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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
4章 やさしい場所
135/163

34.優しい人

 ◆


 有事の際は非戦闘員は迷宮の最奥に避難するよう指示してある。

 兵站……もとい食料の備蓄もバッチリだ。

 かわいい眷属達が作ってくれた下着も穿きました。

 筋肉は相変わらずムッキムキ!もうどこに出しても恥ずかしくない司令塔だと思う!


「いえ、下着くらいでそんなに威張られても、というかまだギリギリな布面積だと思うんですけど……」


 クローバーに突っ込まれる。

 いやもうこの腰布とブーツのみスタイルが長かったから感覚麻痺してきたけど、今でも普通に地球だと捕まりそうな露出度なんだよね。

 この世界に来てから下着はけるようになるまで丸一年かかるとは思わないよな。


「次は普通に服が欲しいぜ!!」


 でも下着が作れるってことは、普通の服が着れるようになるのも時間の問題だ。

 俺の文明人へのカウントダウンは秒読みだぞ!!


「ヴァウゥン!!」

「おっと」


 ゲッカが空を見るよう促している。

 ごめんごめん、戦いに集中するぞ!




「せっかく堀とか氷雪地帯作ったのに飛んでこられるとな~~……一ヶ月かけて作ったのにな~~~」

「こればっかりは仕方がありませんよ。地上への効果はあるのでそれでよしとしないと」


 ワイバーンに乗った人間達が村に向かって来ていると聞いて外に出てみれば、東の空の彼方に飛行するワイバーンのシルエットがうっすらと見える。

 と同時に、先ほどまで良い天気だったのにどす黒く分厚い雲がダンジョン村を覆っていることに気付いた。


「ウィトルの雨雲か!」


 俺たちよりも先にワイバーンの群れが近付いていると知って雲を呼んだのだろう。

 さすがに雨でワイバーンを駆る六刃聖将率いる隊を撤退させられるとは思わないけどいくらか戦いにくくなるはずだ。

 ヴァナルガンドは雨にも負けないし、水に強いリザードマン達は雨をものともしないからこちらは問題ない。

 水が苦手なクローバーは嫌そうだけど、水に浸かるわけじゃないから許容範囲っぽい。


「この村に敵が向かってると聞いて不肖ウィトル、参上しましたッ!」

「いいタイミングだ。ウィトル、大雨降らせてワイバーン達の出鼻挫いてやれ!」

「合点ッ!」

「ゲッカ、ヴァナルガンドの招集だ!」

「ヴァオオォン!!」


 ゲッカが天に向けて遠吠えすれば村のあちこちにいるヴァナルガンド達が呼応するように吠える。

 どうやら点呼のようなものらしい。

 ヴァナルガンド達も食事のために戦う気満々だな、いいことだ。



「うーん、ホントに攻めて来るんでしょうか?」


 傍らでクローバーが首を傾げている。


(やっこ)さんたちやる気満々に見えるけど?」

「ワイバーンは獰猛で頑強な生物ですし、空からの攻撃というだけで脅威なのは間違いありませんが、いくら六刃聖将率いる精鋭でもラグナさん相手に正面から来るとは思えなくて」


 よっぽどズボラでもない限り俺たちの戦力についてはある程度人間も知っているはずだ。

 最近仲間になったウィトル達のことは把握してないにしても、クローバーを助けにインクナブラに殴り込みに言った時にかなり目立ったからな。

 少なくとも俺、ゲッカ、クローバー、それからヴァナルガンドが10体以上いることは知っているはず。


「ヴァナルガンドがいるってだけで普通攻め込む気なくなると思うんですけど」

「つっても現に来てるんだよねコレが」


 俺だって戦いたいわけじゃないんですよ、来る以上は守らないといけないわけで。


 この曇天見てよ、いかにも雷とか落ちて来そうじゃん?

 できればUターンしてそのままお帰りいただきたいんだけど……ワイバーン達が帰る気配はない。


「ボス、尖兵と思われるワイバーン共が来てます!」

「カッ、新たな災厄魔法見せてやるぜ!風の災厄魔法(ディザスタースペル)、"貪欲の北風(ボレアスアバルス)"!!」


 大いなる風が吹き荒れる。

 侵略者にはお帰り願おうか!



