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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
2章 犬とネコとの冒険
13/163

3.ケットシーのクローバー

 先ほど魔物を倒したところへネコミミを連れて戻ってきた。


 もったいないから猪肉の血抜きとかしとかないとな。

 食材が減ってきたから丁度良かった。

 作業しながらネコミミの話を聞く。


「名前はクローバーです。盗んだのはお腹が空いていたからですごめんなさい」


 ネコミミはクローバーと名乗った。


 腹を空かせていたので燻製はあげることにした。

 魚の燻製をかじる姿を見てるとお魚くわえたなんとやらってワードが頭に浮かぶな。


 一応クローバーも解析しておいた。

-----------------

 名前:クローバー

 種族:ケットシー

 LV:14

 HP:82/82

 MP:380/380

 速度:127

-----------------


 本人曰く戦闘は苦手で戦闘向きの魔法も使えない。

 でも逃げ足には自信があるという自己申告通り速度は高い。ゲッカがいなければ逃げられていただろう。


「こんな辺鄙(へんぴ)な所に食べ物も持たずに来たのか?」

「全部食べちゃいました。賞金稼ぎに追われて調達もできず」

「あー、あいつらか」


 ガソッドとか呼ばれてた賞金稼ぎがいましたね。

 そういえばアイツらは獣の耳の女を探してたようだけどクローバーを追ってたんだろうな。


「ま、まだ近くにいます!?」

「攻撃されたから返り討ちにした。心配しないでいいぞ」


 そう言うとクローバーは安堵の表情を見せる。

 まぁアイツらに捕まらないで良かったよホント。


「それよりお前も賞金かけられるようなことしたんだな?」

「まぁ……今更隠すことでもないですね。人間の街でいろいろ盗みまして」


 だろうと思ったよ。盗みはだめだよ盗みは。


「話を戻しますね。食料が尽きたので探してたのですが魔物に見つかって、その矢先にあなた達と会いました」

「最初から食べ物分けてくれって言えば分けたのになぁ」


 咎めるように言ったけれど返ってきたのは盛大なため息だった。

 クローバーは自分の耳を軽くつまむ。


「こんな耳にも親切にしてくれる人がいればそうしてたでしょうね」


 賞金稼ぎ達の言動から亜人の立場が弱いことは察しが付く。

 その上お尋ね者の身で食料を分けてくれなんて言えるはずもないか。


「それもそうか、悪かった」


 クローバーには人に頼るという選択肢が存在していなかった。

 生きるために盗むしかない、そういった環境で生きてきたのかもしれない。


 俺はこの世界のことを何も知らない。



 ◆



 猪の解体を終えた頃にはすっかり日が傾いていた。

 風を凌げそうな岩穴を見つけたのでここで休むことにする。


 夕飯ははシンプルに焼肉だ。味付けは迷宮で手に入れた塩。

 焼けた肉を皿代わりの葉に乗せてクローバーにも渡す。


「これお前の分な」

「え、いいんですか?」

「だって食べるものないんだろ」


 クローバーは遠慮がちに肉を受け取るけれど食欲には勝てなかったようですぐにかじりつく。

 がっつく姿は空腹のネコそのものだな。


 俺も食べよう。手を合わせてお行儀良く、いただきますってね。


「あなたはボクの耳を見ても態度を変えないんですね」

「ネコミミは好きだぞ。ロマンだからな!」


 当然だと言わんばかりに言ったのだけど、ロマン?と怪訝な反応が返ってきた。


「よく分かりませんが気持ち悪い以外の感想を言われたのは初めてです」

「誰だそんなこと言うヤツは」

「そりゃあなた以外から。むしろあなたこそ何者ですか?」

「そういや名乗ってなかったな。俺はラグナ、こっちが相棒のゲッカだ」


「――んぐ!?」


 クローバーが肉を喉につまらせたので水筒を渡してやる。水で肉を流し込んだあとクローバーは信じられないものを見る目で俺を見た。


