第八話 任せとけ!!
いつもは老若男女様々な人が賑わうショッピングモール内には人の気配は感じられず、そこにあるのは、戦闘の形跡と惨憺たる空気だけだった。
「ッッ…クソッ……。」
機械人形の軍勢によって連れ去られた恵。
彼方は、恵を守りきれなかった自分の不甲斐なさに顔をしかめてしまう。
「ごめんみんな。僕がもっと抵抗出来ていたら……。」
優も恵を守れなかったことに、自責の念に駆られており、その表情は険しかった。
非戦闘系の異能者である優は、彼方やアリスが機械人形と戦っていた時、恵のすぐ隣で学校や警察に協力を要請する為に電話などの手回しをしていた。
しかし恵が機械人形達に連れ去られようとした時、恵を守るため必死の抵抗をみせるも、結果は失敗に終わってしまった。
機械人形に抵抗した時に出来てしまったのか額からは血が流れており、顔は殴られたのか少し腫れていた。
きっと目に見えないだけで他にも怪我をしているのであろう。
「いいえ。優君は頑張ってくれたわ。だからそんなに自分を責めないで….…。」
アリスは優を慰さめるため、とっさにフォローをする。
そうだ。優の事を責められるような人が何処にいようか。
非戦闘系の異能者にも関わらず、武器を持った機械人形相手に恵を守るため立ち向かったのだ。
自分が命を落としてしまう確率が一番高いと言うのに。
「とりあえず怪我の手当てをしましょ。じっとしててね。」
アリスは機械人形達が来ていた服を千切って包帯の替わりにした後、自身の能力で生成した氷で氷嚢を作った。
アリスが甲斐甲斐しく優の世話をしていると、優が彼方とアリスにこれからの事について話し始めた。
「とりあえず僕たちは警察が来るまで待ったあと、事情を説明して後は警察に任せるって事になりそうだね。」
「そうね。事件が誘拐にまで発展してしまった以上、私たち学生が出来ることは悔しいけれどもう無いわ…。」
優の言葉に肯定するアリスだが、自分たちの失態で拐われてしまった挙句、何も出来ないでいる事に歯噛みしてしまう。
「いや…まだだ……。」
「え?」
優とアリスの言葉に否を唱える彼方。
彼方の発言に理解が出来ないでいるアリスは、その言葉の意味を問う。
「まだだ……。って何を言ってるの?もう私たちに出来ることなんて無いわ。」
「恵を助けに行く。」
彼方から発せられた言葉に思わず詰め寄られずにはいられないアリス。
「何を馬鹿な事を言っているの!?プロでも無い私たちが、勝手な行動をするのはかえって恵さんが危険なのよ!!後は警察の人に任せるの!!」
「駄目だ!それじゃ遅すぎる!!」
「少し冷静になりなさい!流石にアナタといえどその案には賛成出来かねないわ!!
もしも本気で行くつもりなら……………。」
アリスの身体から冷気が溢れ出してくる。本気で彼方を止めるつもりであろう事が、気迫と共に伝わってくる。
少しの間、彼方とアリスが視線を交わし続けると、彼方は深呼吸をしてからアリスに語りかける。
「アリス聞いてくれ。」
アリスから漂い続ける冷気と気迫は一向に緩む気配が無いが、彼方は無視をして話を続ける。
「今回の事件。襲ってきた機械人形の数の多さから言って出資者がいるのは確定だと思う。」
出資者。そもそもとして機械人形を一体製造するだけでも多額の費用がかかる。
つまりお金や製造設備と言った諸々をサポートする協力者がいると考えると、以前彼方の家でアリスが言った「警察もしくは報道機関に襲った奴の仲間がいる。」と言うのが一部の出資者と考えるのが妥当だろう。
「でもいくら出資者がいても、ここまでの事件を庇いきる事は難しい。
だとしたら恵さえいれば誘拐した事がバレても問題無いって事だ。」
「………。」
「お金や恵に好意を向けた末の誘拐ならわざわざ警察にバレる恐れがある行動はしないはずだ。
これはただの誘拐じゃ無い。異能者である恵が拐われたのは、何かの計画に必要だから恵を襲ったと考えるのが妥当だ。」
「………。」
「アリス頼む……っ!」
「………私も彼方と同じ推測をしていたわ。」
「!! なら…!」
「でもやっぱり駄目。私たち学生が図に乗って行動するのは危険よ……。」
同じ考えだからこそ歯痒いのだ。同じ考えだからこそ自分の行動が軽率だと分かるのだ。
二度目の否定。それでも彼方は譲れない。諦めきれない。
「アリス……!警察が動き出すには時間がかかり過ぎる……!それにいくらプロでも警察は無能力者だ……!機械人形に勝てるとは限らない!それにUPTも動くとは限らないのは、お前も分かるだろ!?今、助けられるのは俺たちしかいないんだ!!」
「……駄目よ。」
「アリス!!」
「駄目よっっ!!」
全部。全部分かってしまう。助けに行きたい気持ちも痛いほど。それでも。
