58.超越者のメッセージ
「「いけいけーーー!」」
「「「さすが我らの巫女!スライムを止めてるぜ!」」」
「「王都へ帰れ潮騒の巫女め!」」
メルムとスケアクロウの直接対決。
カラ達がめっちゃ応援してる。プロレス観戦みたいだな、女性同士の対決だから女子プロ、キャットファイトかなぁ。
絵面は天まで届く大樹VS湖と同化した巨大蛸スライムによる世紀の怪獣大決戦だけどな。
互いに『ドレイン』のスキルを持っているから大樹のメルムは根からスライムを吸収、スライムはメルムの根を溶かして互いに吸収しあっているようだ。
「……どういう状況ですかこれ」
「俺も知りたい」
「こんばんは」
「昨日ぶりねクローバーちゃん」
合流したクローバーが呆れたように言うけれど俺も状況についていけてないんだよコレが。
大樹の麓で怪獣対決を観戦してるのは俺、ゲッカ、ラバルトゥ、10人のカラ、そしてメルム。
「メルムさんがいるのは分かるんですけど」
「ワタシの本体は樹の中にあって、この体は会話用に作った分体だけどね」
メルムの本体は大樹と一体化しているため喋ることはできないけれど、木からメルムの姿の実を作って会話することができるそうだ。
一見俺のよく知るメルムの姿だけど生体とか謎しかないな。
口が9コあるアシャヌの力を取り込んだとか言ってたし、スケアクロウも今蛸になってるから巫女ってのはそういう生き物って割り切ることにするけど。
「なんでラバルトゥがいるんです?」
「あのスライムにスキル奪われたからこのまま帰る訳にはいかんのだと」
湖を吸収して巨大スライムになったアデル、そしてそのアデルと合流を果たしたスケアクロウは神の器、いわゆる窮極生物と呼ばれる存在になった。
一方、"底なしの牢獄"で俺の眷属になり封印の中で悪魔共を平らげたメルムは今や天まで届く大樹となって、精霊の力で封印から抜け出してこの迷宮に戻って来た。
ステータスを確認すると成長は一目瞭然だ。
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名前:メルム・フラクシヌス【魔人の眷属】
種族:ナリーポン
LV:103【LIMIT】
HP:2345/3060
MP:1231/1030
攻撃:2729
防御:2082
魔法:2741
抵抗:2124
速度:31
所持スキル
『潮騒の巫女』『文体』『次元移動』
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貧弱だったステータスもだいぶ強くなった。
速度だけはドレインしても上がらないみたいだけどまぁ木だしな。
「……ところでさっきから浮いてる光の玉はなんだろ?」
「メルムさんが現れてから一緒に出て来ましたね」
世界樹となったメルムが現れてからずっと漂っている淡い光の玉。
まぁメルムと一緒に出て来たから悪いものではないだろうし、スライムのドレインの対象にもならないみたいだし気にしないでもいいか。
<わ我レ ららラ の 悲願 ヲ 邪まマ すルナ >
スケアクロウだった蛸が水の中で声を発したかのようなくぐもった声を発する。
どことなくスケアクロウの声帯に近いけど、あの女の退廃的な気配は感じられない。
「スケアクロウ?それともアデルの声でしょうか」
「どちらでもないと思うわ。なんか言わされている感じね」
ラバルトゥの指摘と解析結果が出るのは同時だった。
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名マ:リアナ愚
種族:人?ゲ??【
:154】
:3災2/5死4
P:1458/1
叛:44 4
:逆者2告グ箱舟2へ
神ヲ:讃エ ヨ
抵抗:ム駄
度 :
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「気持ち悪いの出てきたんだけど助けて」
「その言語ボクには読めませんが、おかしいってことは分かります」
「忌々しい表記だこと」
ラバルトゥすら溜め息をついている。このバグ表記はスルト以来だな。
スルトは廃棄されたとはいえ神だった。騎士を取り込んだ巫女は神の器になるというし、関係があるのかもしれない。
「一応聞くけどその表記に意味はあるのかしら?」
「ところどころ読める単語はあるけど……」
マリアナ、種族かみ、神ヲ讃エヨ、抵抗無駄、システムに逆らうな。
読み上げてみたけど嫌な気分にしかならない。
「やめやめ!こんなん見てたら頭おかしくなる」
ラバルトゥが首を傾げて考える素振りを見せる。
「システムが何かは知ってるかしら?」
「スキルやステータスといったヒトの性能を可視化させる概念の総称でしょう」
クローバーが答えればラバルトゥは満足したようで話を続ける。
このステータス、システムって言うんだ。
