6.インスピレーション
ドワーフの家のもとへ武装した人間数十人が向かう。
「凶星が降ったのはドワーフの家付近だそうだな」
「本当に行くんすか?魔人がいるかもしれませんよ」
「星が降ってから半日も経ってんだ、いるわけないだろが。第一魔人なんぞを恐れちゃ商人なんてやってけねェぞ」
何故ドワーフの家以外何もない所に星が降ったかは知らないが、凶星からは値千金の素材が採れる。早めに回収するに越したことはない。
ドワーフ拉致のために多くの人手を用意したのが幸いだった。この人数なら採取に時間はかからない。ドワーフを連れ帰り星をごっそり回収すれば利益はいかほどになるだろう。
「天は俺を見てるってことだ。ここのところポッと出の商会のせいで煮え湯を飲まされてきたからな。いつか必ず鼻を明かしてやる」
「ああ、レギスっすね。立て続けにAランクモンスターの素材を用意するとか、裏でS級冒険者と専属契約でもしてないと説明できやせん」
いかに良い商品を用意できるかはそのまま商会の価値となる。
取引先に軽く根回しをすれば簡単に潰せる商会だと思っていたが、市場価値の高い素材をいくつも用意されては根回しなどできるはずもない。
「ケダモノを雇っているのも気に入らん。クソッ、何が紅玉だ。商売の邪魔しやがって」
レギス商会のゲインは商才だけでなく美貌でも有名だ。
常に紅の衣を身に付けしたたかな笑顔を見せつつも誰の手玉にも取られない彼女は貴族諸侯の間でレギスの紅玉と呼ばれている。
「レギスへの妨害はどうだ?」
「効果が薄いですね。それどころかあちら側に付く所が出る始末で」
「役立たず共め……悪評の流布も希少素材の前には弱いか。先日送った刺客は?」
「帰って来ません。腕のいい護衛がいるようで……あれ?」
先頭集団が足を止める。
一体何かと隊長格の男が舌打ちをして、そしてすぐに理解した。
「おい、どうした?……あ?」
「こ、この辺りにでかい鉄の塊、いやドワーフの家があったはずですよね?」
「ドワーフの家が!!ない!!」
◆
「まさか家ごと収納できるとは」
「えへへ、もっと褒めてくれていいんですよ」
よしよし、いっぱい撫でてやろうな!
ついでに耳もモフっておこう。首もとも撫でちゃうぞ。
以前はサンドアングラーの収納に苦戦してたのに、地味にクローバーの収納性能インフレしてる気がするな。これも眷属契約の成果かな。
ワポル親子の家はなんと可動式。
移動の際には収納された8つの足で立ち上がり、過酷な道も安定して家を運ぶことができる。速度は人間の歩行並。稼働機能はレイロックの作品らしい。
親子は当然家ごとの引っ越しを希望する。それはいいけどこの速度だとダンジョン到着に時間がかかるのでどうしたものかと思っていると。
「独立した建物なら収納できるかもしれません」
と言って家ごと収納し、俺が降らした隕石もごっそり収納した。
星はまた降らせればいいのにと言ったんだけど、『希少なダークマターを見ず知らずの人間にあげるのは悔しい』らしい。
確かにさっきのパワーズ達を拉致ろうと話してた商人が回収しそうだったしな。
ウチのネコが優秀すぎる。
引っ越し問題は解決したのでパワーズとレイロックと共に神々の御廟へやってきました。
現在神々の御廟を順調に探索中。
道中倒した階層ボスが魔片を持っていたりする。忘れたころに魔片持ち出てくるね。
「この建物はどんな施設なんだ?」
「詳しくは分かりませんが何かを記録していた場所だったと言われています」
古の神々が何かを記録していた場所か。神の施設って温泉から墓までいろいろあるね。
御廟を進み、地下2階奥まで到達。
この御廟に来た理由は2つ。
1つは俺のタブレットのアップデート、そしてもう1つはこの迷宮に巣食う魔物を倒して俺の戦いを見せること。ワポル親子が俺たちの装備を作ってくれるかもしれないからな!!
というわけでドワーフにインスピレーションを湧かせるために魔物相手に魔人パンチだ。
「強いけど地味だな~~。隕石落とすみたいなハデな魔法はないの?」
「あの魔法被害が半端ないからおいそれと使えないんだよ」
あとMPもバカ食いするしな。
クローバーを眷属にしたことで2発撃てる魔法もあるけど災厄魔法はいちいち効果範囲が広いから迷宮内の使用には向かない。
一方でゲッカの黒炎は超クールだと大興奮。
ゲッカの炎を光を奪う黒い炎だ。カッコいいよね分かる!この分だと最初にできるのはゲッカの装備かもな。
「ワシはつくらんがな」
「ハイハイ女にしか作らないんだろわーってるよ。クローバーガン見してるもんな」
このオッサン何が何でもクローバーの装備作ろうとしてるな。
いや装備作ってくれるのはありがたいけど。
「歩き方を見てるんじゃ。手足、尾の動かし方1つ1つに最適な防具がある」
「言っとくけど露出高い服は俺が認めねーからな!!」
「機能のためには多少の露出は仕方がないじゃろうがアホか」
「そう言うヤツに限って機能度外視で露出させるんだよバーカ!」
「あの、せめてそういうのはボクのいないところで話を……」
「ヴァ、ガウ!!」
「ぅわ!?」
突然カタカタと音が鳴り、思えば廊下に飾ってあった石像が突然動き出してクローバーに拳を振り下ろす。
慌てて躱して距離を取るが背後には別の石像が迫る。
「あっぶねぇ!!」
クローバーを覆いかぶさるように割り込めば石像の拳は俺の頭に振り下ろされた。
普通の人間なら即死だろうけどこの頑丈さには定評のある体だ。
「ラ、ラグナさん!?」
「下がってなクローバー!」
石像の腕を力任せにへし折って力任せに持ち上げて、もう1体の石像に投げ飛ばすまとめて砕いた。
ふぅ、怪我がなくてよかった。
「どう!?インスピレーションとかは湧いた!?」
「うーーんもっと派手なことして欲しいなぁ」
「派手!?まだ足りないの!?」
エロオヤジことパワーズはアレだから俺の装備はレイロックにかかっているというのにインスピレーションとやらのハードルが高いな。
武器はともかく、装備は欲しい。
このほぼ腰布のみみたいな衣服の防御力をとにかく上げたい。
一方後方ではパワーズのオッサンとクローバーが話している。
「嬢ちゃんは武器は持たないのか?」
「あったんですけど、前の戦いで壊れちゃいました」
変な話してるんじゃないだろうなと思ったらまっとうな話だった。クローバーの武器はスルト戦で俺が使い潰したもんな。ゴメン、なんなら魔法で作るから……と思っているとパワーズが腰につけていた武器のうちの1つを取り出す。
「利き腕があった頃に比べりゃ劣るモンだが、無いよりはマシだろう」
「え。あ、ありがとうございます……?」
本人はああ言うものの、湾曲した青く光る刀身が美しいナイフで素人目に見ても良い品だ。
護身用の武器は持っておくに越したことはない。
「ちなみに俺には何かない?」
「無いわ。その辺の石でも投げとれ」
クローバーはともかく本当にこのオッサンには何も期待できねぇな。
レイロックへのアピールに戻るか。




