第二十三話 もしあの時の言葉が本当なら………。
「俺たちの名は『フィーネ』。終わりを冠する者の名だ。」
『フィーネ』の名を聞いた瞬間、会場中が騒然とし出した。
それはもちろん彼方達も例外では無かった。
「『フィーネ』ですって……ッ!?」
いつも冷静沈着なアリスは、背中に嫌な汗が出ているのを感じ取れた。
「なんでこんな所にテロ組織の連中がいるのよ……ッ!!」
アリスは愚痴をこぼしながら、すぐさまその場を移動した。
異能テロ組織『フィーネ』
数年前から活動を始め、異能力者に対する差別の撤廃を掲げる組織である。
しかし、その方法は過激なテロ活動ばかりであり、世界中で危険視されている存在であった。
アリスは、彼方や優に連絡を取ろうと右耳につけられたインカムに手を添える。
「彼方!優!敵が何人いるか分からないし、相手の目的も分からない。ここは一度集まりましょう!」
インカム越しに仲間と連携を取ろうとするも、向こうから返事が一向に帰ってくる気配が無い。
「彼方!優!聞こえてるの!?」
こんな時にインカムが壊れたのっ!?
内心苛立ちを覚えていると、マイク越しに拡張された赤髪の男の声が聞こえて来る。
「ちなみにだがぁ…。外部に連絡を取ろうとするのは無駄だぞ。ウチのメンバーに、連絡の送信先を強制的に変える奴がいるからな。」
「なっ……!!」
赤髪の男の言葉を聞いたアリスは、足を止めもう一度インカム越しにいるはずの仲間に呼びかける。
しかし、先程と同じように返事が返ってくる事は無かった。
まさか返事が返ってこないのは通信を妨害されてるからっ!?
仲間とも連携を取れず、外にも救援を呼べない絶望的な状況にアリスは下唇を噛む。
彼方、優。どうか無事でいて……。
アリスは仲間の安否を気にかけながら、通信を妨害しているとされる敵を探してまた走り出した。
会場に突如現れたテロ組織の一員に会場はパニックに陥っており、観客達が一目散に外に出ようと走り出す。
「やばいやばいやばいやばい!」
「退けろぉ!!」
会場の様子を見た彼方は、声を張り上げ観客達を止めようとする。
ヤバイ!今の状況で逃げるのはテロリストの神経を逆撫でしてしまう!!
「皆さん!無闇に動かないで下さい!!」
しかし、彼方の声を聴くものはおらず、誰も足を止めようとはしなかった。
「クソッ……!」
一人言葉を吐き捨てる彼方は、今までの経験から会場の外へ逃げる事が出来ない事を察していた。
こんだけの規模のテロを起こしてるんだ。人数は不明だが、当然会場は包囲してて逃げられないはずだ……。
オマケに通信手段は封じられ、完全に外とも隔離されている……。
これはだいぶ不味い状況だな……。
事態の深刻さを冷静に分析する彼方の後方で、赤髪の男は逃げ惑う人々を見ながら、簡潔に言葉を述べる。
「止まれ。殺すぞ。」
放たれた殺意は、会場中を駆け抜け、人々の身体を貫き、一瞬にして足を止めさせる。
シンッーー。と、静まり返った会場で、男は「続けるぞ。」と呟くと、話を再開した。
「知っての通り俺達『フィーネ』は異能力者に対する差別の撤廃を目的とする組織だ。
お前ら非異能力者は、特別な力を持った異能力者を妬み、恐れ、蔑んで来た。
自分達が間違っているなんて疑う事なく、異能力者に石を投げ続けた!
そんな時代は俺達が終わらせる!!
今までお前達がそうしたように、今度は俺達がお前達に向けて石を投げる番だ!!
そして!確立する!!
50億人いるとされるお前達、非異能力者を全て塵芥と帰し!俺たち異能力者だけが世界に存在する《楽園》を創る!!」
全ての非異能力者を殺す。
それはつまり50億人もの非異能力者に戦争を仕掛けると言っているようなものだった。
……出来るわけが無い。
『フィーネ』の思想を聴いた彼方は心の中でかぶりを振る。
もし、本当に戦争になったとしても、数で勝る非異能力者が現代武器を装備してしまえば、敗れてしまうのは異能力者だろう。
事実、それが分かっているから異能力者が非異能力者に対して戦争を仕掛けた歴史は過去に一度しか存在していない。
「そして今日ここに集まっているお前達を全員ブチ殺してぇ!日本政府に宣戦布告をする!!」
男が歪な笑顔を浮かべながら、殺意のこもった瞳で会場中を睥睨する。
「とりあえず…どうするかなぁ……。誰から殺そうかなぁ!!」
男は爛々とした表情で、適当な人を指で指し始めた。
指を指された人達は皆一様に怯えた表情を浮かべる。
男はそんな観客達を見てニヤニヤと下卑た笑顔を浮かべると、一人の女の子に指向けた。
「それともお前、死ぬか?」
「……ひっ………!」
ザワッッ!!
