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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
4章 やさしい場所
121/163

20.黒の装甲

-----------------

 名前:タージグレ

 種族:魔族

 LV:126

 HP:2490/2610

 MP:654/654

 攻撃:2466

 防御:1437

 魔法:903

 抵抗:1350

 速度:122

 所持スキル

『熊虫の護り』『爆熱』『瘴気兵装』

『熱無効』

『乾坤一擲C』『爆発魔法B』『火魔法B』

-----------------


 タージグレを解析すると案の定LVが高いしステータスも高い。

 でもステータスなら俺の眷属ボーナスが加算されたウィトルも負けてないぞ。


「行くぞーーーッ、"水大砲(アクアカノン)"!」

「うぬぅ!!」


 思った通り、ウィトルの水の攻撃はタージグレに効果が高いみたいだ。

 大雨はタージグレにとって不利なフィールドな一方、水に強いウィトルはめちゃくちゃ元気。

 LVだけで見ればタージグレの方が圧倒的だけど、タージグレはステータス低下(デバフ)がかかってウィトルはステータス上昇(バフ)がかかっているような状態だ。

 あと地味に雨で今も山のどこかにいるイビルセクトを倒したりしてLV上がってるんだろうな。解析する度にLVがちょっとずつ上がってるし。ちなみに今はLV45でクローバーのLVを越えてしまった。


「ッしゃー!いける、いけるぞオレ!」

「小癪な、蜥蜴が!」

「どうしたムシ野郎!動きにくそうだな!」


 ふとゴーレムが転がってウィトルの方に向かっていくのが見えた。


「おっと、邪魔すんなよ!」


 ゴーレムをパンチで砕く。確かゴーレムは再生能力を持っているけど核を砕けば完全に停止するんだったな。


「ゴーレムはラグナさんには物足りないみたいですね」

「お、クローバー。小さいゴーレムはもう片付いたのか!やるじゃん!」


 辺りを見れば大きいゴーレムは残っているものの、クローバーに任せたザコゴーレムは一掃されている。

 感心しているとクローバーが言いにくそうに目を反らす。


「や、その。ゴーレムって固いからボクと相性悪くて……でもゴーレムって生き物じゃないから収納できるんですよ」

「あ、そうなの」


 つまり倒すの大変だからゴーレム収納して無力化だけしてきたってことか。

 それはそれですごいな。

 収納魔法は生き物は入れられないって言ってたけどクローバーが生き物かどうかドワーフの家や隕石を放出したから収納の容量も余裕があるようだ。


「無力化できてるんならどっちでもいいけどな。収納して中で暴れないのか?」

「暴れてるとは思いますけど、何せ亜空間ですからゴーレムの物理攻撃では出ようがないと思いますよ」


 なるほど。ゴーレムとかロボ系は収納で対処可能みたいだ。

 何かに使えるかもしれないし、せっかくだから小ゴーレムは収納しといてもらうか。

 でも大きいのはきちんと倒しておこう。


 背後で立て続けに水柱が4つあがった。


「うはははは!いいぞ!新しい大砲いい感じだッ!」

「ぐぬ……!」


 ウィトルがめちゃくちゃいい笑顔だけどやっぱアイツハッピートリガー気質あるわ。

 レイロックが改造した大砲は普通の爆弾とウィトルの水弾の打ち分けが可能のようで、爆弾が地形を砕き、水が抉っていく。

 いつかこの山崩しそうだな。


「まずは貴様たち狭間の王の眷属から亡き者にしてくれる!眷属を撃てば狭間の王もまた弱体化する。魔王様もお喜びになられるはずだ」

「魔王魔王と!しつこいオスは嫌われると相場は決まっているぞッ!」


 うんまぁそうだね。

 どっちかっていうとしつこい男は嫌われるって恋の駆け引きとかで使われるイメージあるけど。


「嫌われてなど、おらぬ!!」


 出世欲はともかくとして、過剰な自己顕示欲はボク好きになれないタイプだな俺は。


「だったらこの任務失敗させてさらに嫌われさせてやるぞッ!」

「馬鹿の一つ覚えが!当たらぬわ!」


 大砲を構えたウィトルの懐にタージグレが素早く潜り込み拳を入れる、かと思った時ウィトルの鞭のような尾がしなりタージグレを打ち付ける。

 タージグレがよろめくものの大きなダメージを与えるには至らなかったようだ。

 けれどもタージグレの顔は憤怒に歪み続けている。


「劣等種がこのワシに!何をした!!!」

「げぼっ!!」


 3本の腕によるラリアットがウィトルの頭、胸、腹を撃つ。


「ウィトル!」

「ゲホっ!き、効いたァ……」


 まだ動けるものの至近距離から受けたダメージは大きいようだ。

 高い攻撃力は飾りじゃないってわけか。


「だから!劣等種は嫌いなのだ!鈍間(のろま)で脆弱な癖に進化したくらいで己は強いとすぐ勘違いを引き起こす!」

「オレに苦戦してる割によく吠えるじゃないかムシ野郎!」

「言うとも!貴様たち亜人にはうんざりしているところだ!いつもワシの邪魔をしおって!!」

「いつもだと?」


 性格はアレだけどタージグレは高LVの魔族。魔将軍とやらになれないものの魔将軍に近い実力は持っているはずだ。

 さすがにそんなタージグレの邪魔をできる亜人なんて限られるんじゃないか?


