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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
4章 やさしい場所
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33.災厄と呼ばれた魔人

 こんにちは。

 かつて災厄の化身と恐れられた魔人、ラグナです。

 現在絶賛身に覚えのない三角関係について詰られています。


「私とラグナ様は常に背中を合わせて戦場を駆け巡っていた。いつまでも私とあなたと共に在るものと乙女時代の私はそう思っていました。けれど、」


 シューニャは懐かしむような目で俺を見るが、その微笑みにどこか(かげ)が落ちていた。

 200年前の俺に想いを寄せる女性、よく考えなくてもめちゃ年上だな。敬称で呼んだほうがいいかな。


「あなたはあの女の元へ行った。ルナリアは清楚で慈悲深い御方ですし……こればかりは仕方がありません、私はラグナ様はああいった女性がタイプなのですね」


 なのですね、じゃない。


挿絵(By みてみん)


 俺が関ってなければ人生経験豊かな女性の半生の話として興味深く聞かせてもらってたかもしれないけど、前の俺の話であって俺の話ではないのでわりと他人事なんだけど周りから『ラグナは清楚系女子がタイプ』みたいな目で見られてだいぶ居心地が悪い。

 前の俺が好みだったとか知らないし、200年前の当事者に言われてもハァそうだったんスかとしか答えようがないし!


 まぁ前の俺の好みはともかくとして、清楚なお嬢さんといえば確かにステラもそんなタイプだったな。俺にはガンガン攻撃してきたけど。


「ところでステラって誰です?」


 今度はジト目でクローバーが見てくる。

 な、なんだよそんな不機嫌そうな顔すんなって。


「「「これは、四角関係に突入の予感か!!」」」

「これが噂に聞く誰よその女!てやつじゃな」

「カラとワポルは何しに来やがったの??」


 おもしろい話の気配でも感じたのかカラやドワーフ達が次々やってくる。下世話な話に首をつっこもうとするんじゃない!


「あー、ステラはあれだよ。ユーリスの親友でインクナブラの司祭だ。クローバー迎えに行くときにいろいろあって軽く戦ったりしたんだけど」

「ああ、ボクがいない時に会った方ですか」


 クローバーを助けに行く時に会ったからクローバーは知らなくても無理はない、と説明したところでクローバーは納得してくれたようだ。

 俺にやましいことは何もないよ?

 いややましいって何の話だ。ともかく俺は何も知らないし身に覚えもない。三角四角関係など心外である。



「ところでインクナブラを火の海にしたラグナがインクナブラ出身の聖女を選んだって業深くなーい?」

「相手はあらゆる生命に慈悲深いと言われる聖女じゃろ?やるのうラグナ」


 パワーズとレイロックは完全に物見遊山スタイルだな。あの口縫い付けたい。


「今来たんだけどラグナ氏が二股かけた話してる?」

『群レノ長ハ、子ヲタクサン作ルモノ』

『一族ハ安泰ダナ』

「してねーーしうるせーーーよ!!オラ散った散った!」



 うるさいのを追い払ったところでクローバーが疑問を口にした。


「ところで200年前のラグナさんの眷属だったということは、シューニャさんは今でも眷属の契約が結ばれたままなのでしょうか?」

「あ、それは俺も気になった」


 前のラグナと俺は別人だけど体は同じだから今でも契約が結ばれたままでもおかしくない。

 俺の最初の眷属はゲッカだと思ってたんだけど、シューニャさんの方が先になるんだろうか。

 けれどもシューニャはゆるりと首を振った。


「いいえ、ラグナ様は封印する直前に私との契約を一方的に打ち切りました。私はもう眷属でもなんでもないただの一介の女です。ウフフ……爆殺」


 契約を解消できるって事はなんとなく知っていたけど打ち切ることもあるんだな。


「私はラグナ様のためなら世界の彼方までお供する覚悟でした。責めるつもりはありませんが一体何を思って契約打ち切ったのか。この200年考えない日は1日たりともありませんでした」


 責めるつもりはないと言いつつも未練をひしひしと感じる。

 シューニャさんの気持ちは前の俺が余程の朴念仁でも無い限り知ってただろう。

 眷属の契約は親子であり兄弟となり、同じ一族になるということだ。余程のことがない限り契約を打ち切るとかしないと思うけど何があったんだろう。


「もしかしたら今のラグナ様が何か覚えているかもしれないと思いアッシュ殿に同行を願い出たのですが。ウフフ、どうやらその答えを求めることはついぞ叶わないようです」

「……ひとつ聞かせてくれ、前の俺はどんな奴だった?」

「苛烈な御仁でした。その戦いぶりは非情にも見えたでしょう。けれど決して弱者を蔑ろにするような方ではありませんでした」


 かつての災厄の化身はもういない、今この体に入っているのは俺と言う全くの別人。


 最初こそヒャッハーしすぎたとんだ事故物件な体じゃねーかと思ったけれど、今となってはもうこの体でなければ困る。俺はラグナと無関係ではいられない。

 だからこそ前の俺がどんな奴なのかは知っておきたい。


 怒りに意識を支配された時吼えるラグナの記憶を追体験した時、災厄の化身ラグナは常に憤怒に突き動かされていた。


「200年前、亜人達は今より過酷な生活を強いられていました。その最中(さなか)に彼は生まれ、亜人(なかま)を踏みにじる世界を憎んで憂いて儚んだ。そしてラグナ様はこの世界の破壊を決意します。世を是正するにはこの世界は手遅れ。そう考えた彼は全てを破壊してその上で新しく始めようとした」

