1.少女との出会い
2章スタートしました。
2章はいろんな人と出会ったりしながらラグナが亜人たちの居場所作りを考えるようになっていくお話になります。
異世界に転生した俺の第2の人生の夢はマイホームを建てて犬やネコを飼って穏やかに暮らすこと。
迷宮で目覚めて早数日、やっと外に出れたので夢に一歩前進だ。
ただどでかい問題もある。
俺の魂はラグナという魔人の体に容れられたんだけどこのラグナという男、それはそれはヤンチャなことを大昔にやらかしたらしい。
どのくらいヤンチャかと言うと、
「地上で破壊と厄災を振りまき世界を混沌に陥れた者」Byケトゥス
「人とお主が邂逅すれば必ず争いになる」Byエネルバ先生
とか言われるくらい。
俺が宿る前、この体はこの世界にとんでもない災いと戦争を起こしていた。だから俺は目覚めて間もないけど既に立派な前科者らしい。
ええ全く身に覚えはありませんが。
早い話が転生先が事故物件。
でも頼りになる子犬のゲッカと出会えたし嫌なことばかりでもない。
マイホーム建てて!絶対楽しく暮らしてやるからな!
◆
迷宮を出たことだしステータスを確認だ。
-----------------
名前:ラグナ
種族:魔人
LV:4/7【LIMIT】
HP:4494/4792
MP:59/359
速度:97
-----------------
◆所持スキルポイント:2
火属性LV2 Next:火属性魔法の消費MPを軽減。
∟天属性LV1 Next:天属性魔法の消費MPを軽減。
∟爆発属性LV0 Next:魔法を修得。
∟光属性LV0 Next:魔法を修得。
水属性LV0 Next:魔法を修得。
風属性LV0 Next:魔法を修得。
地属性LV1 Next:派生属性を解放。
-----------------
◆修得魔法
嘘つきの炎 火属性 MP330
伏ろわぬ神の雨 天属性 MP345
天牛降臨 地属性 MP300
-----------------
ここに来るまでに魔片を持つ魔物や賞金稼ぎと戦った。
魔片を入手する度にLV上限が1上がってスキルポイントが増える。
LVが上がればステータスが上がるし、スキルポイントが増えれば属性LVを上げて新しい魔法を覚えられるから魔片は見つけ次第確保したい。
それと新たに覚えた天牛降臨を確認。
-----------------
天牛降臨 地属性 MP300
大地を揺るがす災厄魔法。
MPを追加で使用することで範囲を限定できる。
-----------------
地震。シンプル。ただし俺の周辺の山が崩れるほどの大地震。
魔法使う度に山崩すとか迷惑すぎる。ここが人気のない山で良かった。
……周りに人、いないよな?被害とか大丈夫だよね?さすがに反省してる。この魔法も封印しよう。
なんか魔法を覚える度にこの魔法封印って言ってる気がするな。
消費MPも300。MPバカ食いなのは火属性だけであってくれと思った時期が俺にもありました。
一方、ゲッカのステータス。
-----------------
名前:ゲッカ
種族:荒野の幼狼
LV:39
HP:271/352
MP:163/185
速度:153
-----------------
順調に強くなっている。
ただ、スキルポイントの割り振りや魔法を確認する機能は俺専用のようでゲッカの魔法は分からないのが残念。
分かるのは火の魔法を使えることくらいだな。
◆
さて、主に俺の魔法のせいで山が崩れて谷底の道も塞がってしまったので山登りへの切り替えを余儀なくされた。道が険しいから賞金稼ぎとの戦いで負ったゲッカの怪我も心配だ。
「辛いならエネルバ先生にもらった黄金の果実があるぞ」
「ヴァウッフンッ」
ゲッカが首を振る。
このくらいなんでもない、傷は男の勲章……とでも言いたげだ。もっと大きな怪我をした時に使えってことかな。
エネルバ先生にもらった鞄に応急処置用の包帯があったので簡単な処置を終えて岩山を登る。
ここら辺は雨が少ないようで岩肌は乾燥し、地面はあちこちひび割れていて植物は時折枯れ木を見かける程度だ。地震で山が崩れたのは土質のせいもありそう。
そんな殺風景な山だけど高い所から見下ろせば道とか街が見えるかもしれない。
頑張って登ってみよう。
道中はとにかく風が強い。
油断すると腰布がブワーってなるのでノーパンの俺はいろいろ気になる。
ゲッカしか見てないと言っても俺が気になる。せめてぱんつ、穿くものがあれば精神衛生上良いんだけど。
ある程度登り開けた所に出たところで休憩する。
鞄を岩場に置いて燻製を取り出せばゲッカはおすわりして肉を待っている。
よーし、お手!