「ラグナって災厄の化身の名前じゃないですか!」

「ふむ、その反応からするとまだ俺の知名度はあるんだな」


 ワンチャン昔のことだし忘れてくれないかなーって思ってたんだけど、残念。


「本物です?あなたのような露出狂が?」

「露出狂じゃねぇ!俺だって好きでこんな格好してるわけじゃねーの!」


 あの風のいたずらの一件のことを言ってるんだろうけど、俺だって服を着たい。

 露出狂扱いはウルトラ心外だ。


「あれは事故!悲しい偶然!第一お前だってしっかり見たじゃねーか!」

「あんなドヤ顔で格好つけてれば目のひとつふたついきますよ!」


 チクショウ否定できない!


「いやそれはどうでもよくて。それじゃあ昨日今日落星や地震が立て続けに起きたのって」

「あっこっちまで揺れたか?地震はホント反省してる。もう撃たない」


 クローバーは訝しげに俺のことをじろじろ見てくる。

 そんなに見ても肉体美しか出ないぞ。

 ニコリと笑って力こぶを見せた。


 スルーされた。



「……それで、その災厄の化身であるラグナさんはこれから何処へ行くんです?村へ天変地異を起こしに?それとも街へ戦争?」

「しないわ!!」


 そんな山へ芝刈り川へ洗濯なノリで天変地異だの戦争だの起こしてたまるか。


「魔人なのに!?じゃあ逆に何するんですか!?」


 逆にその二択以外ないの?

 オーケイ、きっとこれが魔人ラグナを目の当たりにした時の真っ当な反応だ。

 でも俺は人畜無害な魔人なんでな。


「つい先日目覚めたばかりなんだけど記憶を失くしてな。自分のことも世界のことも分からないんだ」


 転生については伏せておくけど封印で記憶を奪われたのは事実。

 実際は記憶どころか魂までなくなってて中身総とっかえだけどな。

 前の俺は戦争起こしまくりヒャッハー!だったけどそういうのは望んでないし、封印で記憶を失って考え方も変わったので前の俺とは違い平和に生きます!という方針でやっていこう。


「その、記憶を奪われたことを憎いと思ったりはしないのですか?」

「いや特に。今の俺はのんびり暮らすことの方が大事だ」


 前のラグナならいざ知らず、俺が直接何かされたわけじゃないからね。


「それでマイホーム建てる場所探してるんだよ。クローバーはいい場所知らない?のどかで平和な国とか」

「あればボクが行ってますよ」


 それもそうか。

 でも俺は穏やかな暮らしを諦めないぞ。

 傍らで丸くなっているゲッカを撫でてやる。もう眠そうだな。


「でもさ、俺もゲッカもクローバーも、違う生き物だけどこうして一緒に飯を食えただろ。どこかにあると思うんだ、こうやって違う人達が一緒に飯を食べることが当たり前な場所が」

「まぁ、夢を見る権利なら誰にでもありますね」


 出鼻を挫くようなことを言うんじゃない。

 それでも探すぞ俺は!


「つーわけで人間に会いたいんだけど、ここから一番近い人間の街ってどの辺だ?」

「……んぐっ!!」


 クローバーが肉を喉につまらせた。

 2回目だな、カカカせっかちさんめ。


「人間の街?は、なんで?ない、ないです。絶対やめた方がいいです」

「そ、そんな否定しなくてもいいだろ」

「しますよアンポンタン!」

「アンポンタン!??」


 泥棒にアンポンタンと言われる日が来るとは。


「あなたは200年前に大陸中を巻き込む戦争を起こした張本人ですよ!?」


 突然に大声にゲッカが驚いて目を覚まし辺りをキョロキョロしはじめたので撫でて落ち着かせた。

 大丈夫大丈夫、なんでもないぞ。


挿絵(By みてみん)


 それにしても、前の俺がやらかしたことは知ってるけど俺がやったかのように言われると実感がない。

 身に覚えがないし、つか俺やってないし。


「でも生きてくなら人間と付き合っていくことも必要になるだろ?攻撃されたら反撃するけど何もしないなら俺も何もしないぞ」


 何もしないことで災厄の化身は安全な奴だと思ってもらおう作戦!

