夕暮れの帰り道
ランドセルを背負った子供たちが、こちらに向かって歩いて来るのが目に留まった。どうやら、道路にひかれた白線の上だけを選んで歩いている様子だった。
「いいかい?白い所は天国。黒い所は地獄だからな。」
「分かってるよ。ところで、ブロックの上は天国?それとも地獄?」
「ブロックの上はセーフにしようよ。白でも黒でもないし。」
どうやら“ごっこ遊び”をしているようだ。黒いアスファルト部分は踏まずに、白線の部分だけを歩いて帰る遊びらしい。ブロックはセーフと決まった瞬間、白線からブロックへと飛び移った子が何人かいた。
「あのさ、もしも黒い所を踏んだらどうなるの?」
「地獄に落ちるに決まっているじゃないか。」
「じゃあ、横断歩道は?」
「もちろん白い部分だけだよ。」
横断歩道は、梯子型ではなく縞模様型のものだった。子供たちが決めたルールに従うならば、横断歩道の白い部分だけを選んで飛び越えて行かなければならない。白い所は天国。黒い所は地獄。上手く飛び越えないと、地獄に真っ逆さま・・・。
それを目撃したのは私だけだったのだろうか?
子供が一人、姿を消してしまうその瞬間を。
うっかり、足を踏み外してしまったその瞬間を。
「馬鹿だな。だから“地獄に落ちるって言ったのに・・・。」
「どうする?」
「地獄に落ちたらもう、どうしようもないよ。」
ランドセルを背負った子供たちは、何事もなかったかのように先を急ぐのだった。