"システムに逆らうな"という表記はステータスを見た者に対する明確なメッセージになってるだけにラバルトゥも気になるのだろう。
「さすがね。神が人間を管理や識別するために創ったそうよ。もしかしたら神々からの警告かもしれないワ」
「このグチャグチャ表記がぁ?」
「少なくともボクらが相対してるのは別次元の生命ということは間違いないですね」
実際にメルムとスケアクロウの怪獣対決は規模が別次元の戦いだ。
この世界いちいち魔物を大きくする傾向にあると思ってたけどここまで大きくなるとは思わなかった。
「ヴァウウゥ!」
「おうさま、スケアクロウが仕掛けてくるわ。登って!」
ゲッカとメルムが警戒を促した直後、蛸から声が聞こえた。
<滅 ビ の 祝福 ヲ 与えよウ ――"六夜の洪水"―― >
「災厄魔法!?」
「ああーーーーーー!!???お、俺の魔法じゃねーか!」
「懐かしいわ。シエル山脈でラグナちゃんが使った魔法ね」
「しみじみ言うんじゃねぇ!」
蛸の触手から水の球がひとつ生み出され、水球はすぐに夥しい量の水を垂れ流し始めた。
1つでは終わらず、幾つもの触手が次々と災厄魔法を放つ。
<――"六夜の洪水"―― >
<――"六夜の洪水"―― >
「災厄魔法の重ねがけやめろや!?」
「ラグナさん、急いで!」
「おうさま、上へ!登って!」
メルムの言葉と同時に樹の幹に蔦や枝が生え、木をぐるりと囲むような階段ができた。
蛸の放った水の災厄魔法により水位はぐんぐん増して俺たちに迫って来ている。スライムと一体化した水は酸そのもの。
闇魔法を奪われてゲッカが飛べない今、メルムが作ってくれた階段を登って上方へ逃れるしかない。俺とクローバーはゲッカの背に乗り込んだ。
「みんな!逃げるぞ!!」
「ヴァウウウゥ!」
ラバルトゥやカラは空に逃れ、ゲッカがメルムが作った階段をガンガン登る。
水かさが増したことで容量が増えた巨大な蛸は大樹を抱えるように迫って来る。刻一刻と触手と水位が増して下方の枝や蔦の階段が次々とスライムによって破壊されていった。
「燃やし尽くせ、"嘘つきの炎"!」
俺の視界の入るモノを全て燃やし尽くす火の災厄魔法。狙いは当然蛸の本体と迷宮中の水。
業火が無数の触手を一瞬で蒸発させ蛸が大きく怯む。
「さすがに本体の撃破は無理か」
「ヴァウウゥゥ!!」
ゲッカの雄叫びと共に巨大な炎が触手を焼く。
ゲッカも眷属契約で覚えた"嘘つきの炎"を放つ。
火の災厄魔法は一時的にスライムを押し返すことはできるものの、逆転には至らない。おまけにこれMP消費がきついんだよ。
「ラバルトゥ、ついて来るなら協力しろ!転移魔法で連れてきて欲しいやつがいる」
「この状況で助けになりそうな亜人がいるのかしら?」
「ラティっていうヘンな翼背負ったポニテの人間!」
「ノーテンキで空気読まない子かしら?」
「……たぶんそれであってる」
ふぅん、と微妙に納得いってなさそうな声をもらしつつもラバルトゥは魔方陣と共に姿を消した。しれっとラティがディスられたことに触れないでおこうな。
また1本、触手が焼き払われると蛸が次の攻撃を繰り出した。
スライムの体に浮かぶのは巨大な目玉。
<――ロストロザリオ――>
「風竜を倒したゲッカの技か!」
無数の腕が次々と襲い掛かる。
俺たちだけじゃなくメルムの大樹にも刺さり、生命を奪う。
<――グラビテテーション――>
突然体が重くなる。
ゲッカの動きが鈍くなり、植物の枝葉がミシミシと軋んだ音を立てた。
「ヴァウウゥ……ッ!」
「……っ、これはラバルトゥの重力を操る魔術!」
ゲッカが重力圏を抜け出し、木の上へ上へと目指すもどこかの誰かから奪った攻撃が次々と襲い掛かる。
氷の槍が降り注ぎ、霧が視界を悪くする。あらゆる手段で俺たちを酸の蛸に引きずり込もうとする悪意。
<--"暗く深い国"――>
ゲッカが前方に炎の盾を展開させて凍える冷気を相殺するが、熱を圧倒する冷気が襲う。
ただただ寒い、暴力的な冬。災厄が俺たちを襲う。
息がへばりつくほどの冷たさの中、前方に魔方陣が現れた。
「ホギャーーーーーー!!?!?突然連れてこられたと思ったら何コレーーーー!?!??」
ネコのように首根っこを掴まれたラティとラバルトゥが現れた。
極限状態すぎてラティの騒がしさに癒されるまである。
「連れて来たけどこのコであってるかしら、ラグナちゃん」
「あってるあってる!ラティ、急ぎで悪いがクローバーのMPを俺に移してくれ!クローバーもいいよな!?」
「いくらでも持ってってください!」
「ウエエーーーーン!!人使い荒いんだからぁ!」
ラティの魔術によりクローバーのMPが流れ込む。
「まだまだ!"嘘つきの炎"」
"暗く深い国"は高い威力の熱をぶつければ霧散することはスルト戦で分かっている。
炎が冬将軍を掻き消すとスケアクロウの声をした蛸が不快そうな声を轟かせた。
<…… 此れ ハ ヨくナイ>
