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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
4章 やさしい場所
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13.悪辣の蟲

 ジネヴラに案内されてやってきました山の頂。太陽が近い。

 別に耐えられないとかじゃないけど、熱でジリジリ陽炎が揺らめく光景を見ると気分的に暑い。


「にしても……変わった食い物だなァ。氷の食い物とは」

「かき氷っていうんだ、暑い時はやっぱコレだよな。……あ、急いで食うと頭キーンてなるからゆっくり食べるんだぞ」

「……もっと早く言って欲しかったぜ」


 もう経験済みだったか。

 ともかくかき氷はリザードマンにも好評みたいだな。

 リザードマンは暑さに弱いから、以前氷の災厄魔法を使った時に採取&収納した氷を削ってかき氷にしてみた。シロップはストックしてあるイチゴを絞ったもの。


「こう暑いなら今度は氷の災厄魔法使うのもアリだな」

「災厄魔法ってのは……前使った7日続く洪水は水の災厄だったよな?氷のはどんなトンチキ効果なんだ、7日猛吹雪にするとか?なんてなギャハハ!」

「わりといい線いってる。7日じゃなくて俺が消さない限り永続だけど」

「は?」


 お、そのポカンとした顔いいリアクションだね。

 そう、氷の災厄魔法は一度使うと吹雪が半永久的に続くからホイホイ使えないんだよ。

 スルトに通じないどころか掻き消されたこともあるけどあれは曲がりなりにも神だから仕方ない。


「ラグナのダンナの魔法はつくづくトンデモだなァ……うおっ、前方から蟲どもが来たぜ。うわ、耳付きの蟲は初めてじゃないか」

「おおう……黒く染まった虫の体からヒトの体の部位が生えるって何度見ても慣れないな。耳付きってのはどういうヤツだ?」

「ウィトルや族長が言ってたんだよ。これまでの蟲は口が生えてたけど穢れが進むと目ん玉や耳、腕が生える奴も出て来るだろうって。ところでダンナ、オレ達火は苦手なんだがダンナの魔法でどうにかできねぇか?」

「そりゃできるけどホイホイ使えないんだってば」


 穢れが進むと口だけでなく他の部位が生えて来るってことか。なんでわざわざ人間の体の部位が生えるのかね。

 その時蟲たちの親玉と思しき巨大なイビルセクトが耳をこちらに向けた。

 耳から空気の通る音が聞こえるや否や、業火が俺たちに向かってまっすぐに放たれる。


「げえええ気持ち悪い!こんな奴らの相手とかしてられっか災厄魔法、深く昏い国(ニヴルヘイム)!!」

「うお!ナマ災厄魔法!」


 ホイホイ使わないと言ったな。あれは嘘だ。

 いや口から火はまだ許せたけど耳から火は見た目がなんか精神的にいろいろゴリゴリ削られてとてもイヤ。

 そんな蟲達も俺の魔法で次々と氷漬けになっていき絶命していく。火を噴くだけあって寒さには弱かろう。


「それにしても今まで見なかった奴が現れるって得てして悪いことの予兆だったりするんだよな……いやこういう事言うとマジで嫌な事起こりそうだから今のナシね。何も言ってない」

「お、おう?」


 はははいやまさか。フラグなんてないない。この辺に怪しいところなんて、この黒い煙がわく岩穴の中くらいしかないだろ。

 ホラ穴の中に妙な魔方陣が設置してあって、今まさにイビルセクトが黒い煙と共に湧いて出てきて……来て……?


