第三話 不可抗力だ
「困ったな……。」
一人の少年の周りには、頭を砕かれた機械人形と倒れ込んだ少女が道に転がっていた。
「とりあえず…。場所を移動するか…。増援とか来たら厄介だしな……。っとその前に。」
ポケットからスマートフォンを取り出し、電話をかける。
着信音のコールが3度鳴ると電話口から相手の声が聞こえてきた。
「あ、急に電話して悪いな。いや実はお前の声が聴きたくなっ…。」
ブッ ツーツー
電話を切られた。
少年はもう一度かけ直すと、電話口から不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「すいません冗談です。調子乗ってました。すいませんでした。」
少年は「ちょっと相談があって…。」と話を切り出すと、いくつか言葉を交わしてすぐに電話を切るとまた別の所に電話をかけた。
「……あぁ。じゃあまた後で。」
少年は電話を切ると、倒れ込んだ恵を背負い移動を開始した。
「ん…。アレ……?」
数度まばたきをした後、ぼやけた頭でいつ自分が寝ていたか思い出そうとする。
『私…いつ寝てたんだっけ?今何時だろ。まだ晩御飯作ってないし、洗濯物も終わってない……。あー…でもなんか面倒くさくなってきた…。もー明日でいいや…。』
恵がまた目蓋を閉じて睡魔に身を委ねようとする。
「いや、なに二度寝しようとしてんだよ。アレか?王子様のキスで目覚めるって奴か?誘ってるの?」
また寝ようとする恵のすぐ側から聞き慣れない声が聞こえてくる。
『この声…誰?』
「しょうがない。ウン。これは不可抗力だ。
キスしよう。」
バッッ!
何かとてつもなく身の危険を感じ、恵はすぐさま起き上がる。
「あ、起きた。」
恵は声の主を確認すると、つい先程の出来事を思い出した。
「よく眠れましたかお姫様?」
声の主は先程、恵を助けてくれた少年だった。
恵は倒れ込んだ後、少年の家まで運ばれたらしい。八畳一間ぐらいの部屋はところどころ壁が変色しており、年代を感じさせる。
「助けてもらってありがとうございました。あなたのお名前を伺っても良いですか?」
「俺の名前は夏目 彼方。17歳だ。」
「私は野中 恵。歳は17で一緒ですね。」
「同い年ならタメ口で良いよ。恵はどこの高校に通ってんの?」
彼方と恵がたわいの無い話をしているとピンポーンっとインターホンが鳴った。
「おっ…来たな。ちょっと待っててくれ。」
彼方がドアを開けると二人の男女が立っていた。
「アレ?一緒に来たのか?」
「ええ…。優君とさっきそこで合流したの。」
「なるほどね。とりあえず部屋に入ってくれよ。」
「邪魔するわ。」
「お邪魔しまーす。」
部屋に入ってきたのは、端正な顔立ちに、なびくロングヘアの銀髪。ひと目見てどこかの国のお姫様と思わせる程の美少女。
もう一人は、身長180センチはあろうかと言う高身長で、糸目と柔和な笑顔が人柄の良さを感じさせる少年。
「ど…どうも。」
入ってきた二人におそるおそる挨拶をすると、「こんにちは。」と返してくれた。
軽く挨拶をすませると彼方が話し始めた。
「紹介するよ。こっちの怖そうな女が如月 アリスで、こっちの糸目ノッポが高木山 優だ。」
「一言アナタは余計なのよ。」
「痛い!痛い!ゴメンって!」
アリスが彼方の耳をギリギリと引っ張り、彼方が絶叫する。
数十秒間の間耳を引っ張られ続けられた後、やっと解放して貰った彼方は、耳をさすりながら話を始めた。
「今日二人に来て貰ったのは、恵を助ける為だ。」
「助ける?」
アリスが彼方に聴き返すと、うなずきながらまた彼方は話し始めた。
「今日の学校帰りに恵が二人の男達に追いかけられてるのを見て助けたんだ。」
「? それなら警察に話した方が良いんじゃ無い?」
当然の疑問をアリスが投げかけると彼方は困った顔をしながら質問を返した。
「いや、実はそのあと恵を助ける為に男達と戦闘になったんだけど、その男達が実は機械人形だったんだよ。」
「機械人形だって?」
優がスマートフォンを取り出して何かを検索すると「うーんやっぱりおかしいね。」とこぼした。
「おかしいって何がおかしいんですか?」
「そもそも機械人形ってのは今の異能者が生きる時代には無用の長物なんだ。どんな分野でも異能者の方が優秀だし。まぁつまり何が言いたいかと言うと、珍しいんだ。」
「珍しい…。それが?」
「これを見て。」
優がスマートフォンの画面を恵に見せると、そこにはニュース記事が映してあった。
「さっき言った通り機械人形は世間的に珍しい。なのにニュースにどこにも取り上げられてないんだ。」
確かに優の言う通り、映し出されたニュース記事に機械人形と言う文字は見受けられなかった。
「まず機械人形だと分からなくても、人の形をしてるんだ。病院なり警察なりに連絡は行くし、ネットに書き込みだってされる。なのに情報が広まってない。」
「つまり…。警察もしくは報道機関に恵さんを襲った奴の仲間がいて、情報封鎖をしてるって事ね。」
アリスが優の言わんとする事を察して恵に説明する。
「えっ……。」
驚愕の推測に思わず愕然とする。
「あぁだから二人を呼んだんだ。警察も頼れないし、異能犯罪とも限らないからUPTも頼れない。」
UPT
UPTとは協会の有する自衛隊や警察の整備部から対犯罪やテロ対策用に組織された部隊で異能者と非異能者の混合部隊である。
恵は、自分にとてつもなく危ない事が迫っているのでは無いかという恐怖から、身体が震える。
「だとしても。」
しかし彼方が恵を見つめながら、アリスと優に語りかける。
「恵には今頼れる奴が俺たちしかいない。だから二人とも力を貸して欲しい。」
彼方が真っ直ぐな瞳で二人に協力を求める。
「お、お願いします!」
恵も二人に助けてもらう為、頭を下げる。
少しの間、八畳一間の空間に静寂が流れる。
「……分かったわ。協力してあげる。」
「彼方の頼みだし、話を聞いておいて何もしないってのも薄情だしね。」
二人は潔く了承してくれた。
「あっ…ありがとうございます!!」
だんだん事件も進展し、仲間も出て来ました!!
次も頑張りますのでよろしくお願いします!!