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世界樹の繁栄 植物属性 MP350
対象の植物を爆発的に成長させる。成長に必要なエネルギーが無くなると成長が止まる。
成長させる植物が存在しない場合は失敗する。
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これは……。
燃やすだの崩壊だのといった今までに比べればずいぶん生産性が高い魔法じゃない?
「なんて書いてあるんです?」
「植物を成長させる魔法だよ。ただし成長させる植物がないと使えないって……あ、そうだ!」
エネルバ先生にもらった種があった。
クローバーに俺のリュックを取り出してもらい、良さそうな種を探す。
「何の種だろうなこれ」
「種だけではボクにもなんとも」
「ヴァウヴァウ!」
種の匂いを嗅いでいたゲッカが種の1つを指し示す。ここは相棒の鼻を信じよう。
「よっしゃその種だな!行くぜ!」
小粒ほどの種を土石流の中心、オオイワジゴクに向かって投げれば種が虫の口に入る。
オオイワジゴクは食べたことにすら気付いてないだろう。
「何が起こるかご覧じろ!いくぜ、"世界樹の繁栄"!」
オオイワジゴクの口の中が翠緑色に発光する、と同時にオオイワジゴク言葉に形容しがたい悍ましい絶叫が響き激しく暴れ出す。大きな口を埋め尽くすほどの多量の太い蔦が生えて絶叫を塞いだ。
もがくオオイワジゴクを物ともせず蔦は伸びて、腹を内側から突き破って緑色の液体が漏れて土を仄かに濡らし、根を張り伸び続ける蔦が流砂の岩や砂を完全に堰き止めた。
「え、えぐ……」
凄惨な光景にドン引きだよ。
文字通り虫の息で最後の力で蔦から逃れようと抵抗するオオイワジゴクの周辺で蔦は無数の可憐な白い花を咲かせ、花はすぐに実をつけた。
冬虫夏草みたいだ。
そして虫のエネルギーを奪いながら実ったものは……。
「これ苺だ。苺の種だったのか」
「ヴァウアウ!!アッアウッ!!」
「おいしそうですね!」
思わぬ収穫にゲッカとクローバーがはしゃいでいるんだけどね。
「さっきの光景見て食べようと思えます君たち!?」
緑の液体吸って!
肛門をメリメリって広げながら根を張り巡らせる植物が付けた苺を!
「ヴァウ?」
「猪やカエル解体して食べてるのに今更何言ってるんですか」
2人に何言ってんの?みたいな目で見られるとこっちが間違ったような気分になるんだけど、いやなんつーか、それとこれは違くない?え、そうでもない……?
何が正しいのか分からなくなってきた。
そんな俺をよそに苺の香りに誘われたのか空から小鳥が飛んでくる。
かわいらしい光景だ。
……などと思ったのは一瞬で、突如苺の蔦が実を食べに来た小鳥を絡めとった。
『ピチ、ヂッ!!』
そのまま小鳥は茂った蔦の中へバキボキという音を鳴らしながら消えた。
誰だよかわいらしい光景とか言ったの。俺だよ。
-ピコン!-
「何の音ですか?」
「ああ、魔片の持ち主が死んだんだな。魔片が破壊されると俺に吸収されてこの通知が来るんだ」
【LV上限が解放されました】
うん、上限が上がってる。
その間にも苺の蔦はまだ止まらず根と弦を伸ばし続けていた。
「オオイワジゴクは倒したので魔法はもう大丈夫じゃないですか?」
「そうだな。もう止めていいか」
止めても……。
「魔法ってどうやって止めるの?」
「ヴァウ!!?」
「はぁ!!?」
発動はできるけど止め方知らないよ俺!?
今まで勝手に止まったし!
俺たちを餌と思ったのか苺がこちらに向かって蔦を伸ばし始めた。そりゃもうすごい速度でこっちに向かってくる。
「まずい!あれに巻き込まれたらイワジゴクと同じ末路だ!」
「ヴァウ!!」
「ゴルファフロッグが……」
「それどころじゃない、逃げるぞ!」
カエルを回収する余裕はない。それほどに植物の広がる勢いは速い。
「もう、なんなんですかあなたの魔法っ……あ!」
突然足もとからボコッと蔦が生えて足に巻き付いてきた。
俺の力なら構わず千切って走り続けられるしゲッカは回避できるけど、俺ほどの力もゲッカほどの速さも持たないクローバーが足を取られて転倒した。
「クローバー!……まずい!」
咄嗟に駆け寄ってクローバーに巻き付いた蔦を引きちぎるが、俺たちを追う苺の蔦はもう目前だ。
「お、追いつかれます!」
「仕方ねぇ、迎え撃つ!」
「ヴァウ!」
ゲッカが俺たちの元へ駆け寄ってくる。
危ないから逃げて欲しいけど、火を扱えるゲッカがいるなら心強い。
制御できない自分の魔法がやられるとかそんな間抜けな最期は迎えたくない。
「覚悟決めるぞゲッカ!」
「ヴァウ!!」
……と、覚悟をしたは良いものの。
蔦は俺たちを避けてそのまま突き進んでいった。
「……どうやら、術者であるラグナさんとその周辺は安全みたいですね」
「……みたいね」
地震を起こす天牛降臨も、揺れどころか揺れによって発生した土石流も俺には一切影響は無かった。災厄魔法、もしかして使用者は安全なのかな。
ゲッカとクローバーを抱えたまましばらく様子を見ているとやがて植物の動きが止まった。
念のため2人が蔦に触れないように抱えて来た道を戻ればオオイワジゴグは完全に干からびて岩のような外郭とスカスカの皮だけが残っている。
オオイワジゴクの全てを喰いつくして苺はようやく止まったらしい。
「制御不能ってラグナさんの魔法ちょっと使い勝手悪すぎません?」
「それは世界中で誰よりも俺が思ってる」
珍しく生産性が高い魔法かと思ったけどやっぱ災厄だったわこの魔法!
さっきまでの地獄絵図は嘘のように収まって、暴れ狂っていた苺も今やただの苺だ。いや異様に広範囲まで広がって辺り一面苺畑なことを除けばだけど。
種1粒でこんなんなる??
クローバーとゲッカはイチゴを美味しそうに食べ始めている。
ホントに食べるんだ……いやオオイワジゴクを捕食する光景が視覚的にえぐかっただけで苺に罪はないし食べた方が魔物の供養になるかな?
それにしても世界樹の繁栄、危ない魔法だけどこの魔法使えば野菜とか食べ放題になるのでは。
あの虫はデカかったしLVも高かいからきっと養分が多すぎたんだ。
養分が少なければちょうどいい感じに植物を成長させられるかもしれない。
迷惑にならない場所で使ってみるのはアリかもしれないな。
そんなことを思いながら苺を口に放り込めば、爽やかな甘みが口の中に広がった。