「亜人の小僧なんぞが魔将軍の、ワシが座るはずの席を奪いおったのだ!」

「知るかーッ!!!お前がその亜人以下だっただけの話だろうがッ!」

「ワシが、劣等種以下だと!?」


 タージグレの目が血走りだす。どうやらウィトルの発言が地雷ぶちぬいたみたいだな。



「なぁクローバー。ああ言ってるけど亜人も魔将軍とかいうのになれんの?」

「魔将軍は単に魔王が選んだ魔族軍の幹部という地位(ポスト)ですからありえますよ。過去、洗脳された勇者である人間が将軍となった例もありますし」


 人間領に亜人が住むように魔族領にも亜人が住んでいる。

 もっとも魔族領には瘴気が蔓延する場所が多く、人間領(こちら)より過酷な環境。

 そんな魔族領に住む亜人は同種でも人間領の亜人戦闘力が高いことが多いそうだけど、タージグレの発言からすると実力さえあれば亜人でも魔族の重要な地位につけるってことか。

 人間領は亜人ってだけで冒険者ランクはC以上にならなかったり薄給で働かされてるのにな。


「なんだ。魔王思ったより話できるかもしれないな?」

「でも魔王って宣告で蹂躙する王とか名乗ってましたよ。問答無用で亜人の奴隷化を進める人王よりはマシかもしれませんが」


 向かってくるゴーレムまた一体粉砕。

 ゴーレム退治はこんなところかな。あとはゲッカがリザードマン達を安全な所まで護衛してればいいんだけど、ゲッカなら大丈夫だろう。



「燃え尽きろ!!"グランドヒート"!」

「受けて立つ!"激流砲(ハイドロキャノン)"!!」


 タージグレの6本腕が赤く光り、腕の中央にめらつく炎が現れる。対してウィトルは『水操』スキルで周りの雨や水を集め巨大な水の球を作る。水の球が大砲に注がれた。

 炎から強大な熱波と大砲から激しい激流が放たれるのは同時だった。


「全て燃やし尽くせぇ!」

「鎮めろオレの雨!!」


 水と熱がぶつかりあい、水蒸気爆発が起こる。

 溢れる気化熱で視界は一瞬で水蒸気の白で埋め潰される。

 高温の水蒸気に包まれれば大火傷では済まない。離れた場所にいる俺たちのところまで熱気を帯びた水蒸気が舞い上がる。

 雨が降っているのが幸いだ。


「け、けほっけほ!」

「ゲホッ!ゲホ!おいウィトル、無事か!」


 その時水蒸気の中から大柄な人影が飛び出してくる。

 ウィトルだ!


「無事ですラグナ様!でもあッッッッつ!」

「ウィトル、体の色が!」


 高温の水蒸気にさらされたウィトルの体は全身火傷を負ったようで体の表面が変色して痛々しかった。

 これ以上の戦闘は控えた方が良さそうだな。まずは雨で体を冷やして……。


「大丈夫ですラグナ様!オレには再生能力がありますからッ!」


 得意げに力こぶを作ってみせるウィトル。確かにみるみるうちにただれた体表が元に戻っていく。

 ところで力こぶ作る意味はある?


「……お前も強くなったなァ」

「ラグナ様にそう言っていただければありがたき幸せですッ!」


 俺の手をとってぶんぶんと振るウィトル。

 まぁ強いのは良いことだ。ウィトルなら力の使い方も間違えたりしなそうだしな。


「それよりタージグレは?アイツが熱で死ぬとは思えないぞ」


 なんたってタージグレは『熱無効』のスキルを持っているからな。


「ならあのケムリ晴らしますかッ!」


 ウィトルがノーム爆弾を地面に向けて撃ち出した。爆風で水蒸気が吹き飛んでいく。

 雨でも打ち出せる爆弾すごいな、どうなってるんだろう?


 晴れた水蒸気の中、6本腕が佇んでいた。

 だがその体の周りには先ほどまでと違い黒い靄がタージグレの周囲を渦巻いている。


「この靄、瘴気か!?」

「……澱んでる……高濃度の瘴気です!」

「ひよっこ共に教えてやるぞ!亜人と魔族の格の違いを!」


 タージグレが憤怒の顔のまま狂気の笑顔を浮かべている。

 そして顔や体に瘴気がヘドロのようにまとわりついていった。


「人間や亜人にとっては体を蝕む瘴気だが、我ら魔族はこの瘴気と共に生きて来た。優れた魔族はこの瘴気と一体化し変身する能力を持っている。即ち、瘴気を纏った真の姿を別に持っておるのだ!」


「カッ!いちいち御託の多いムシだな。とっととかかって来いよ!」

「何が来ようとオレが倒してみせますよッ!」


「見るがいい、これがワシの真の姿だ!」


 タージグレがふーっと溜め込んでいた息を吹き、パンプアップで衣服が胸元から引きちぎられて緑の胸と肌が露出する。

 その緑の腹に、太い腕周りに、それから全身に瘴気が纏わりついて体は黒い塊となっていった。

 まるで漆黒の繭のようだと思った瞬間、黒い塊がはじけタージグレの真の姿が現れる。


「貴様たち劣等種にとっては触れるだけで気がふれる猛毒の濃瘴気を昇華させ皮膚として鎧として纏うエリートの証である。さぁ、とく見るがいい劣等種共!」


 タージグレの言う通り、体は濃い黒の瘴気がまるで鎧のように装着されている。

 鈍く光る黒の鎧は見るからに固そうで、硬質化した体は熱を放っているようでタージグレにまとわりつく雨を瞬く間に蒸発させていた。

 猛毒同然の固い瘴気で身を守った高熱の姿。


 額から2対の瘴気の触覚が生え、鈍く黒光りする6本腕。


「……」

「…………」


 俺たちは固まった。





「「「ゴキブリだーーーーーーーーーーー!!!!!!!」」」


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界にもゴキブリがいるんですね。笑った。
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