12.魔族討伐だ
ウィトルと再会した俺たちはウィトルに案内されてノームの洞窟にやってきた。
「戻ったぞッ!みんな、なんと今日はラグナ様が来ているッ!」
「ほんとだ!魔人さまだー!」「おひさしぶりですー!」
「どうもね!」
ウィトルが洞窟中に響くような大声で俺たちの来訪を伝えるとノームたちがぴょこぴょこ顔現れて嬉しそうにわらわらとやってきた。
リザードマンの姿もあちこちに見えるな。仲良くやっているみたいで何より。
「ほう、ラグナは意外と人気があるんじゃな」
「以前色々助けてやったことがあったからなー」
以前作った水不足を解消に作ったダムはどうなってるだろう。水が足りないようならまた災厄魔法使ってやるものいいな。
既にダムは出来てるから今回は前みたいな工事は必要ないだろうし。
「ねっ!ねっ!クローバーウチん家出して!今すぐ!」
「え?ここノームの住む洞窟で……ちょ、ちょっと!尻尾はダメですってば!」
「あたしもあの鈍器大砲!作ってみたい!」
俺の人気に関心するパワーズとは反対にレイロックは忙しない。どうやらウィトルの大砲がレイロックの琴線に触れたみたい。
洞窟の天上は高いのでちょっと間借りさせてもらってドワーフハウスを設置するとレイロックはそのまま制作工房に潜り込んだ。
ああなったらレイロックはしばらく出てこない、とはパワーズの談。
ドワーフは鍛冶を得意とする種族だけに熱に耐性があるらしいけど、ただでさえでかい太陽で暑いのに鍛冶するとは恐れ入るな。
さて、自然と山の民たちも集まったし魔族の出現が気になったのでシエル山脈の状況を聞くことにした。
「太陽がデカくなったのはここ2週間のことか」
「急激に暑くなり、我らリザードマンの里にはとても住めたじゃなくなりました。そこで熱が収まるまでノームの洞窟に移りましたが……一体いつ戻れることか」
老リザードマンのサイプレアはだいぶ疲れた様子だ。いや暑い上にあんな気持ち悪い蟲が現れればそうなるか。
水辺に棲むリザードマンは火が苦手なのでイビルセクトに苦戦するそうだ。
「暑いってやっぱあのクソデカ太陽のせいだよな」
「自然現象とはとても思えないので十中八九魔族の仕業でしょうね」
ハタ迷惑なヤツらだな。いや俺も隕石降らせたり街から光奪ってるから人のこと言えないけど。
「ま、詳しくはコイツに聞いてみるか」
さっきウィトルが倒したアラクネは回収して洞窟に吊るしている。
職人種族ノームお手製のロープで縛ってあるから逃げられまい。俺は軽く引きちぎれたけど。
さぁ取り調べの時間だ!
「ハイハイハイハイ!そこの魔族よ!お前達の目的を言え!あの太陽の戻し方は!?」
「話すことなど何もナ……。クッ、この匂いハ!?」
「カカカ!あらかじめ作っておいたビーフストロガノフだぞ!この匂いには耐えられまい!さぁ吐け!吐いてしまえ!」
これみよがしに身動きの取れないアラクネの前でクローバーが収納していた作り置きの料理をこれみよがしに食べて見せる。リザードマンやノーム達にもお裾分けといこうかね、たくさんあるよ。
目の前で食べてやればアラクネが涎を垂らしているが手足を縛っているから拭うことも出来ない。
「な、何も話さん!話さんゾ!」
「いつまでもつかな!カカカ!」
「その、あれは何だッ?」
「一応、ラグナさんなりの尋問です。ちゃんとした尋問官雇いたいところですね……ネコで探してみようか」
「ヴァウゥ」
クローバーとゲッカとウィトル達が微妙な顔でこっち見てるけど気にしない。
商人じゃあるまいし過激な取り調べはちょっとアレなので平和的にいきたい。
腹の音を鳴らしてるから時間の問題だと思うけどアラクネはなかなか答えようとはしない。強情だ。
「ちなみにウィトル達は魔族がここに来た心当たりはあるのか?」
「以前そのアラクネと相対した時に爆弾の在りかを聞かれたな。その時は逃がしてしまったが」
「ほーん。おい蜘蛛女、ノーム爆弾何に使うつもりだ?」
「……ムダダ。ワタシは何も答えナイ」
あらら意志が強い。
とはいえ爆弾を欲しがってるっていうのは分かった。
ノームの爆弾は高威力で戦えない非戦闘員でも爆弾を投げればなダメージを与えられるから魔族が欲しがってもおかしくはない。
爆弾の材料になる爆裂花はこの山にしか自生していないため爆弾が必要ならこの山に来るしかない。