指を向けられた先にいたのは星宮 かりんだった。
「ん〜〜?お前ら今、コイツに反応したのか?」
観客のざわめきを感じ取った男は、口角を上げると、更に殺意を強くする。
「……決めた…。最初に殺すのは…テメェだぁ!!」
そう言うやいなや、男が指を鳴らすと何も無い空間から巨大な焔が燃え盛った。
「……ぁ…あぁ………。」
ぺたん。と、男の殺意に当てられた星宮は、腰を抜かして座り込んでしまった。
自身の顔を赤く照らす焔は、ゴウゴウと渦を巻いてあの焔に包まれたが最後、体が焔の色に染まり溶けて消えていく事を無理やりにでも理解させてくる。
絶望に打ちひしがれる星宮を見て、歪な笑みで笑う男は、大きく右手を振りかぶった。
「それじゃあ…………燃え尽きろッッ!!」
男が焔を投げると、星宮の華奢な体を燃やし尽くさんと一直線に飛んでいく。
「やめてくれぇぇぇッッ!!」
「イヤァァァァァァッッ!!」
焔が投げられた瞬間、会場中から観客達の悲鳴が上がる。
腰を抜かした星宮に迫りくる焔を避ける術は無く、星宮がいた空間ごと燃やし尽くした。
星宮には、焔がゆっくりと自分に向かって迫っているのを認識していた。
走馬灯…とは少し違う。時間の流れがゆっくりになった感じだった。
引き伸ばされた時間の中、星宮は考え事をしていた。
そっか……私死ぬのか……。
……やりたい事いっぱいあったのになぁ…。
部活動とかやってみたかったし、友達が少ないから、友達だってもっと欲しかった。
放課後どこかで食べ歩きなんかもして、素敵な恋…って言ってもよく分からないけどしてみたかった。
結婚だってして、純白のウエディングドレスなんかも着てみたかった。
…………でも、もうそれも叶わないんだ…。
全てを諦めた星宮は、なぜか一人の男を思い出していた。
…………アレ?なんでいま私、…彼方さんを思い出したんだろう。
『……もしもお前が俺に助けを求めた時は、すぐに駆けつけてやる。』
それは、コンサートの直前に彼方が星宮に向けて言った言葉だった。
…………なんで今、こんな言葉…思い出しちゃったのかなぁ……。
星宮は自分自身に苦笑いをこぼした。
生きるのを諦めたはずなのに、全てを諦めたつもりなのに、彼方さんの言葉一つで簡単に揺らいじゃった……。
……ねぇ彼方さん。もしあの時の言葉が本当なら…………………。
「………………私を……助けて…ッッッ!!」
切に願うよう引き絞られた声は、とてもか細く弱々しいものであった。
会場は悲鳴で埋め尽くされ、星宮の助けを求める声は、掻き消されていた。
誰にも届くはずが無かったーー。
「当たり前だ…ッッ!!」
声が聞こえた瞬間、星宮の体は誰かに抱きかかえられていた。
「…………あん?誰だテメェ…?」
男は、燃やしたはずの少女を、お姫様抱っこしている警備員の男に、不愉快そうな声音で尋ねる。
「…あ…あぁぁ………ッッ!!」
星宮は自身を助けてくれた男の顔を見上げると、思わず顔を覆い泣き出してしまう。
本当に……来てくれたッ!!
助けに来てくれたッッ!!
「彼方さん…………ッッッ!!!!」
「大丈夫か?星宮。」
彼方の問いかけに、星宮はコクコクと肯定する。
「おい!無視してんじゃねぇぞこのハゲ!テメェは誰だって聞いてんだよ!!」
彼方に無視をされた、男は苛立ちを露わにする。
「………テメェ…さっきから五月蝿ぇんだよ……。」
「……んだと?」
「……そんなに知りてぇなら…教えてやるよ…。
俺は…星宮の……英雄だッッッ!!!」
すいません。(土下座)
また更新遅くなりました。
なかなか時間が取れず更新できませんでした。
多分ですが8月の終わりくらいまでこの状態が続かと思われます。
大変申し訳ありません。夏休みが来たらGWの時みたく毎日更新でもしようかなと考えています。
私情で恐縮ですが、これからもお付き合い頂けると嬉しいです。
それと話は変わるのですが!!
僕、漫画描きました!!
元々漫画を描くのが趣味でして、本来小説は書いてませんでした。
今回久しぶりに2Pほどの漫画を描いたのですぐに読めると思います。
タイトルは「尺理さんは止まらないっ!」です。
緊張するとシャックリが出ちゃう女の子の恋愛漫画です。もし良ければTwitterで公開してるので見てください!!別に無理にフォローしろとかは言いません!
それではいつもの謝辞を。
今回も読んでくださりありがとうございます。
高評価、ブクマ、コメント続々お待ちしております!!
次回からバトルに入るつもりなのでよろしくお願いしまーす!!