 ◆



 ワイバーンで飛行すること数日、ようやく狭間の王の迷宮が見えてきた。

 僕らの来訪を拒むかのように先ほどまで晴れ渡っていた空には曇天がかかり、これから目指す迷宮の上空には黒く渦巻く風が現れる。


 先行して迷宮に乗り込んだ尖兵達が竜巻に呑まれ、ワイバーンから落下した。

 構わない。彼らは正規兵、いや騎士でもない。

 スケアクロウ様が様子見に用意した隷属させた犯罪奴隷だ。隷属させた彼らは命令通り様子見の役割を果たしたこととなる。彼ら自身の命を以て。


「風の穏やかな日を選んで来たのに台無しですねぇ。今にも雨が降り出しそうです」


 スケアクロウ様は抑揚の無い声を洩らす。

 これから自分達が行く場所に対してまるで無関心で無感動。

 いつものスケアクロウ様だ。


「いかがされますか、日を改めることもできますが」

「私達の訪れに合わせて発生したのですから、雨も、竜巻も、狭間の王かあの迷宮の者が呼んだのでしょう。それならば日を改めても無駄ですね」


 天高く伸びる竜巻はまるで空の柱のようだ。

 蠢く柱は上部に向かうにつれ太くなり迷宮を覆う雲とひとつになっている。

 無数の稲妻を走らせる暗雲垂れこめる空は鈍色に染まり迷宮に大きな影を落としていた。


 迷宮の周辺は不自然に迷宮を囲むように吹雪(ふぶ)き生者を寄せ付けようともしない。

 迷宮を覆う高い壁には触れることを拒むかのような無数の棘がついている。

 なるほど終末の王という呼び名にも納得がいく。


「まるで世界の終わりのような……恐ろしい光景だ」


 独り言のつもりだったけれどどうやらスケアクロウ様に聞こえていたらしい。

 スケアクロウ様は首の角度を少しだけ傾けるけれど目深(まぶか)にかぶったフードでスケアクロウ様の表情はよく分からなかった。

 抑揚のない言葉が僕にかけられる。僕はその声が好きだった。


「半分は同意しますがもう半分は同意しかねますね、アデル」

「え?」


 スケアクロウ様に名前を呼ばれれば胸の奥底がゾクリとする。

 この声に名前を呼んでもらえる瞬間が、何より幸せだ。


「この光景が狭間の王を象徴しているところは私もそう思います、けれども恐ろしくはない。狭間の王は優しい方でしょう」

「優しい、ですか?」


 災厄の化身を優しいなどと呼べる人間がこの大陸にどれだけいるのだろう。

 けれどもスケアクロウ様は変わらず抑揚の無い声で静かに空気を震わせる。


「本当に恐ろしく悪意で満ちているのは入るは容易いのに出ることが(あた)わない迷宮です。しかし狭間の王の迷宮は外見と天候で私達を拒み、撤退を望んでいる」


 空からぽつり、ぽつりと水滴が降ってくる。

 滴が体に触れる間隔はすぐに短くなって、滴と呼べない大雨に変化した。


「誰も傷つけずに戦いを終わらせようとしている、とても親切な迷宮に見えますね」


 そういう見方もあるのかと、僕はスケアクロウ様を見上げる。

 この僕を騎士団に見初めてくれた方。

 恐ろしく虚しく美しい戦人(いくさびと)