「駄目だよ………ッ。」
アリスの喉奥から絞り出される様にか細い声が漏れる。
沈黙が場を支配する。暫くして静寂を破ったのは優だった。
「……行こうか。助けに。」
「優!?」
優がポツリと呟いた言葉に思わず目を見開くアリス。
「確かにアリスの言うように後は警察に任せた方が良いとは思う。でも、今すぐに動けて恵さんを助けれる確率が高いのは僕たちだと思う。」
「………アリス。」
彼方と優の目線がアリスに集まる。
暫くの間沈黙が流れると、意を決したのかアリスが口を開く。
「…………分かったわ。助けましょう恵さんを!!」
曇りがかった表情は次第に薄まり、その瞳には何としてでも助けるという決意が宿っていた。
アリスの言葉に彼方と優は笑顔を見せる。
「きっと独断先行したせいで先生に怒られるな。」
「助け出せたらみんな一緒に先生に怒られようね。」
少しばかり冗談まじりに言うと、三人はクスッとした笑みをこぼす。
彼方達は早速、連れ去られた恵を取り戻すため動き出した。
「優、頼む。」
「OK」
そう言うと優は、自身のスクールバックに入っていた自前のパソコンを起動した。
「能力発動『繋ぐ鉄腕』。」
「能力が発動できたら恵のスマホと繋げてくれ。」
「分かった。リンク開始。」
優の異能『繋ぐ鉄腕』は、機械同士をリンクする事が可能で、リンクした機械から情報を伝達したり、入手する事が出来る。
「……………リンク完了。で、どうする?」
「リンクが完了したら位置情報の取得が出来るか試みてくれ。」
「ん。………出来たよ。今パソコンの画面に表示する。」
優がカチャカチャとキーボードを叩くとパソコンの画面に地図マップが表示され、青い丸マークが地図上の道路に沿って動いていた。
「よし。じゃあその位置情報が表示された画面をアリスと俺のスマホにリンクさせてくれ。」
暫くして彼方とアリスのスマホの画面に恵の位置情報が表示された。
「よし。じゃあ追いかけるか。」
「優君はどうする?」
アリスは負傷した優に問いかける。
「僕は行かないよ。戦闘が出来ない僕が行っても彼方達の邪魔になるだけだし、それにこれから来る警察にも事情を説明しなきゃだしね。」
「そう。分かったわ。じゃあ後の事は頼んだわね。」
すると、優は彼方達に向け親指を立てるとアリスの言葉に肯定した。
「任せて。出来るだけ警察の人にも早く動いてもらえるよう言っておくね。」
親指を立てる事によって、言外に彼方達の健闘を祈る意味も込める優。
それに応えるように、彼方とアリスも優に向けて親指を立てる。
「「任せとけ!!」」
彼方とアリスは、恵を助けるため走り出した。
今回もキャラ紹介。ノッポで糸目な優君です。
高木山 優 17歳 男性
能力『繋ぐ鉄腕』
1. この能力は機械同士を強制的にリンクする事が可能で、プログラミングや指示、データを一斉送信させる事が可能。またその逆も然りで、リンクした機械から通信の傍受や、情報を入手する事が出来る。リンク自体は優が明確なイメージを持って指定すれば出来るため、最悪実物を見ていなかったとしても出来る。
2. 一斉送信されたデータは個々の機械でインストールされる為巨大なハードウェアを必要としない。(しかし機械ごとにインストールされる時間はバラバラ)
3. 戦闘時はこの能力を使ってロボットを操作して戦う
4. 情報を送信する端末は自身のスマホとパソコンの二種類あり、もし端末の数を増やしたい場合は優が作成したオリジナルのミニゲームをクリアしないといけない。これが大元の能力の発動条件だったりする。
5. 最大リンク数は最大5まで。送信場所が多いほど送信時間はかかる恐れはある。
6. 機械同士のリンク自体は、優から一方的にする事が出来るが、セキュリティがかかっている場合は解除しないと情報を入手出来ない。
性格
身長180㎝ののっぽで糸目。温和で優しい性格。主人公が卑屈めいた発言をしても励ましたり、相談にも親身に聴いたりと人当たりが抜群。戦闘はあまり得意では無く、支援が基本的な役割だったりする。
優の異能は、悪用されると非常に危険な為、協会に厳しく管理されている。
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作者コメント
キャラ紹介長いね。すいません。
優は影は薄いけど、実はめちゃくちゃ強い能力の持ち主です。
優とアリスをメインとした話も考えてはいるんですけど、やるかどうかは考えてません。
後、毎回僕の話を読んでくれる方々には貴重な時間を使って読んでくださり大変嬉しいです。
ありがとうございます。
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