「あ?」
<矮小ナ 地上 ノ 生キ物 ガ 持ッてハ ナラぬ チカラ>
スキルを放ち続けていたスライムがスケアクロウの面影を残す女の声でゴボゴボと声を発した。
<魔人、オ前ハ、ソソ存、 在シテ は ナ らヌ イケな い>
「てめぇに言われたくねぇわ!!!??」
<ワ ワ 我ら ノ 前らラカカ >
<消 え ロ>
<――殃禍魔法、"灰色の炎"――>
「あれは……!廃棄神スルトを凍らせた魔法です!」
スキルの属性LVが7になった時に覚えた災厄の上をいく、魔方陣が完成した時全てを凍らせる最上級の氷の魔法だ。
「そのケンカ買ってやる!」
半ば無意識でタブレットを手にしていた。
そしてスキルツリーを開く。
「どうするつもりですか?」
「災厄には災厄、殃禍には殃禍をぶつけんだよ!!」
「……ハルピュイア達が勇者から回収した魔片、召喚で持ってきます!」
「よっしゃ、天才!」
俺が今所持しているスキルポイントはクローバーが回収する分も含めて4つ。
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火LV2 Next:消費MPが減ります
∟天LV3 Next:威力が上がります
∟爆発LV0 Next:魔法を修得します
∟光LV1 Next:消費MPが減ります
水LV2 Next:消費MPを軽減します
∟闇LV1 Next:消費MPが減ります
∟腐食LV0 Next:魔法を修得します
∟氷LV7 MAX
風LV1 Next:派生属性を解放します
地LV2 Next:消費MPが減ります
∟金LV3 Next:威力が上がります
∟植物LV3 Next:消費MPが減ります
∟創LV1 Next:消費MPが減ります
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氷属性の時と同じならLV7にすれば最上級の殃禍魔法を覚えられる。
つまり残りのポイントで殃禍魔法を修得できるのは天・金・植物の3択。
この中で選ぶなら。
「メルム!俺の魔法を乗りこなせるか?」
「植物なら御してみせるわ」
「よし来た!」
酸と冷気を浴びながらも高くに葉、深くに根を張るこの大樹は諦めていない。
どうせならこの大樹とメルムがいるという状況を生かして巫女の対決に白黒つけよう。
「ラグナちゃんの魔法より先にスケアクロウの魔方陣が完成するけれどこの樹に耐えられるのかしら?」
「方法はあるっ!」
タブレットにスキルポイントを振っていく。
LVを上げるのは、植物だ。
【植物属性のLVが4になりました。威力が上がります】
【NEXT:消費MP減少】
【植物属性のLVが5になりました。消費MPが減ります】【世界樹の繁栄 MP280→MP245】
【NEXT:威力上昇】
【氷属性のLvが6になりました。威力が上がります】
【NEXT:???】
属性LVを上げるとLV1・7で魔法修得する他威力が上がる、消費TPが下がるといった効果がある。今、植物魔法の威力は最大まで上がっているはずだ。
「頼むぞメルム!"世界樹の繁栄"!」
植物を対象に、養分が尽きるまで爆発的に成長させる植物の災厄魔法。
ベヒモスの土壌、蛸スライムに水。養分となるものならいくらでもある。
この魔法の一番の欠点は養分がある限り際限なく育って制御が一切できないことだ。
でもメルムは意思を持つ植物だから、成長の方向をメルム自身でコントロールできる。
魔法の発動と同時に世界樹が大きく揺れ、あちこちに花や枝が生えては散って、実をつける。
一方で根はより太く長く地中深くに根差して増えていく水を吸い取っていく。
酸で削れた部位は修復してカルスになり、そこからまた新たな芽や枝が現れる。
「ラグナさん、魔片回収しました!」
迷宮内でネコに魔片を回収させて召喚したんだろう。灰色のネコを抱えたクローバーが魔片を差し出してきた。
「今度は俺たちのターンだ!」
魔片を砕けばいつもの通知が出る。
迷わず植物魔法に最後のポイントを振った。
【LV上限が解放されました】
【植物属性LVが最大になりました。殃禍魔法・"幻華の千年王国"を修得しました】
「クローバー、ラティ!」
「ラグナさんに全て任せます!」
「あとで功労賞ちょうだいね!!」
クローバーのMPがラティを介して流れ込む。
メルムの枝と葉が、まるで俺たちを手のひらで受け止めるような形に展開する。
眼下に広がるのは俺たちの居場所である迷宮だった場所。今そこには巨大な蛸が巨大な氷の魔方陣を湖面に展開している。
スライムめがけて第二の殃禍魔法を放つ。
「答えろ!"幻華の千年王国"!!」
今さらですが今回の話にあわせて3章23話のスルトの解析結果を文字化けから読みやすく修正してます。
あと総合評価2000pt達成しました。どうもありがとうございます!




