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災厄たちのやさしい終末  作者: 2XO
4章 やさしい場所
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2.ダンジョンに帰還

3章終わって数日後の話に戻ります。

 インクナブラを発って3日。

 俺たちはダンジョンに戻ってきた。

 インクナブラがどこにあるかよく分かっていなかった行きと違い、クローバーが案内してくれるので帰りは思ったより時間はかからなかった。


 ダンジョンに戻るとヴァナルガンドたちに出迎えられた。

 留守中特に大きな問題はなかったそうで何より。いやヴァナルガンドがこんなにいて問題なんてそうそう起こらないだろうけど。

 おまけに居残り組が周辺の魔物を狩り続けていたため食用のお肉がたくさんあるから夕飯には困らなそう。


「ええと……改めて皆さんには大変ご迷惑をおかけしました」


 全員の前で平謝りするクローバー。左目を覆う包帯は痛ましくてまだ見慣れない。

 今回の遠征は家出したクローバーを迎えに行くためのものだった。眠り薬盛られてから戻ってくるまで2週間くらいかかったね。


「以後勝手な行動は?」

「もちろん慎みます!」


 よし、反省していると見なそう。


 でもそれはそれとして迷惑をかけたことの罰が必要だと思うんだよね。

 よって不定期にモフモフの刑に処すことにしている。うん、俺がモフモフ触りたいだけです。

 耳をわしゃっと手で包むように触れるとクローバーがころころ笑う。


「う、うぅん、ちょっ……く、くすぐったい」


 身をよじるけど我慢できない程ではないみたいだし嫌がってなさそうだからヨシ。

 俺は主の特権として合法的に眷属であるクローバーをモフる権利を手に入れた。

 合法も何も俺がルールなんですけどね。

 いやもちろん嫌がるならやらないけど。


 尻尾は引っ張らない、あと根本以外はさわっていいと言われたのでモフモフする。

 尾はほとんどの亜人にとって弱点なので尾に触れることを許すのは最上級の信頼らしい。やったね。

 クローバーの尾は猫としては結構太いのでやわやわとにぎるのが気持ちいい。

 尻尾とか耳、なんかこう、吸いたくならない?


「ヴァァアウ」


 ずいっとゲッカが顔を寄せてくる。

 お、嫉妬か?ゲッカのダイブできるモフモフも好きだぞ。こう、胸元のふさふさに頭をうずめて……。


「究極のポジションを発見してしまったかもしれん……」


 ゲッカの胸元に頭を、そしてクローバーを抱えてもふもふ。

 これが約束の地ってやつか。ティルナノーグはここにあった。

 モフモフを堪能しているとヴァナルガンドの1体がやってくる。


『トコロデ主、家ハイイノカ?』


 家?

 ああ、テントのことか。何か問題でもあったっけ?


 テントといえば、クローバーのテントに入っていた荷物はクローバーが突然出て行ったあの日から必要なものだけ回収してあとはほぼ放置しているからまた収納してもらわないとな。

 いやまてよ、肉とか山羊の乳といった生モノはもうダメになってるかな。居残り組のヴァナルガンド達に適当に食べて良いぞって言っとけば良かった。


 そんなことを思いながらテントに向かう。

 テントは俺たちが出かけた日と変わらず……。

 あれ、なんか忘れているような。唐突に猛烈に嫌な予感が……。

 ヴルル、と一声鳴いたゲッカが目を反らす。


「どうしたんです?」


 クローバーは異変に気付いていないようで、出入り口の布を開いた。瞬間。



「ニャーーーーーーー!!!!!??」

「クローバーーーー!!」


 クローバーが卒倒した。

 テントの中には足裏ほどのサイズのクモが。そりゃもうびっしりと蠢いていた。


挿絵(By みてみん)


 クローバーは大量の虫がワサワサする光景が苦手って言ってたけど、テントの中に所狭しとクモ&クモの巣で満たされ8本の足がワサリワサリと動く光景は苦手じゃなくても結構トラウマモノだよ。


 なんでこんなことに?と思ったんだけど、クローバーはクモのタマゴを収納していた。そんでそれが俺たちの留守中に孵化して中の食料を食べつくしすくすく成長したそうだ。


 テントから出てきたクモ=俺たちの荷物と認識したヴァナルガンドが倒さないでくれたしあろうことか倒した魔物の肉を餌として与えてくれた。その結果、そりゃもう繁殖しまくった。

 正直クモとか完全に忘れてたけど、服を作るための糸が欲しくてタマゴ確保したんだったな。


「えーと、ホラ、アレだ!クモの糸取り放題だな」

「ボクもうこのテント使えません!どうするんですかコレ!


