第四話 眠れない夜
「………。」
「………。」
清々しい朝とは対照的に、二人の目の下にはどんよりとした隈が出来ていた。
話は昨晩まで戻る。
昨晩
「じゃあ私は帰るわ。そろそろ門限の時間だし。」
「僕も帰るね。」
彼方の頼みで、恵を助ける事に協力してくれる事になったアリスと優は、時計を見ると帰る支度をする。
「あっじゃあ私も帰ります。」
アリス達が帰る支度をしだしたのを見て、自分も帰ろうとするが、ふとアリスに止められる。
「何を言ってるの?無理に決まってるじゃ無い。」
「へ?」
アリスが当然の様に放った一言に、恵は素っ頓狂な声をあげてしまう。
「相手はアナタの名前を特定して接触して来たのよ。アナタの家も特定されて、待ち伏せされてる可能性がある。」
「え?じゃあもしかして…。」
「事件が解決するまで家には帰れないわ。学校も通えないかもね。」
「えぇ!そんな困ります!!」
「こればかりはしょうがないわ。」
「そんなぁ〜……。」
事件の弊害が思わぬ所までおよんでいる事に、肩を落とす恵。
「……大丈夫よ。すぐにでも私たちが解決してみせるから。」
「アリスさん…。」
アリスが微笑みながら恵を励ます。しかし帰れないとなると当然の疑問が恵の頭をよぎる。
「あ、あの……。私家に帰れないなら今日どうするんですか?アリスさんの家に泊まらせて貰えるんですか?」
「悪いけど私の家は無理なの。だから彼方の家に泊まる事になるわね。」
「ん!?」
「えっ!!」
アリスの驚愕の発言に思わず目を見開く彼方と恵。
「ちょっと待て!まさか恵を俺の家に泊めるつもりか!?恵の家が特定されてるなら、戦闘をした俺も特定されてる可能性があるだろ!?」
「一応言っておくけど私は無理よ。私の家が厳しいのはアナタも知ってるでしょ?」
「ぐっ…。なら優は!!」
「うーん僕も無理だね。僕は彼方みたいに戦闘系の異能じゃ無いから、敵が襲って来ても守れない。」
完全に彼方が恵を泊める方向に話が進んでいる。
「そういう事よ。諦めなさい。」
「彼方にはそんな根性無いと思うけど、恵さんを襲わないようにね。」
「ンガッ…!」
「…………ッ!!」
彼方は優の一言に、恵は『襲う』の意味を想像し、赤面して固まる
そうこうしている内に、アリスと優が靴を履き始める。
「じゃあ明日は学校だからね。恵さんの件『先生』に相談しましょ。」
「じゃあね。」
バタンッとドアの閉まる音が響くと、二人のなんとも言えない雰囲気が部屋全体を包む。
「あー…とりあえず飯食べるか?」
「あっ…うん……。」
そんな微妙な雰囲気を拭えないまま、刻々と時間は深夜0時まで回る。
「そろそろ寝ようぜ。ハイこれ敷布団。」
「あっ…ありがとう……。あの…彼方君の布団は……?」
「俺一人暮らしだから布団も一つしか無いんだ。まぁ俺は床でも寝れるから布団は恵が使いな。」
「えっ…そんな申し訳ないよ……。」
「ハァ……。なら一つの布団で一緒に寝るか?」
「あっ…じゃあお言葉に甘えて……。」
「…電気消すぞ。」
天井にかけてある昔ながらのペンダントライトから垂れ下がったコードを引き、電気を消す。
シンーっとした静寂が部屋に流れる。
「…………。」
「…………。」
『『寝れない!!』』
一つの空間に異性と二人きりという状況に否が応でも意識してしまう。
彼方は、恵に背中を見せるように寝ているがどうしても落ち着かない。
恵も初めての異性の家で過ごすという状況に、少し大人の階段を上っている様な気分でソワソワとしている。
そんな緊張が続く中、5分か、10分か、1時間か。暗闇の中で時間の感覚もよく分からなくなる頃に恵がポツリと呟く。
「……彼方君。寝た?」
「……いや。寝てない。」
少しの間、お互いに無言になるがまた恵が口を開く。
「私さ………。本当に大丈夫なのかな…。」
「……不安?」
「正直……ね。彼方君は強いし皆んなも協力してくれる。でもやっぱり怖いよ………。」
「…………。」
「私……普通の女の子なのに……。別に狙われる様な事してないのに……。どうして私が…。」
彼方の背中越しに、だんだんと恵が涙声になっていることがわかる。
彼方は寝返りを打ち、恵と顔を合わせる様にする。
至近距離で覗く事が出来る恵の顔は、電気を消していても分かるほどの端正な顔立ちで、真っ黒のさらさらストレートヘアーは美しいの一言に尽きる。涙で濡れた瞳は、どこか扇情的に映っていて男心をくすぐられるような感覚に陥る。
「恵。」
「……?」
「お前がピンチになっても俺が全力で守ってやる。だから恵も俺の事を最後まで信じ続けてくれ。
少し頼りないかも知れないけどさ…。」
彼方はそう言うと、恵の手を軽く握る。彼方の不意な行動に思わず恵は鼓動を早らせた。
「わ、わかった……。」
「……明日は早いから早く寝な。」
彼方は握っていた恵の手を離す。
「あっ……。」
「ん?どうした?」
「あ!いやなんでも無いの!!あ、あはは…。」
急に声を大きくする恵に彼方は不思議がる。
「……?そうかじゃあおやすみ。」
「う、うんおやすみ!」
彼方はまた恵に背中を向ける様に寝返るとそこからまた無言になった。
また八畳一間の空間に静寂が戻る。しかし二人の頭の中は静寂どころではなく。
あー………。
股間立ちそう…。
いやしょうがなく無い?だって女の子と一緒に寝てんだもん。このシチュエーションだけで無理だわ。ってか恵、普通に顔可愛いし。
彼方は煩悩が渦巻いていた。
うぅ……。さっきの彼方君ちょっとかっこよかった…。ちょっと顔熱いよぉ!っていうか今、彼方君と同じ空間で寝てるのすごい緊張するぅ……。
恵はめちゃくちゃ初心だった。
あー早く朝にならねぇかなぁ…。
早く朝になって〜!!
彼方は性欲を抑える為に、恵はこの感情に戸惑い、二人は眠れない夜を過ごした。
目覚し時計が、けたたましい音を部屋に響かせる。
彼方が目覚し時計を止めると、二人はムクリと起き上がる。二人はお互いの顔を見つめて一つの言葉が思い浮かんだ。
「「良い朝だね。」」
二人の目の下には隈が出来ていた。
だいぶ皮肉が効いていた。
今回思ったより長くなってしまった…!
僕個人としては、彼方はイケメンって感じより残念な感じにしたいので最後の最後に台無しにしました。ですが楽しんでいただけたら幸いです!
次の話は彼方の学園に行きます!!
お楽しみに!!