第九話 計画
此処は数年前に廃れた人型ロボットを製造していた中小企業の工場だった。
人型ロボットより異能での有用性が高いため衰退してしまい、現在は使われずにいる施設であった。
「……………。」
薄暗く、大型の機械に囲まれた部屋。
椅子に縛り付けられた恵は、目の前にいる男を睨み続けていた。
「手荒い招待で悪かったね。」
恵を見下ろす様に佇むのは、50代前半で短く切られた白髪の男だった。
白髪の男の声は、最初に二人組の機械人形に襲われた時に聞いた声と同一のものだった。
きっと携帯電話の様に機械人形に自分の声を届けていたのだろう。
「悪びれるつもりなんて全く無いくせに。」
恵は、男の言葉に食ってかかるも、男はただ無言で言葉を返すだけだった。
「自己紹介がまだだったね。私は蔵智 茂だ。」
蔵智と名乗る男の自己紹介に、さっきのお返しとばかりに、押し黙る恵。
反抗的な態度をとるも、気にも留めない様子の蔵智はそのまま話を続けた。
「じきに君を助ける為に警察が動くだろう。あまり時間がない。計画を進めさせて貰うぞ。」
そう言うと男は、恵のすぐそばに置いてあったヘルメットの様な装置を持ってきた。
その装置には数本の針が固定の位置にあり、パッチの様なものからは、コードが伸びていて、大型の機械に繋がれていた。
「いやっ!ヤメて!近づかないで!!」
蔵智が恵にヘルメット型の装置をつけようと迫る。
手足を縛られ、首だけしか動かない状態ではロクな抵抗も出来るはずもなく、無理矢理ヘルメット型の装置を被せられた。
「大人しくしていろ。拘束された状態では何も出来やしないよ。」
「ッッ……!貴方は私なんかを攫って一体何が目的なんですか………!!」
恵は今までずっと気になっていた事を尋ねた。
特に犯罪の前科があるわけでも無い。人に恨まれる様な事もしていない。自分をしつこく狙うその理由がずっと疑問だった。
「君は『触れた対象の成長を促す』異能の持ち主なんだろ?」
「!!!」
『……君の能力は大変珍しい。その能力が原因で狙われてる可能性もゼロでは無いね。』
それは彼方達の担任、黒崎に言われた言葉だった。
黒崎の読み通り、恵が狙われていた理由は異能だと分かった。しかし、それでも腑に落ちない事があった。
なんでこの人私の異能の能力を知ってるの……!?
それは本来蔵智が知るはずの無い恵の異能。
私の、いやそもそも他人の異能を知るなんて直接本人に聞く以外に方法なんてない。
個人の異能は個人情報と同じ扱いだから、協会が厳重に管理してる。
自分から言わない限りそうそう知られる情報じゃ…………。
そこまで恵が考えを巡らせた時、ある事件を思い出した。
まさか……!!!