「ああ、いい天気になってきたじゃあないですか」





 ◆


「ボーーーース!尖兵はみんな片付けました!」

「いいぞ!!えらいぞ!!!褒めて遣わすぞ!!!!」


 先走って攻め込んだワイバーン兵は竜巻でバランスを崩して落下した。

 魔法を駆使して地上に無事降り立つ者もいたけれどリザードマン達が片付ける。出だしは悪くないな。


「……仲間が何人かやられた割に本体はまったく動きに乱れがありませんね」

「でもいくらワイバーンでも竜巻には抗えない。空での移動は大きく制限できるだろ」


 今、ダンジョン村の中心には巨大は竜巻が渦巻いている。


-----------------

 貪欲の北風(ボレアスアバルス) 風属性 MP380

 竜巻を起こし地上にあるものを根こそぎ空へ巻き上げる災厄魔法。

 竜巻は時間経過で自然消滅する。消えるまでの時間は術者の魔法力に依存。

 追加でMPを使用することで竜巻を移動できる。

-----------------


 風属性の災厄魔法は竜巻を発生させる魔法。

 この村は中心に大きな穴が空いていてその外周が生活圏。

 だから中央に竜巻を配置しても問題はない。たまに風にあおられて荷物が巻き上げられたりするけど、住人は避難してるしな。


 ウィトルが呼んだ雨雲と竜巻がドッキングした。

 上空で冷えた雨雲と激しい風が稲妻を発生させ、雲内を稲妻が走るものだからラストダンジョンみたいな天候になった。

 俺としてはラストダンジョンじゃなくてのどかなリゾート地とか温泉とか作りたいんですけどね。



 飛空騎士団が4人1組に分かれ、それぞれ3方向に飛んでいく。

 大多数が村の北と南側へ、そして先頭の1組が俺たちのいる村の入口へ真っ直ぐ向かってきた。


 南北へ行った奴らも気になるが、まずは正面の騎士達を注視する。

 距離があるせいでこちら側から先手を打てないのがもどかしいところ。


 ゲッカの闇魔法がギリギリ攻撃圏内とはいえあちらが逃げに徹すれば逃げられるくらいの位置だ。

 先頭の紫の装飾を纏った人物がフードを外し、高らかに宣言した。


挿絵(By みてみん)


『迷宮の皆々様方、ごきげんよう。六刃聖将のスケアクロウと申します。王命を受けこちらへ参りました』


 肉声が届くような距離とは思えない。

 なんとなくくぐもったというか機械的な音声だから神々の遺産を使ってるのかな。拡声器的な。


『これよりこの迷宮を攻略します。降伏など興覚めなことは無し、最後の1匹まで殲滅して御覧にいれましょう』

「物騒だなオイ」


 地獄を更地にしたという前情報は聞いているけど前情報通りの発言だ。

 でもこの迷宮を更地にする訳にはいかないんでな!


「俺がラグナだ。直接来いスケアクロウ!ケンカなら買ってやる!」

『喜んで。仕合いましょう』


 あちらはワイバーンに乗ってるけどこっちにもゲッカがいるからな!

 ゲッカに跨ってスケアクロウと対峙する。

 空中はどうしようもないけど、機動力ならゲッカの方が上だ!



 と思ったその時。


「うおっ!?」

「ヴァウ!」


 急にゲッカが潰れた。


「ど、どうしたゲッカ、って、ええぇ?」


 ゲッカが、みるみるうちに小さくなっていく。


「ゲ、ゲッカがしぼんだーーーー!!?」


 俺よりも大きな巨狼に成長したゲッカは。

 初めて会った子犬時代と変わらない程に小さくなった。

現在のラグナの魔法

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所持スキルポイント:3

 火属性LV2 Next:消費MPを軽減。

 ∟天属性LV3 Next:威力が上昇。

 ∟爆発属性LV0 Next:魔法を修得。

 ∟光属性LV1 Next:消費MPを軽減。

 水属性LV2 Next:消費MPを軽減。

 ∟闇属性LV1 Next:消費MPを軽減。

 ∟腐食属性LV0 Next:魔法を修得します。

 ∟氷属性LV7:MAX

 風属性LV1 Next:派生属性を解放。

 地属性LV2 Next:消費MPを軽減。

 ∟金属性LV3 Next:威力が上昇。

 ∟植物属性LV2 Next:消費MPを軽減。

 ∟創属性LV1 Next:消費MPを軽減。

-----------------

◆災厄魔法

 嘘つきの炎   火 MP330

 伏ろわぬ神の雨 天 MP276

 破壊と再生   光 MP400

 六夜の洪水   水 MP325

 黒の行進    闇 MP100

 深く昏い国   氷 MP198

 貪欲の北風   風 MP380

 天牛降臨    地 MP300

 酩酊夢の贈り物 金 MP224

 世界樹の繁栄  植物MP280

 鍛冶神の三振り 創 MP350


◆殃禍魔法

 灰色の炎    氷 MP330

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