第二十八話 黒崎VS『皇帝』①
黒崎は、彼方達を助けるため会場に向けて走り出した。
優から貰った地図を見ると……放送室はここか…。
端末に表示された地図を確認すると、班の教員達に追いつこうと更に足を早める。
すると、会場の入り口付近の柱の影から、身長3メートルはあろうかと言うほどの男がヌルリと現れた。
「なっ……!?」
黒崎は、巨人と錯覚してしまいそうな男の登場に足を止める。
男は肥大した体に、ギトギトとした汗を垂れ流していて、生理的に受け付けれないような見た目をしていた。
「ブヒッ……。『星』の馬鹿が、大きな音を立ててたから様子を見にくれば、やられてるじゃねぇか…みっともねぇw」
侮蔑の籠もった声で、寝転んでいる『星』を嘲笑うと、黒崎の方を見やる。
「…これ……アンタがやったの……?」
「だとしたら何だ……?」
男は、黒崎の体を舐め回すように眺めると、ニチャァと唾液が糸を引くような気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「ブヒヒッ……!あんまり若くは無いが…なかなか良い体をしてる…。それに顔も悪くない……。決めた…お前、今日から俺様の性奴隷決定〜!」
「……………あ?」
男の発言に不快感を示す黒崎。そんな黒崎の表情を見て更に男は笑顔を歪ませる。
「悪いがお前みたいな豚野郎の戯言に付き合ってられる程こっちも暇じゃ無いんだ。退け。」
「ブヒヒ…良いね。アンタみたいな気の強い奴は嫌いじゃ無いよ。そのクソみたいなプライドを踏みにじる様に徹底的に陵辱したら皆んな一様に無様な顔してこう言うんだ。『もうやめてぇ……。』ってな。」
目の前の豚の言葉の裏に伺える被害者の姿を想像して、自身の胸の中に不快感が更に積もる。
「分かったよ。お前はもう黙れ。」
黒崎は侮蔑の籠った目を向けながら躊躇なく拳銃の引き金を引いた。
弾丸は先程の『星』同様に相手を貫く事なく虚空に向かって発射された。
ただの威嚇射撃。相手の目を瞑らせ、能力を発動し詰み。
そうなるはずだった。
「?」
「ブヒッ!お前どこ狙ってんの?」
ニタニタと不快な笑みを浮かべる男をよそに黒崎は違和感を覚える。
能力が発動しない?さっきの発砲でビビらなかったのか?あの豚がそこまで肝の座った奴だとは思わないが…。
今度は威嚇射撃では無く、相手の足に照準を合わせ直す。
「撃たせるかよぉ〜!!」
男はそう言うと、ぶくぶくと肥満したその体とは対照的に凄まじい速度で黒崎に迫る。
「!?」
予想外の身体能力に驚き、回避に移るまでにワンテンポ遅れる。
大木の様に大きな男の腕がしなり、大きな衝撃音と共の黒崎を吹き飛ばす。
「……ッッ!!」
数メートルほど吹き飛ばされるも、華麗な身のこなしで体勢をすぐさま整える。
……右腕でガードしたのに打撃の威力を殺しきれなかった。それにあのデブ、見た目はあんなだけど相撲取りの様に中身は筋肉の塊だな…。
ガードした手に残る痛みと痺れを感じながら目の前の敵の認識を改める。
「ブフフッ!ブフヒフヒヒフフッッ!!」
男の気持ち悪い笑い声に黒崎は目を細める。
「テメェ何がおかしいんだ。その気持ち悪い笑い声を止めろ。癪に触る。」
「ブフッ!!まずは『右腕』。」
「あ?」
男の意味の分からない言葉に更にストレスを募らせる黒崎は、右手に持った拳銃を再び構えなおす。
ダランッ
「!?」
構え直した右腕が急に脱力し、動かせなくなる。
さっきの攻撃の時に腕がやられたか?いや、違う。確かに威力は凄かったが、打撃自体は威力を多少受け流したおかげで骨や筋肉に異常は無い。他に考えられるとしたら……。
「……お前の能力か。」
「正解。俺の能力『絶対なる支配者』は、俺が触れた箇所の支配権を奪い、俺様の思うがままに操れる能力だ。
どうだ?『皇帝』の名に相応しい能力だろ?」
触れた箇所を自分の思い通りに操る能力。なかなか厄介だな…。
攻撃を受けたり、ガードすると言う戦闘においての選択肢に制限をかけ、攻撃を避け続け無ければならないと言う強制的な一択を相手に押し付ける。行動を縛られた状態で戦うやりにくさは鬱陶しいな。
『皇帝』と名乗る男の能力の厄介さに舌打ちを打ちながらどうやって攻略するかを頭の中で算段を組み立てていく。
「ブヒヒィ……。後は両足と左腕を支配するだけでお前は俺様の性奴隷決定だ。ブフフ。楽しみだなぁお前を奴隷にしたらまずは街中でストリップショーでも行おうかなぁ…!」
「ハッ!もう勝った気でいんのか?おめでたい頭してんな。ホントお前には相応しい名前だよ。『勘違いの皇帝野郎』。」
黒崎がお返しとばかりに挑発をすると、『皇帝』の口角がヒクッと動く。
「……いいや。もうお前は詰んでんだよ。この通りな。」
『皇帝』が人差し指をクイッと手前に動かすと、それに呼応する様に黒崎の右腕が意思に反して動き、黒崎自身の首を締め付ける。
「ぐぅっ……ッッ!!」
黒崎は、自身の右腕を振り解こうと必死にもがく。その姿に『皇帝』は鼻で笑いながら呟く。
「ブヒヒ……。滑稽だなおばさん。そうやってもがく姿はお前にお似合いだぜ。」
ドスンドスンと重たい足音を鳴らしながら黒崎に近づく。
「ブヒヒッ…!安心しろ。お前が完全にぶっ壊れるまでは『使ってやる』よ。」
そう言うと『皇帝』は、黒崎を自分の物にしようと、その巨大な腕を振り下ろした。
いっぱい更新遅れてゴメンね。