それは恵が機械人形に初めて襲われた日に見かけた、ビルに備え付けの街頭モニターに映し出されたあるニュース。
「数日前、協会のデータベースに侵入して個人情報が抜き取られた事件があったけど……。まさか貴方が……?」
数日前に起こった協会の事件。もしその抜き取られた個人情報が私のものであるなら……。
「そうだ。協会のデータベースに侵入したのは私だよ。君の様な能力の持ち主を探していてね。都合よく君という存在を見つける事が出来たよ。」
「なんで私なんかの異能を……。」
自分で言うのもなんだが、この異能は大したものではない。こんな異能を利用する用途も思い付かなければ、価値もわざわざ攫うほど欲しいものでもないだろう。
色々と思案を巡らせていると、唐突に蔵智が口を開いた。
「……君は人間の脳はどのくらい使われていると思う。」
「……?」
「20%だ。人間は自身の脳の20%しか使われていないのだよ。
その頭につけている装置は、固定の位置についている極細の針を脳に直接刺し、その針から電気信号を送り脳の使用領域を強制的に増やすと同時に、異能を発動させる。
異能と脳はとても密接な関係にある。使用領域の拡張された状態で異能を使用する事で、自身が持つ異能の効力が増強されるんだ。
君の『触れた対象の成長を促す』異能。その力を使って、私の作った人工知能を進化させる。」
すると蔵智は、恵の頭の装置から伸びているコードと繋がれた大型の機械を触る。
「進化……?」
「そう進化だ。人工知能も機械人形同様、異能力者によって人間を超える日とされる『シンギュラリティ』も遠のいた。
いまだ人工知能は人間を、異能力者を超える事が出来ないのだよ。
しかし、君の異能があれば加速度的に成長し、人間を超える事も可能というわけだ。」
「つまり貴方の計画は、人工知能の進化……?」
「違う。」
「これは方法に過ぎない。人工知能を成長させた後、機械人形を此処を始め各工場で量産。人工知能から指示を飛ばしてロボットを支配し、異能力者を一掃する。」
「異能力者の一掃!?」
蔵智から放たれた衝撃の言葉に驚愕を隠しきれない恵。
「何をそんなに驚く事がある。異能力者に厭悪の感情を抱く者も多いんだ。何もおかしな事はあるまい。」
蔵智の言う通り、異能力者による犯罪事件が起こる事も少なくは無く、その影響で異能力者に対して厭悪する者もいた。
………多分、蔵智もその中の一人なのだろう。
「っでも!そんな計画不可能に決まってる!」
「……その不可能を可能にする為に、この数十年準備してきたんだよ。」
蔵智から放たれる言葉から感じられる自信の現れに、ゾクリッと背筋が冷たくなる。
「……少しお話が過ぎたようだ。計画を始めよう。」
すると人工知能の機械と思われる大型の機械を動かし始めた。
パチッ パチパチッ
脳内に軽い火花の様な痺れの様なものが発生する。
蔵智が言っていた電気信号というものだろう。
電気信号が送られてから数十分経った後、頭につけられた装置は、つつがなく恵に強制的に異能を発動させていた。
しかし問題が起こる。
恵の体に異常が起き始めていた。
「うっ……。」
なに……?視界がどんどん広がって……。目眩……?気持ち悪い…。吐き気がする…。それに頭も痛い………。
自身の体の異常に戸惑っていると蔵智がその異変に気づく。
「始まったか……。」
「ッッ!………ぇ?」
酷くなる目眩と頭痛に顔を歪ませながらも、蔵智の意味深な言葉に反応する。
「いま体に起こっている様々な不調。それは脳の使用領域の拡張が原因だ。」
「どうい……う…ッ!こと……!!」
「脳の使用領域が拡張された事によって、視界の情報量が増えているのだろう。視界が広がれば目眩を、情報量が増えれば頭痛が起きる。という具合にな。
更に使用領域の拡張の影響で生存本能によるリミッターを無視した異能の出力の増加
脳への負担は甚大だ。脳が使い物にならなくなって廃人になるか、最悪死に至る可能性がある。」
「なっ……!!?」
まるで死神が背筋を撫でるかの様な激しい悪寒。
蔵智の口から発せられた死亡のリスクに身体が震える恵。しかし、本当の意味で恐怖を覚えたのは蔵智の目だった。
この人……!私が死ぬ事に何も感じて無い……ッッ!!
こちらを見る双眸からは虚無を感じさせる様な暗闇が広がっていた。
「貴方ッ…!正気じゃ……ッ!…無いわ!!」
「………鼻血が出てきたよ。」
蔵智に言われて気づく。
タラーーっと重力に引かれる様に線を描く血液は口の中に入り、鉄の味が口に広がる。
「………ッッ!!」
「…………………。」
蔵智を睨見つけるも、相変わらず気にしたそぶりも見せず、また機械を動かし始めた。
絶望的な状況に打ちひしがれる恵。
そんな中、恵はある少年を思い浮かべる。
『助けて………ッ!彼方くん……………ッッ!!』
本当は2日前に更新する予定だったんですが、話の内容難し過ぎて遅れました。
自分で自分の首絞めてました。
マジで二度とこんな難しい話書かん。
それではいつもの感謝を。
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