「ヴァウゥ……」

「世界の破壊、ですか」


 そしてかつてのラグナは戦と災いを呼んだ。

 当時の勇者や魔王を殺し、いくつもの街を焼いた終末の王となった。


 ラグナなりの信念があったんだろう。けれどもその信念が真摯で誠実なものだったとしても、一部の亜人以外から見れば覇道を貫いた悪の親玉、災厄の化身だった。


「ラグナ様の元には多くの居場所を持たない仲間が集いました。()しくも、今のあなたと同じように」


 シューニャさんはゲッカとクローバーを一瞥した。お調子者なところはあるものの、頼りになる俺の仲間だ。

 ゲッカとクローバーだけじゃない、ウィトルをはじめとする山の民たち、ハルピュイア、ドワーフ、そしてこのダンジョン村に集まった多くの亜人たち。

 このダンジョン村がある限り、きっとこれからも人は増えていく。


「でも俺は前の俺とは違う。以前の俺のやり方が良いとは思わないし、前のようにするつもりもない」

「それでいい。あなたはかつてのラグナ様とは違う、だからこそ私も諦めがつくというもの。私が焦がれたラグナ様とあなたは別人です」


 シューニャさんは会って間もないとのにかつての俺と今の俺は別人と言い切った。かつてのラグナを知っているからこそだろうか。


「前の俺が世界を壊そうとしたならシューニャさんはどうなんだ?まだ壊そうと?」

「いいえ、私はもう戦いからは退いた身。()()ラグナ様はもういなくとも、彼は少なからずこの世界を変えた。その行く末を見守っていくつもりです」


 魔人に契約を打ち切られて、その後魔人が封印されて。

 彼女の戦いはその時に終わったのかもしれない。


「そうか。問題さえ起こさないなら、この村にいる間は自由にしてていいから」

「ありがとうございます」


 シューニャさんにとって俺はかなり複雑な存在だろう。

 一緒に戦場を駆け巡り想いを寄せていたのに他の女の所へ行った思い人と同じ顔と体だけど中身は全くの別人だから。

 今の俺にシューニャさんの心に寄り添う術はない。



 ……気まずい。話題を変えよう。


「ねーねー。災厄の化身ってルナリア様に封印されたんじゃなかったっけ?」


 レイロックがふと疑問を口にする。ナイス話題転換だ!

 かつての俺はステラのご先祖様、『魔人特攻』という俺狙い撃ちなスキルを持つルナリアに敗北して封印された。


 ステラと戦った時、圧倒的ステータス差があるにも関わらず『常在戦場』がまともに機能しないわ攻撃がいちいち大ダメージになるわ結界から抜け出せないわで苦戦したからスキルの効果は身をもって知ってるよ。


「そうですね。前のラグナさんとルナリア様は敵同士のはずですが、何があったんでしょう?」

「フフ。そうですね……」


 クローバーの疑問にシューニャさんは微笑む。

 けれどもその目は獲物を見定めるような目つきで蛇のような印象を受けた。


「あなたは私が愛したラグナ様ではありませんが……それでもまだ私が惹かれうる御仁であると証明できたなら、教えて差し上げましょう」


 証明って?

 シューニャさんの言葉が紡ぎ終わるのと、慌ただしく翼をばたつかせたハルピュイア達が部屋になだれ込んで来るのは同時だった。


「ま、ままっ、魔人さまー!!」

「うぉっなんだフテロ!そんな慌ててどうした?」


 今日はやけに乱入者が多いな。

 今わりと大事な話していてだね。


「東の空に数十体のワイバーンに乗り武装した人間たちが見えました!こちらへ向かってきます!!」

「は?人間!?」

「ワイバーンに乗った人間ですか!?さ、最悪だ!」


 クローバーの顔が一瞬で青ざめる。


「ワイバーン隊を率いる空騎士の団長は六刃聖、禍姫(まがつひめ)スケアクロウです!」

「禍姫ェ!?」


 さっき話に出てたメルムの故郷ふっとばしたって女の名前じゃん!

 その女が出撃した戦場は地図から名が消えるとか物騒な言われ方してなかったか。このダンジョン村消されるのは困る。迎え撃たないと。


「シューニャさん悪い、話はまた後で!」

「もちろん、この村を優先してくださいませ」


「行くぞゲッカ!クローバー!!」

「ヴァウッ!」

「すぐに!」


 俺たちはすぐに部屋を後にして高台へ向かう。

 スケアクロウとやらがこの村の上空に到達する前に防衛態勢を整える必要がある。俺の頭は村のことでいっぱいだった。


 だから、独り残されるシューニャさんの独り言を聞くことはなかった。



「かつての災厄の化身(ラグナ様)にも成すことの叶わなかった最後の災厄、"終末(ラグナロク)"。果たして今のラグナ様が災厄を乗りこなすに足る人物かどうか、この戦で見極めるとしましょう」

余談ですが主要キャラクターは昔よく聴いていたアーティストの曲から受けたイメージをいくつか混ぜて作ってます。

ラグナのキャラクターを作る時に参考にした曲の1つはサザンオールスターズさん「愛の言霊」です。

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