アラクネはさっき『タージグレサマに報告しないと』と漏らしていた。
報告と言うからにはアラクネより上位の魔族だろう。他にも魔族がまだ潜んでいる可能性はある。
「意見いいだろうかラグナ様ッ」
「はい、ウィトルどうぞ」
「オレたちの調べで山の特定のポイントに蟲の群れが複数あることを確認している。オレたちは群れの統率者を潰して回っていた矢先にこのアラクネを見つけた。つまり他の群れを手あたり次第に潰せば他の魔族も見つかるのではッ?」
なるほど。魔物退治もできるし一石二鳥だ。
この広い山から魔族を探すのは大変だけど蟲の群れはそれなりに目立つ。
「ウィトルさまがボクらの爆弾でたくさん潰してまわりましたからねー。まだやっつけてない群れは残り3つですー」
「なんだ、それならちゃっちゃと潰してくるか」
「ええ、アラクネの仲間の魔族がその群れの付近にいる可能性がある以上撃った方がいいでしょう」
「ヴァルル!」
ゲッカがフンフンと鼻を鳴らす。
うん、行くなら早い方がいいよね。
「それで群れがいた場所ってのは」
「シエル最大の山の頂上付近、南側、西側でーす!」
ウィトルのポーチからノームのマジョリ、ゲルニカ、サレが顔を出して教えてくれる。
「結構バラバラだな」
「三手に分かれましょうか?」
「そうだな……もたもたしてると魔族が場所を変える可能性もある。リザードマンはイビルセクトが苦手って言ってたけどウィトルも戦力に数えていいんだよな?」
「オレはラグナ様からいただいた魔片がありますッ。多少の熱には耐えられますともッ」
ということでメンバーを分けることにした。
ウィトルのステータスを確認しておこう、ちょっと失礼するね。
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名前:ウィトル
種族:リザードマン
LV:60【進化待機】
HP:1086/1086
MP:162/162
攻撃:1129
防御:1004
魔法:377
抵抗:414
速度:102
所持スキル
『蜥蜴の尻尾』『熱探知』
『剛勇』『鈍器使い』『水中移動』
『乾坤一擲C』『砲撃技術D』
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LVも結構高めだ。俺の3倍以上ですね。
高めのHP、攻撃、防御とめちゃくちゃ前衛って感じのステータスだな……ん?
「【進化待機】って文字が見えるな?」
「進化条件を満たしていて、ちょっとしたきっかけがあれば進化する状態ですね」
へぇ。進化が近いことも解析で分かるんだな。
つまりウィトルは進化秒読み段階ってことか。
「ゲッカもこんなに大きくなったしな。ウィトルももっとデカくなるのかな?」
リザードマンは大柄な種族でウィトルは俺よりもずっと大きくて3メートル近くある。これ以上大きくなると怪獣みたいだな。ちょっと見てみたい。
「亜人の正当進化は角が生えたり体が頑丈な鱗に覆われたりするくらいでシルエットが大きく変わることは稀ですね。状態も安定していますから正当な進化するでしょう」
あ、そういうもんなのか。安心したようなガッカリしたような。
正当な進化って言うけど正当じゃない進化はゲッカやカロンの特異進化のことだな。
ゲッカはユニークコアの影響でマーナガルムになったけど、普通に進化したらカニスや仲間たちと同じヴァナルガンドになったはずだ。
カロンは人魚だったけどヴェパルに進化したらなんか宙に浮くようになって明らかに一般的な人魚とは別物になっていた。
正当な進化は虎がサーベルタイガーに変化するようなもの。そして特異進化は虎が獅子や豹に変化するようなものだろう。同じ大型のネコ科だけど、種としては別物だ。
進化は進化前にできたことがより得意になり、弱くなることは基本的にない。
一方で特異進化は進化前に出来たことが出来なくなることもあり、逆にこれまで全くできなかったことができるようになる。実際にゲッカやカロンは進化してそれまで使えなかった闇魔術や治癒術が使えるようになったもんな。
ゲッカは今や闇魔法の方がメインだしね。
ゲッカのふっさふさの頬をわしゃわしゃすると気持ちよさそうに目を閉じる。
成長してもこういうところカワイイな!