「待て待てまさに悪いことの予兆があるじゃねーか!?」


 魔法陣からはまさに耳と口が体から生えたイビルセクトが出てくるところだった。

 幸い氷の災厄魔法で辺り一面が極寒の地なので出てきてすぐに凍り付くけど人為的に設置された魔方陣からぴょこぴょこ出てくる魔族領の蟲。

 魔族領の魔物が出て来る魔法陣とか明らかに魔族の仕業だ。


 軽い気持ちで悪いことの予兆とかフラグ建てたら爆速で回収されてしまった。

 クローバーやゲッカがいたらホラそういうこと言うからとジト目で見られるとこだったな。


 ところでもうちょっとこういう時にツッコミとか合いの手が欲しい。どうかな静かにしているジネヴラ君よ。


「……ジネヴラ?」

「グ、ガ、カガ……ッ!」

「お、おい!?大丈夫か!?」


 静かにしてると思ったらジネヴラが青い顔をして呻きだす。

 魔方陣から漏れる黒の煙でリザードマンのウロコが爛れて、鈍く黒い粘りが体の表面に浮かぶ。

 瘴気に耐えられない個体は穢れ姿と呼ばれる黒い泥を纏った姿に変化すると、クローバーが言っていた。


「グ、う、ガアっ、ぐ、グルジ……」

「くそっ!」


 我を失い暴れるジネヴラを押さえつけ、原因を探す。

 原因は十中八九魔方陣から噴き出る黒い煙。

 魔方陣の描かれた岩を力任せに殴りつけるが魔方陣はまるで結界か何かに守られているかのようでビクともしない。


 だったら、塞ぐ!


 辺りの岩を砕いて岩をガンガン魔方陣の前に投げ込めば魔法陣から洩れる黒い煙はだいぶ抑えられ、魔物も出てこれなくなった。

 煙の位置から離れた所にジネヴラを運んで落ち着くのを待つ。


「ゲッホ!ゲホゲホ!す、すまねェ……。あの煙吸ってから、体がおかしく……」

「仕方ないさ、ちょっと休め」


 結構吸い込んだもんな。

 幸い俺は煙を吸っても影響はない。魔人の体だからだと思うんだけど、俺より遥かに大柄な体躯のリザードマンがちょっと吸ってコレだとノームとか一発アウトだったりしない?

 こんなことではこの山がヒトの住め場所じゃなくなってしまう。


 ………。


「思ったよりマズいことになってるのでは?」

「ラグナさーん!大変です!」

「え、クローバー!?」

「ヴルルル!」


 駆けるゲッカと共にやってきたクローバーが手を振りながらやってくる。

 もう担当する場所の蟲掃除は終わったのかな?良いタイミングだ。ちょうと聞きたいことがあって。


「クローバー、魔方陣から煙が噴き出してジネヴラがおかしくなったんだけど何か分かるか!?」

「やっぱりこちらにも瘴気が蔓延してたんですね」

「瘴気!?」


 さっき言ってたやつか。

 魔族領に蔓延してて、耐えられない奴はイビルセクトのような歪な姿になるとかなんとか。


「瘴気を浴びたのが短時間なら空気のきれいなところで休めば回復する筈です」


 それなら良かった、瘴気と聞いてヒヤっとしたぜ。


「イビルセクトに口だけじゃなくて耳まで生えてたんだけど、それも瘴気と関係あったりする?」

「それです!ボクらも西側の蟲の群れを倒して来たのですが魔物のケガレの侵攻が進んでいたのと魔方陣があったのでラグナさんに報告しに来ました。付近の瘴気が濃くなったみたいですね」