 どうするもこうするも片付けるしかないよね。


 迷宮核にMPをつぎ込むことでリフォームできるからとりあえずクモを隔離する部屋を用意しよう。

 前作ったリゾート地の隅に洞窟を作ってそこにクモを隔離することにしよう。リゾート地にはクモは絶対入らせん。

 みんな(クローバー以外)に手伝ってもらいながらクモを全て隔離場所に移し、あとは餌として余った魔物とかエサに放り込んでいこう。


 その後テント内に張られているクモの糸を回収。

 とりあえずぱんつ作る分くらいの素材は集まっただろ!

 いやまぁこれから俺の魔力に耐えうるだけの魔力を練り込んでいかないといけないんだけど……今度商人に今度会ったら詳しく聞いてみるか。


 ということで現在の俺のダンジョンにクモ部屋ができた。

 入口・リゾート地・クモ部屋の構成です。……もうちょっと村らしくしよう。真面目に。


 それはそれとして。


「さて、約束のパーティの時間だ!!」

『待ッテマシタ!』

『ウオオォォ』


 ヴァナルガンドが用意しておいた肉を使ってお料理だ。ひたすら肉を焼き続ける。

 この味つけがいいとか煮込み加減がどうとか、カタコトの言葉で食レポを始めている。食事はヴァナルガンドにとっての娯楽のようだ。

 そんでもって、避難してきた亜人たちにも大好評。料理を気に入ってくれたみたいで何よりだ。

 ドゥールムが食後のシメのスープを飲んでしみじみと呟く。


「家族に食べさせてやりたいな」

「材料あれば難しくないぞ。作り方教えるか?」

「本当か!?しかし、助けてもらった上にそこまでしてもらうのは」

「気にすんなって。さっきクモ運ぶの手伝ってもらったし」


 食に関心のないこの世界でおいしい飯に興味持ってくれる人が増えるのは俺も歓迎だぞ!

 料理人もっと増えて欲しい。めぐりめぐって俺の食生活がより豊かになるかもしれないし。いやさすがにそんな簡単にはいかないだろうけど。




「ところでラグナさん。明日からどうするんですか?」

「ヴァウッフ!」


 肉パーティーも落ち着いたところで今後の方針の相談だ。


「ドゥールムは家族に会って無事を確認したいって言ってたよな」


 ドゥールムの故郷はヘルペッソ領の片隅にあるそうだ。領の名前言われてもピンとこないけどクローバーはあそこですか、と当然のように頷いていたから案内してもらおう。ただ普通に距離があるらしい。


「遠出するなら商人たちとも会いたいですね。これから村を作るなら衣類も欲しいですし、ヴァナルガンドはベッドが欲しいんでしょう?」


 そう、商人から生活物資を購入したい。

 食料はもちろん、これから寒くなるから暖かい服も必要。

 あと風竜の素材を渡す約束もしている。


「ヘルペッソはレギス商会が拠点にしているカムルスから遠くないですし、ついでに商人に会うのはどうでしょう?あちらも風竜の素材は受け取りたいでしょう」

「じゃあそのコースでいこう」

「――ヴァ!ガフッ?(訳:ハルピュイアたちは?)」


 そうだ、荒野に住むハルピュイアも新天地があれば住みたいと言っていたな。

 良い場所を見つけたら教えるって約束したんだっけ。


「ハルピュイア達に住む場所あるぞって伝えないとな!」

「ラグナさんの植物魔法で食料には困らないので積極的に住人を増やしていきたいですね。人がいれば出来ることが増えます」


 そうだね。

 必要な食料こそ増えるものの、村の維持には人手がいる。

 このダンジョン無駄に広いから管理普通に大変そうなんだよな。


「あと、まだ行ってない神の御廟の場所とかって分かるか?」

「ラグナさんのタブレットは神々の御廟に行くことで機能が強化されるんでしたね。ボクの知る限りではヘルペッソ領にも1つあったはずです」

「丁度いい、そこも行こうぜ!」


 大昔に神サマとやらが住んでいた神々の御廟(ごびょう)と呼ばれる施設にはタブレットを強化する光の柱がある。

 タブレットは強化しておいて損はない。機能が増えるかもしれないから巡っておきたい。



 というわけで。

 ①熊の獣人ドゥールムを家族の元に送り届ける。

 ②神々の御廟に寄る

 ③商人達に会う

 ④ハルピュイアに会いに行く

 ⑤またこのダンジョンに戻ってくる。

 というコースで出かけて来ることになった。


 ドゥールムを送るから移動用ヴァナルガンドも連れて行かないとな。念のため3体くらい連れて行くか。

 ヴァナルガンドって災害獣と恐れられるモンスターらしいけどこんなタクシーみたいな使い方していいいんだろうか。ゲッカがいいって言ってる。じゃあいっか!

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