第16章 募る思い
私はこの日、夢を見た。
そう、私の左手の薬指には指輪、右手には小さい子供の手。
ただ幸せそうに微笑んでるだけの夢……。
正夢にならないかな?淡い期待が胸に残る。
起きてからも暫くは、その夢の余韻から抜けられなかった。
亮平さんのマンションから出て行ってからもう1週間が経つ。
私は実家に戻り、普段通りの生活に逆戻り。
結局、親に心配かけさせるだけに終わった。
あれ以来、亮平さんからの連絡は途絶えた…。
そう、私がマンションを出たのに気付き、慌てて電話をかけてきた亮平さんに私は心を鬼にして言った…。
『…暫く1人になりたいんです。こんな気持ち産まれて初めてでどうしたら良いか分かりません』
『………』
亮平さんは黙ってしまった。
当たり前だ。同棲してまだ1週間と2日ぐらいで弱音を吐いてるんだから…。
暫くしてから、亮平さんは何かを諦めたかの様に深く息を吐く……。
『…分かったよ』
私から想像出来るのは呆れきってる亮平さんの顔。
もう愛想は尽きたかもしれない…。
それでも私は決心を揺るがなかった…。
亮平さんと距離を置いてから不意に頭に浮かぶ亮平さんの顔。
離れたつもりでも直ぐには忘れられない。
やばい、今にも涙腺が緩んで泣きそう……。
泣きそうな涙を堪えながら私は久し振りに七海に電話をかけた。
『……もしもし?七海?今、良い?』
『瑞希、良いけど…どうかした?』
恋愛については七海の方が詳しい。私は1人で抱え込めそうになかった。
『………じゃ、今から会う?』
『……えっ?』
私は今から七海と会う事になった。
通話中、彼女の隣で誰かと喋ってた様な気がしたんだけど、気のせいか…。
でもそれは気のせいでもなく事実だった様で、久し振りに会った七海の顔はどこか、光輝いて見えた。
「久し振り!瑞希」
「あっ、久し振り、七海」
それに引き換え、私は気持ちが沈んでるせいで暗い表情ばかりが目立つ。
取り敢えず、近くの喫茶店で語ろうという話になった…。
「瑞希、元気ないわね?」
「えっ?うん、色々あって…」
私は彼と同棲したけど今は距離を置いてる状態。
その理由も長々と話した…。
絶対、呆れられると思ったけど七海からは意外な言葉が返ってきた。
「……分かるよ、その気持ち。不安になるよね。相手の女性も明らか、未練あるみたいだし復縁を狙ってる感じに見える」
不安を煽る様な言い方だけど……強ち、間違ってない。
相手の女性の顔も素性も知らないが恐らく、亮平さんの事が今でも好きなんだろう。
推測だが……。
七海は私の不安を掻き消す様に更に言葉を続けた。
「…だけど、彼は瑞希が好きなんでしょ?だったら彼を信じてみたら?」
確かにそう言ってくれたのに不安の方が勝ったんだよね、あの時は。だから何を言われても無理だったかも。
「…取り敢えず、落ち着いたら彼ともう一度話してみたら?」
七海の提案に私はうんと頷く…。
「良し!じゃ、仕切り直して」
すると、急に彼女は改まり、私にこう告げた。
「実は私も彼氏と同棲中です」
「えっ?!」
さっきまでの不安が飛んでいく様な衝撃な事実に私は口をあんぐりさせていた。
「いつから?」
「最近の話。付き合って2年ぐらいだし結婚を兼ねて同棲始めようと思って」
「…そっか、良かったね」
「ありがとう!」
弾けんばかりの笑顔を私に向ける七海はどこか羨ましかった。
しかし、もっと驚くのはその後だった。
「……相手は瑞希の知ってる人」
「…えっ、誰?」
「…実は瑞希がこの前電話で腹立つって怒鳴ってた人」
「…電話で怒鳴ってた人ってまさか……?!」
そうだ!早苗先生と親しげに話した確か、立本正哉?!
あの日の記憶が鮮明に思い出される。
「…有り得ない!あの男は駄目よ!」
「何で駄目なの?2年も付き合ってるし。それに彼が好きなの」
「…でも確か、彼はフリーターなんじゃ?」
触れてはいけない話に触れて七海の様子を伺ってみる。
どんな反応するかを……。
だけど、以外にも彼女の表情からは清々しさが漂っていた。
「…それなら大丈夫よ、就職したから」
その一言に、あっ、そうか…なら良かったと私は安堵した…。
その後、私は七海のお祝いにカラオケボックスへとやって来た。
お互いマイクを持ち出すと次々と曲を入れて歌い始める。
七海は見事ながら声に艶があり聞いてる私も癒される。
それに比べ、私はただ叫んでストレスを発散してるだけの歌。
あぁ、でもたまにはこういう息抜きも必要だ。
私達はカラオケをお開きにしてお互い自宅へと帰って行く。
はぁー、楽しかったな~今日1日。
それでも亮平さんへの会いたい思いが募るばかり。
だけど、今更……亮平さんのマンションに戻るのも気が引ける…。
そして、私は不意に自宅の前で足を止めた。
「……何で、ここに?」
「……会いたかったから。……それだけの理由じゃ駄目?」
「……亮平さん!」
目の前に居る亮平さんの姿に私は思わず、飛び付いていた…。