「そっちにも魔方陣あったのか」


 となると残るウィトルのとこにも魔方陣がある可能性が高いな。

 ゲッカのたてがみからひょこりとノームのラヴィが顔を出す。


「この瘴気、どこから持ってきてるんでしょうー?」

「そりゃ魔族領からじゃないか?」

「結界付きの魔方陣は維持だけでも大変なので、相応の魔力を持つ術者が近くにいるはずです」


 ということはまだ魔族がまだこの辺りにいるってことか。


「ラバルトゥといい、維持だけでも大変だってのになんでわざわざこの山狙ったんだろうな?戦争なら人間の街を襲うだろ?」

「この山でないといけない理由があるのかもしれません」


 この山でないといけない理由かぁ。ノームとリザードマンがいる以外普通の山だと思うんだけどな。

 情報が少なすぎて分からない。

 暑さでこの辺りのネコは生息できなくなってしまってクローバーの情報収集も効果を機能しないし。


「俺もクローバーも魔族と遭遇してないってことはウィトルが魔族と相対してるかもしれないな、行ってみるぞ」

『ああ、早く来た方がいいだろうな狭間の王』

「!?」


 背後から声。

 そこにはいつの間にか青白く光る男が薄気味悪い笑みを浮かべて立っていた。


「なんだてめぇ!」

「ヴァウア!!」


 半ば反射で岩を投げたが岩は虚しく男をすり抜けた。


「実態が無い!?」

「幻影をこの地点に投影してるんです。本体は別の所にいます」


 いわゆる立体映像とかそういうやつだろうか。ならこの青白い奴に攻撃しても無意味だ。


『一応挨拶しておこうか、狭間の王ラグナ。ワシはタージグレ、魔将軍になる男だ』

「タージグレ……アラクネが言っていた奴か!」

『アラクネが世話になったようだがワシにはもう必要ない女だ、そちらで処分しても構わんぞ』


 俺だってアラクネはどうでもいいけど、部下に対してこの発言はダメな上司パティーンだな。

 青白い幻影の男、タージグレが懐からティーカップを取り出して呑み始める。なかなか腹立つムーブしてくれるな。

 クローバーがそっと寄って来たかと思えば小声で話しかけてきた。


「……魔将軍になる男って、まだなってないって言い方ですよね?」

「あ、それは俺も気になった」

「ヴァウヴァウ」


 バリン、とカップが砕ける音がした。

 小声で話してたつもりだけどタージグレに聞こえていたらしい。

 こめかみをヒクつかつかせながらタージグレは代わりのカップを取り出した。


『……フン、なるさ。もうじきな』


 魔将軍じゃないことを気にしてるっぽいな。

 そういうえば以前ノーラン領でメロウ達を捕らえていたバフォメットも魔将軍と名乗ってたな。

 名前からして魔王軍の将軍とか幹部ポジションでそこに就きたいってことだろうな。出世欲がある奴だ。


「オイ6本腕。早く戻った方がいいってのはどういうことだ?」

『ノーム達もこうなるかもしれんからな。あー……どこへやったかな?アレは』


 目の前のタージグレの幻影は6本の腕で紳士服の懐をあちこち漁りだす。

 

『おおあったあった。コレだ』

「なっ!?」


 タージグレが取り出したのは黒い鱗に覆われたリザードマンの手首。

 青白くぼやけてよく見えないものの、手の甲の小さな石が赤黒く光る。その光り方は知っている。

 もう何度も見て来た俺の力の一部、魔片の光り方だ。


「その手、まさか!」

「ウィトルさん!?」

『ムハ、ムハハハ……そういえばそんな名前だったかな、あのリザードマンは』


 タージグレはなにやらおかしくてたまらないといった顔だ。

 控え目に言って殴りたい。よし、直接会ったら殴る。


『このワシに歯向かったからオシオキしてやった。だがこのトカゲももういらんからな。そちらに魔方陣があっただろう?ワシは親切を心掛けているのでな、なんなら送ってやろうか。お近づきのプレゼントだ。ああ、でも魔法陣を岩で塞いでいたな?その状態で転移したらどうなると思う?」


 瘴気を塞ぐために俺は魔方陣を大量の岩で塞いだ。

 あの転移魔方陣で今ウィトルが送られてくれば、そのまま大量の岩に押しつぶされる。


「冗談じゃねぇ、やめろ!」

『10秒後にそちらに転移するぞ。急げ急げ!』


「ラグナさん、待ってください、罠で――」


 ウィトルが転移されれば岩に押しつぶされてそのまま即死する、それなら岩をどかすしかない。

 ほとんど反射で魔方陣を塞いだ岩に拳を振り下ろせば岩もイビルセクトの亡骸も粉々に砕けて吹っ飛んだ。

 魔方陣が目の前に現れる。


『転移完了だ。じゃあな、愚かな王』

「は?」


 魔方陣から転移された物体に目が奪われる。


 初めに飛び込んだのは魔片が奪われたリザードマンの手首。

 そして同時に送られてきたのは俺も何度もみたことのある、ノームの大量の爆弾だった。




 数百キロにも及ぶ大量の爆弾が目の前で一斉に起爆した。

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