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第7章 最低な男


チュンチュン


小鳥の囀りが心地良く耳に響く…。


太陽の日差しがたっぷりと窓に降り注いでいる…。




はぁー、私はとても清々しい朝を迎えた。


結局、先生の家に泊まってしまった…。

男性の家に初めてのお泊まり。

全ての事が初体験の私にとって凄い刺激になっていた。



「…瑞希、おはよう」

「…おはよう、先生」



私は先生の冷蔵庫の中身を確認、朝食に使えそうな食材はと…卵とハム、後は野菜も少しある。これを使って腕によりをかけて朝食の準備を始めた。


豪華なご馳走をと張り切っていた私だが結局、定番のサンドイッチになってしまった…。

先生の冷蔵庫には案外、食材は入ってなかった。

忙しくて買い出しにも行けないのだろう。



「先生、出来ました。食べましょう」

「瑞希、ありがとう。じゃ、頂きます」


先生が私のサンドイッチを手に取り、一口食べた。


「美味しい!」

「ほんとに?良かった」

「疲れてるのに悪かったね」


私は笑顔で首を振っていた。



「…瑞希、後、これを」


と、先生が私に差し出したのは一本の鍵だった。


「先生、これは…」

「この部屋の合鍵だよ。持ってて欲しい」

「…先生」


私は今、感動の余り言葉に詰まっていた…。



「…瑞希?どうかした?」

「…大丈夫です。嬉しいだけで…」

「こちらこそ、ありがとう。瑞希と再会出来て良かった」

「私もです。まさか一目惚れした人と子供の時、会ってたなんて。運命感じちゃいました」


お互い、手を握り締め合いながら愛しそうに見つめ合う二人。

幸せの絶頂だった。



その後、仕事があると言う先生を私は病院まで送り迎えした。

私に手を振る先生の表情からは何とも言えない感情が伝わってきた。

そんな先生に私は照れ笑いしながらも、軽く手を振り返した。

まるで新婚の様に……。

こんな日常がずっと続ければと私は心の中で願っていた。




「瑞希ちゃん!」


えっ?私、呼ばれた?

ふと、呼ぶ声に振り返ると、早苗先生だった。


「早苗先生?どうされたんですか?今日はお休みですか?」

「えぇ。でも近くを通ったら瑞希ちゃんの姿が見えたから。佐川先生のお迎えだったのかな?」

「……えっ?!」


もしかして私達の関係をそれとなく勘づいてる?

私は一瞬、焦った…。

沈黙状態になったけど、暫くして私は迷いもなく堂々とこう答えた。


「…私は佐川先生とお付き合いしてます。患者と医師が恋愛するのは駄目な事ですか?」


私の真剣な眼差しに早苗先生も口を開いた。


「…うぅん、そんな事ない。…あのね、瑞希ちゃんには伝えとくね。実は私ね、佐川先生の事、好きだった。勿論、告白もした。だけど…振られた、好きな人が居るって。私は佐川先生に見事に大失恋しちゃったって事。だから、もう大丈夫。瑞希ちゃんは気にする事ないから」


案外、さっぱりとした口調で自分の心境を語る早苗先生の表情からは何かが吹っ切れた様にも見える。

ただそう振る舞ってるだけか…

実際の所は分からない。




「……あれ?早苗先生?」


ある一人の男性が私達に声を掛けてきた。


「あら?立本君?どうしたの?」

「今、面接の帰りなんだ」

「また面接?今の仕事はまた辞めたの?」

「いやまだだけど、多分辞めるかな?やりがいがなくて。まぁ、色々と面接受けてたらいつかは自分に合う仕事見つかるでしょ」


何、この人?自己中心的と言うか、我が儘。

何を贅沢言ってるの?

私は他人の事に口出しすべきじゃないと思いながらもつい、こう吐き捨てた。


「……働かせて貰えるだけ有り難い事ですよ?中々、働く場所がなくて困ってる人が多いのに。贅沢です」


やばっ、でしゃばり過ぎたかも?

あれ?でも反論して来ないな…何で?


「…確かに瑞希ちゃんの言う通りね。立本君も良い加減真面目になったら?」

「…そのつもりでは居るけど、それより彼女は誰?」

「誰って、彼女は貴方のお父さんが院長してる目の前の病院に通院してる守口瑞希ちゃんよ」

「守口瑞希です」

「…あぁ。そうなんだ。僕は立本正哉(たてもとまさや)です。僕は今、フリーターだけど、いずれ就職して結婚する予定です」

「…えっ!立本君って彼女居たの?!」


予想外の展開に早苗先生は驚きを隠せない。


「…まぁ、僕はこの辺で失礼します。それじゃ、また来ます、早苗先生。後、瑞希さんだっけ?君は強気な女性だね。だけど、その性格じゃ、男性に好かれないよ?」

「…な、何を!」


私は不快に感じながらもこれ以上は何も言えなかった。

険悪な状況の中なのに、立本を名乗る男はその場を後にした。



「…ごめんね、瑞希ちゃん」

「早苗先生が謝る事ではないですよ?」


そう、気分を害したのはあの男のせいだ。

しかし、結婚相手が私には可哀想に思えた。



この日の夕方、苛立ちを解消しようと私は七海に携帯で暴露していた。

七海にとって私の声は耳障りだろうと思いながら…。



「もう、腹立つ、あの男!少し格好良いからって偉そうに!」

「瑞希、もう分かったから落ち着いて」

「落ち着いてられる?!何か馬鹿にされた様で嫌なの」

「気持ちは分かるけど、その男の人、名前は何て言うの?」

「名前?確か、立本正哉って言ったかな?」

「………えっ?」


一瞬、沈黙になった。

そして私は一呼吸ついて、


「…七海?どうかした?」

「…うん?あっ、何でもない」


何か、気のせいか、私は七海の返答に違和感を覚えた…。








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