やってくれた。賢い!よしよしいいぞ、いっぱいお食べ。
「食料も減って来たしまた食べられそうな獲物を探さないとな」
何気なくゲッカに声をかけた時、燻製にかじりついていたゲッカがはっと頭を上げる。
「ヴァウ!」
「ん、どうした」
ゲッカが警戒する仕草を見せる。
耳を澄ませてみれば確かに複数の獣が走るような足音がした。しかもこちらへ向かって来ている。
高い岩の上から足音のする方を見てみると迷宮でも見たことのある魔物の姿が目に入った。
「魔猪の群れか……、ん?」
6匹の走る猪に人型の魔物が乗っている。そして魔物の走る先にはフードを深く被って人物が追われている。
「た、大変だ。助けるぞゲッカ!」
「ヴァウッ!!」
「おい、こっちだ!俺たちのところまで走れるか?」
岩から飛び降りて大声で叫べばフードの人物はすぐにこちらに気付く。
「……っ助けて下さい!魔物の群れに追われてるんです」
若い女の声。
フードからちらりと覗く幼さの残る顔は、14~5歳くらいだろうか。
少女を助けるシチュエーションとかモチベが上がる。
「もう安心だ、俺たちに任せろ!」
こんな所で魔物の群れに追われるなんて怖かったろうと安心させるために笑顔とサムズアップで迎えた。
ところで俺は腰布一枚の半裸姿。
それでもって、中ははいてない。
ここは風の強い山である。
ちょうどその時突風が吹いた。
「あっ」
「あっ」
サムズアップした姿で腰布が吹かれ、中身がまろび出た。
「死にたい」
「ヴァウ!ヴァウヴァウ!」
魔物と戦ってるゲッカから抗議の鳴き声があがる。
戦えと言ってるんだろう。わかるよ。
いやでもさ。
襲われる少女を助けるって男が一度は憧れるシーンじゃん?
そんで「怪我はなかったか?」て言うのみんなの憧れじゃん?
ソツなく魔物を倒しても、傷だらけで女の子を守り切ってもカッコいい。絶対ハズレなしのシーンじゃん。
これを外すってありえます?
全開サムズアップでキメるとかありえないんだよなぁ!
ゲッカはどう思う?
俺もうあの子に顔向けられないんだけど。
え?自分はいつも見てる?いいから戦え?
うん、ゲッカはこう……ゲッカも服着てないしいいかって俺も気にしてなかった。
辛い、こうなったら魔物達を倒して無聊の慰めにしてやろう。
猪はあとでおいしくいただくからな!
◆
勝因は魔人パンチと魔人キック、それからゲッカの牙と炎。
もちろん余裕の勝利。
と言っても数は多いし猪で動きが早いから時間はかかったれど。
「お嬢さん、魔物は倒したぜ!出て来なよ」
風のいたずらなんてものは無かった、いいね?
人助けは気持ちがいいし、助けたついでにこの世界のことについていろいろ聞きたい。ガソなんとかは話にならなかったしな。
……と思ってるんだけど、呼べども少女は出てこない。
「ヴォ?」
「まだ隠れてるのか?もう魔物は倒したけど」
俺たちが魔物と戦ってる間にさらに遠くへ逃げたとか?
ありえる。
いやでもホラ、見られたわけだし会わなかった、あんな事件なんてなかった。
そういうことにするのも良いのかもなぁ。
「ヴァ、ヴァヴァウ!」
「どうしたゲッカ、さっきの子見つけたか?」
突然こっち来い来いと慌て出すゲッカ。
ゲッカに促されて俺も何が起こったかを悟った。
「に……荷物がない!!?」
休憩した時確かにここに置いておいた荷物が無くなっていた。
それなりの大きさで、鍋とかそれなりに重い物も入っているから風に飛ばされるはずはない。
辺りを見回してもどこにも転がってない。
となると盗まれたとしか考えられないな、じゃあ誰に?
さっきの娘しかいない。
「や……やられたーーーーー!!!!!!」
「ヴァオォオオオォ!!」
この世界、俺に酷いことしないといけない決まりでもあったりすんの!?