 ……と思ったらクローバーから全力でNOを突き付けられた。


「いやもうあなたに争う気があるかとかそういうレベルの話じゃないんです。魔人が生きていることそのものが不安で仕方ない。あなたが生きていることが不都合、そう思う人がいくらでもいるんです」


 そう言われると確かに。


"魔人がいつ気まぐれで襲ってくるか分かったものじゃない。なら倒してしまおう!よーし倒すぞ!どんな手を使ってもいい、報酬は出すから魔人を倒せ!"


 とか、


"魔人復活!これはチャンスだ!倒せば報酬たんまり、一躍英雄になれること間違いなし!オレは乗るぜ、この魔人討伐ビッグウェーブに!"


 とかありそうだもんな。



 それに1対少数ならともかく国単位の物量で攻撃されたらさすがにこの体の耐久力でもどうしようもないだろう。


「とにかく人の街に行くのはやめた方がいいです。二度目の大災を起こしたいのなら止めませんが」

「お、おう。じゃあ街は保留にしよう」


 忠告は受け取っておくべきだ。

 行くとしてもこの世界をもっと知ってから。

 となると別の問題が出てくる。


「俺買い物とかしたかったんだけどな。服とか食料だって欲しいし」

「あなたなら奪った方が早いですよ」

「そういうのはやりたかないんだって!」


 人は一人じゃ生きていけない、支えあって生きていくとはよく言ったもの。

 俺と末永く付き合ってくれる人が欲しい。

 恋人とかそういうんじゃなくてね、いや恋人は欲しいけど。


「それなら隊商(キャラバン)と接触するのはどうでしょう」

隊商(キャラバン)?」


 旅する商人集団のことだよな?


「人間は他種族に対して排他的ですが、他種族を滅ぼすことは滅多にありません。人間にとっても不利益なので」

「不利益?」


 クローバーの説明は続く。


「例えばドワーフの造る武器は人間の武器より質が高いので人間からも好まれます。ですから人間はドワーフを嫌ってますが滅ぼしはしません」

「良い武器が手に入らなくなるもんな」


 専門家に任せた方が質も効率も良いのは当然だ。


「となるとドワーフの住処へ行って、武器を買い付ける人が必要ですよね」

「商人だな」

「ええ、商人は差別感情よりも金を優先します。金になるなら相手が魔王だろうと神だろうと算盤(そろばん)を弾く生き物です」


 なるほど、人間であって人間と異なる生き物か。


「商売なら魔人(おれ)相手でも話を聞いてくれるってことか!」


 買い物が出来れば必要なものも手に入る。

 次の目的は商人に会うことだな!

 服も手に入る。

 下着!下着がほしい!!


「でもお金なければ相手してもらえませんよ。お金あるんですか?」

「アリマセン」


 ため息と共にジト目で見られた。

 仕方ないだろ、目覚めたばっかなんだから!





 ゲッカはとっくに夢の中。

 俺たちもそろそろ眠ることにする。


 寝やすいようになるべく平らな所を探していたらクローバーが収納魔法からテントを取り出した。


「え!?いいなぁ!?」

「1人用なので入れませんよ。ラグナさんには小さいでしょうし」

「別に入ろうとは思ってねーよ!」


 枕や布団も収納してあるそうで、お尋ね者なのに良い暮らししているようだ。

 俺の今後の目標に枕と布団で寝られる環境を手に入れることを付け加えて、俺は固い地面の上で眠りについた。




 眠りに落ちる直前。

 クローバーが言っていた人間とドワーフの話を思い出す。


 "ドワーフの造る武器は人間が作るものより質が良く人間からも好まれます。だから人間はドワーフを嫌ってはいても滅ぼしたりはしません"


 それなら、もしも人間がドワーフよりも優れた武器を作れるようになったら。

 ドワーフがいなくても良い武器を生産できるなら。

 人間はドワーフを滅ぼすのだろうか。


 殺しても不利益ではなくなった時。

 嫌いだからという理由で隣人を滅ぼすだろうか。

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