2.泥棒を捕まえよう
魔物の群れと戦っている間に少女に荷物を盗まれた。
あの荷物には水や食料、調理器具や黄金の果実も入っている。
「ゲッカ、追えるか!?」
「ヴァ!」
ゲッカが鼻をフンフンいわせて走り出す。
逃がさないからな!
少女を見つけるまでそう時間はかからなかった。
「ヴァウッ!」
「いたー!!!さっきの女!」
「あ、ヤバっ!」
少女は魔物と戦った場所から少し離れた大きな岩に身を隠していた。ゲッカの嗅覚がなければ見つけられなかっただろう。
「オイコラー!荷物返してもらおうか!」
「ボ、ボク何も持ってません!」
泥棒はボクッ娘、いやそれはどうでもいい。
少女は両手を上げて降参のポーズを取る。思ったよりアッサリ投降したな。
少女はほぼ手ぶらで俺の荷物を持っている様子はない。
鞄は鍋とか食器も入っていたからフードマントの下に隠し持てるようなものでもない。
どこかに捨てた?もしくは隠したか?
「ヴァウルルル」
ゲッカがジト目で唸る。
少女が耐えきれずゲッカから目を反らした。
「オイ、何か隠してないかお前」
「気のせいでは、うあっ!?」
ゲッカが不意打ちで少女を後ろから頭突きをきめると服の下からドサっと落ちてきたのは魚の燻製だった。
「俺が作った燻製!やっぱお前が盗んだんじゃねーか!」
「くっ」
「コラ、逃がすかっ!」
言い逃れできないと判断した少女は体を翻す。
咄嗟に両手で捕まえようとしたけれど、少女は軽やかに跳ねて俺の腕は空ぶった。
「んげ!」
跳ねた少女はそのまま俺の顔に着地。
その不届きな足を掴む前にまた高く飛び跳ねて、少女は容易く俺の背後へ抜けていった。
……顔面踏まれても全く痛くはないけどさぁ!めちゃくちゃ屈辱的!!
「待ちやがれーー!」
「べぇだ」
少女があかんべしてそのまま走り去る。
このままじゃ逃げられる!
……俺だけだったらな!
「ゲッカ!任せた!」
「ヴァウ!」
「わ!?」
ゲッカが少女のフードに飛びついて思い切り引っ張れば少女がバランスを崩して転倒した。
「こ、こら、やめっ……」
必死にフードを引っ張るものの抵抗虚しくフードがめくれれば、ぴこん!と大きなネコの耳と青みがかった銀髪が晒される。
「ネコのミミだと!?」
少女には大きなネコの耳がついていた。
ネコと女の子。
かわいいものとかわいいものを合体させれば必ずかわいくなる……イヤ絶対そうなるとは限らないけどかわいくなる好例だ。とか言えば胡乱な目で見られるだろうから言わないけど。
「ヨーシ捕まえたぞ!」
「きゃあ!」
壁に押さえつければ小柄なこのネコ少女の体格ではもう逃げられない。
「もう一度聞くぞ。俺たちの荷物どこにやった!」
「し、知りませんって。持ってません!」
ネコミミ娘が抵抗して蹴りつけてくるけどそよ風の如き抵抗だ。
こちとら虎とか鷲とかでかい骨とか賞金稼ぎとかの攻撃を受けてきたんだよ。
「放せ!放して下さい!この、変態!露出狂!」
「グハッ!!ひとが気にしてることを……!」
俺だって好きでこんなギリギリの格好をしているわけじゃない。
傷ついた、もう容赦はしない。
脇こちょの刑に処すことにする。
「えっあ、ちょっ……あ、あはははは、きゃははは!まっ、待って!待ってくださ!無理むり!あははははははははははは、はははっあは、はははっ、ひ、ひぃっ!!だ、出す!出すからっ!きゃはは、はっ、やめ、やめてくだっあはははははは!!!」
よし効いてる。
くすぐりに弱いタイプだぞ!!
「荷物はどこだ?」
「やめ、あはははははは!これ、うははっはっ、はっ!出せない!あははははははは!」
「もう悪さしないようにもう少しくすぐっておくか。しっかり反省しろ」
「きゃっははははは!そんな、まっ、あはははは!ごめ、ごめんなさ!あははははは!もうゆるして、あはははあはは!ダメっ、ダメですうはははははは!」
これで生意気なネコ少女も懲りるだろう。
◆
このくらいにしといてやるか。
どさくさに紛れてネコ耳をモフモフしたのは内緒。
くすぐってる時に邪魔なのでフードマントをはぎ取ったら耳だけでなく尻尾も生えていた。
ネコの獣人ってところかな?
マントの下は軽装で動きやすそうな格好。
持ち物は水筒と短いナイフのみでいくらなんでも旅をするには軽装すぎる。
どこかに隠し持ってるか、近くに隠れ家とかあるのかな?
「そんじゃ改めて荷物どこに隠したか教えてもらおうか」
「ヴァウウゥ!」
ネコミミはぐったりしていたけれどゲッカが耳をかじればビクッと跳ね起きてヤケクソのように両手の指をあわせる。
「やりますやります!出しますよもう!――"出てこい"!」
少女の声と同時に突然宙に銀色の物体が現れた。
「これは……」
ジッパー。
どう見てもジッパーだ。
チャックとかファスナーとも呼ばれるアレ。
ジッパーがひとりでに開き、宙に穴が開いた。
……え、これどういう仕組み?
「どうぞ」
少女が普通にジッパーに手を突っ込み、中から渋々といった感じで荷物袋を取り出す。
間違いなく俺たちが持って来たものだ。
「……よし、燻製以外全部中に入ってるな」
「魚にしか手をつけてません」
タブレットや黄金の果実がちゃんと入ってることを確認したので気になったことを尋ねる。
「このジッパーは何だ?」
「ジッパーって?」
しらばっくれてる感じでもなく首を傾げているから本当に知らない様子。
いやお前が出した奴なんだけど……あ、もしかしてジッパーって名称が分からないのかな。
「お前が出したこの穴開けるやつだよ」
ちらりとジッパーの中をのぞけばいろいろな物が入ってる。
……全部盗んだものじゃないだろうな。
「何と言われても、ボクの収納魔法です」
「収納魔法?」
「文字通り収納するだけの魔法ですね」
収納するだけって。
え、そんな便利な魔法があるのか。この魔法があれば荷物袋とかいらないんじゃない?
こんな便利な魔法が使えれば軽装でも問題ないわけだ。
「これ俺も使えないかなー」
「修得しようと思ってできる魔法ではないので難しいかと思います」
がっくり。
火の海とか地震とかよりこういう便利魔法の方が欲しかったよ俺。
聞いてるか自称天使達!
「ヴァウ!ヴォン!」
ゲッカが吠え立てる。
そうだ、まだ聞くことがあったな。
「よし、その魔法はもういいや。次はお前の取り調べだ」
ですよね、と少女は項垂れた。
「まずはお前の名前からだな。それから何故盗んだのかをだな」
ぐうぅ。
大きな腹の虫の音だ。
俺じゃない。ゲッカでもないよな。
ネコ少女が顔を赤くしていた。