第10章 付きまとう持病
クンクン、クンクン
うん?何だろう?何かが上に乗ってる様な重量感。
そして、唇の辺りに生暖かい感触が……。
ワン!
「……きゃっ!」
深い眠りから目覚めた私の顔面目掛けて飼い犬のペコが飛び付いてきた!
「もう、ペコったら!起きるよ、起きる」
ペコは首を傾げながら私の表情を愛着のある顔で見ていた。
憎めない可愛さだ。
そしてようやく、私は腰を上げた。
「おはよう!」
「おはよう、瑞希。朝ごはん出来てるわよ」
「ありがとう」
家族揃っての朝食後、台所で後片付けをする母の横に私は並んだ。
「瑞希、どうかしたの?」
「いや、何でもない」
まだ先生との事は話さなくても良いかな?
私は思い留まった。
それに今日は通院日だ。
仕事帰りに寄って帰ろう。
私の体調も安定してる。ただ薬から卒業は出来ないだろう。
正直、持病持ちだと分かった時から恋愛はしないと心に決めてたのに、先生に出会ってからは自分の気持ちに嘘は付けなかった。込み上げる感情を私は抑える事が出来なかった。
先生との未来の可能性を少しずつだが、膨らましていた。
そんな気持ちを胸に抱きながらいつも通り職場へと向かう。
午前中は何事もなく業務を終えた私だが、午後からの職務で少し動悸を感じた後、胸が締め付けられる様に苦しくなり立ってるのも辛くなりその場にしゃがみこんだ。
そして、脈も跳んでいる。
身体中に震えが走った。
どうして?薬飲んだのに?
と、私は思わず、疑問符を投げ掛けていた。
その時、私の異変に気付いた上司が声をかけてきた。
「守口さん!大丈夫ですか?」
「…あの、すいません。少ししんどくて」
「取り敢えず、今日はもう早退して良いから」
私はやむ無く、職場を後にし、そのままタクシーを拾い、先生の病院へと車を走らせた。
とても歩ける状態じゃなかった。
車内に揺られながら、徐々に呼吸も楽になりかけてる。
動いてないからかも。
病院に着くと、私はタクシーから降りる。
そして足を一歩、一歩と踏み出す。
あー、やっぱりまだしんどい…。
私は受付で今の病状を告げる。
そして、いつもの様に待合室で先生の往診を待つ。
すると、
「守口さん!」
えっ?もう?偉く早いなぁ。優先的に呼んでくれたのかな?
私は診察室の扉をゆっくりと開けると、頭を抱えてる先生と視線がぶつかった…。
「瑞希」
先生が私の顔を窺うと、少し眉間にしわを寄せていた。
「…顔色良くない」
「…あっ、でも薬は飲んでたんだけど」
「…まぁ、飲んでても発作が出ないとは限らないけど、取り敢えず心電図を撮らせて」
「あっ、はい」
私は慣れっこでもある心電図の検査を始めた。
ただいつも思うのは身体に付けるゼリー状の冷たい物。
余り、好きじゃないけど……普段の先生の顔とは違う顔が見れて新鮮だから良いか。
嬉しい気分に浸ってる私に、
「…何が嬉しいの?」
えっ?私、顔に出てる?!
緩んでいる頬を咄嗟に固めようとしたけど、手遅れっぽい。
完璧ににやけてる。
「…でも少し安心したよ、その顔が見れて」
「…先生、心配かけてごめんね」
「…気にしないで。と、次は医師としての話。少し、心電図に乱れがあるから不整脈を起こしたんだね」
「…あっ、やっぱり」
最近、ほぼなかったのに久し振りに出たな。
「…取り敢えず、また薬を出しとくから飲んで安静にしてて。分かった?」
「…はい」
「…後、今日はこの後は?」
「…そのまま、帰るだけですけど?」
「それなら僕のマンションの合鍵は持ってる?」
「持ってます」
「…じゃ、先に行ってて。僕は帰るの夕方になるけどそれまで部屋で休んでくれて良いから。晩御飯は何か適当に買ってくるよ」
「…えっ?でもどうして?迷惑になるんじゃ?」
「…何で迷惑だと?恋人なのに。それに今日は僕の傍に置いときたいから」
胸を高まらせるそんな言葉ずるいよ。
私の頬が今にも火照りそう。
「…駄目かな?」
先生が私を覗き込んでいた。
私は黙って首を振った。
「じゃ、そういう事で」
病室を出ていく際、私はちらっと先生の方へ振り返る。
「…どうした、瑞希?」
「あの、先生。私、先生がほんとに好きです」
「…瑞希」
「…そ、それじゃ!」
緊張のせいでこれ以上は先生の顔、見れない!
思わず目を反らし、急いで病室を出た…。