……進化にテンション上がって脱線した。
ええと、三手に分かれるって話だったね。
「山の頂上は前にダム作った辺りだよな。そこなら前行ったことあるから分かるぞ」
「ではラグナ様には山頂を頼むッ」
話し合いの結果、まずメンバーは俺、ゲッカ、ウィトルを主軸に組むことになった。
俺は山頂付近の群れを叩きに行く。
ゲッカには臨機応変に対応できるクローバーをつけて西側へ。
南側は道が複雑らしいので山に詳しいウィトルたちが行くことになった。
そして俺たちが留守の間、洞窟にいるパワーズ達はヴァナルガンドが守ることになった。これなら何があっても対応できるだろう。
ゲッカとクローバーにはノームのラヴィが案内役として付く。
どこかで聞いた名前だと思ったら俺が以前くしゃみで吹っ飛ばしたノームの1人。わざとじゃないとはいえあの時は本当に悪かった。
俺について来てくれるのはいかついリザードマンのジネヴラだ。
「久しぶりだなラグナのダンナ。アンタに切られたシッポ、ウチに飾ってあるぜ!」
「そ、それは……どうも??」
シッポを切ったってことは以前ノームと話し合いの時に怒鳴ってきた威勢のいい門番か。
いやあれもわざとじゃないんです、本当に悪かった。尻尾無事に再生して良かったね。
案内役も決まったことだし目的地へ出発だ。
ゲッカはクローバーとノームを乗せて山道を駆け抜けていった。さくっと終わらせてくると言ってたけどあの2人ならよほどのことがない限りすぐに片付くだろうな。
そんでもって俺とウィトル達は途中まで一緒なので一緒に山道を登っている。
「ところで、ラグナ様はこの山へ何か用でもあったのか?」
「そういやクソデカ太陽だの魔族だので言いそびれてたな。王として宣告もしたし亜人たちの住む村も作ったんだけど人材不足で仲間を探してるんだ。前ウィトルが眷属になりたいって言ってたからどうかなと思ってスカウトに来たんだ。クローバーからの推薦もあったし」
「ほ、本当かッ!?」
ウィトルが凄い勢いで俺の肩を掴んで揺さぶってくる。揺さぶるのはやめてほしい。
リザードマンのでかい体躯で迫ってくるから圧がすごいな。
「是非!ゼヒゼヒ俺を眷属にして欲しいッ!戦いならやるぞッ!」
「よかったですねウィトルさま!」
「ケッ、口うるせェくらいに魔人の眷属になるのが夢って言ってたからな」
「ああ、我が世の春が来た気持ちだぞジネヴラッ!」
「皮肉も通じねェよ!」
ジネヴラが呆れ混じりにボヤく。
どうやら俺と別れたあとも定期的に言ってたみたいだな、眷属になりたいって。
「不肖ウィトル、ラグナ様のためなら火の中水の中駆けつけるぞッ!すぐにでも契約を、と言いたいところだが眷属の契約は時間がかかるか。魔族を追い払った暁に改めて!」
そんな時間かかったっけ?と思ったけどゲッカやクローバーの時は成り行きだったな。
ちゃんと準備とか心構えとかしてからの方がいいだろう。
「分かった。それじゃまた後で。気を付けてな」
「言うまでもないが、ラグナ様もご武運をッ!」
ウィトルは山の南側を目指すのでここらでお別れだ。
「熱血ヤロウめ、はしゃいじゃってまぁ」
悪態をつきながらもジネヴラの声が嫌そうではない辺りウィトルの人望が伺えるな。
◆
同じ頃、ノームの洞窟でアラクネは吊るされたまま眠っていた。
否、眠ったフリをしていた。
(笛は壊さレタ。縄は抜けられそうもナイ……ク、抜け出したとしても災害獣ヴァナルガンドがいる以上脱出はできナイ……、それナラ)
災厄の化身やリザードマン達は1つ思い違いをしている。
魔族は人間や亜人とは比べ物にならないほどに魔術が発展している。
そして彼らの扱う魔術の1つに『念話』と呼ばれる遠くにいる相手と声を出さずとも会話ができる術があった。
『……タージグレ様。申し訳ありませン。不覚をとり、捕らえられましタ。狭間の王がこの山に来ておりまス。どうか、お助ケヲ……』
アラクネが念による言の葉を飛ばせば返答はすぐに帰ってくる。
『狭間の王……災厄の化身か!こんな時に……ヤツはどこにいる!?』
『狭間の王は頂上へ、狭間の王の眷属2匹が西ヘ、それから進化間近のリザードマンが南へ向かいましタ』
進化前でさえアラクネを圧倒したリザードマンだ。
魔将軍に匹敵する実力者のタージグレが亜人如きに遅れをとるとは思わないが、進化すればさらに強くなる。
魔将軍の喉元に食らいつく可能性もあるかもしれないと付け加えた報告だったが、タージグレからは朗報を聞いたかのような調子の言葉が返ってきた。
『……進化間近の劣等種!面白い、ならばソイツを利用させてもらうか』
『どうかお気を付ケヲ……私は今、ノームの洞窟に捕らわれておりマス。"計画"を実行する前にどうかお助けくだサイ』
『フン。亜人如きに後れを取る軟弱者にこれ以上用は無い。ワシは忙しいからな』
『ソンナ!タージグレサマ!このままでは私も埋もれてしマウ!』
念話は一方的に打ち切られる。
タージグレの魔力は質も量もアラクネを遥かに凌駕しているため、タージグレが拒絶する以上念話がつながることは二度となかった。
『ソンナ……ア、アアアア……ッ!!』
おまけ:ウィトルのスキル詳細。
<固有スキル>
【『蜥蜴の尻尾』尾を操って戦える。また、尾を斬り落としても再生することができる】
【『熱探知』周囲の熱源を探ることができる】
<常時発動スキル>
【『剛勇』自分よりLVが高い相手と戦う時ステータスが上昇する】
【『鈍器使い』打撃武器の威力が上がる】
【『水中移動』水中での行動力が上がる】
<所持スキル>
【『乾坤一擲C』時々大ダメージを与える状態になるが、受けるダメージも大きくなることがある】
【『砲撃技術D』砲撃技を使えるようになる。ランクが高い程扱う威力と命中率が上がる】