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能無しの『英雄体現』  作者: 神田 明
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第二十一話 コンサート当日

「凄い人数だな……。」


 彼方は警備服に身を包みながら、眼前に広がる長蛇の列に感嘆(かんたん)の声を上げていた。


 今日は此処ここ東京湾岸アリーナで星宮 かりんのコンサートが行われる日だった。


「これ全部コンサートを観に来た人達か…。」


「そうね。チケットは完売したそうだから会場の収容人数10万人くらい居るんじゃないの?」


 アリスの補足説明にまたもや感嘆の声を上げてしまう。


「流石大人気アイドルだな…。」


 でも確かに生で歌声を聴きたいと言う気持ちも分からなくもない。


 彼方は、視界に捕らえきれない数の人々を見ながら内心うなずいてしまう。


 数週間前、東京湾岸アリーナの下見をする為に訪れた際、たまたま星宮の歌声を聴いてしまった。

 その歌声は、息継ぎの吐息でさえも人を魅了するほど美しく、素人目に見ても上手いと分かるものだった。


 歌声を聴いたその日から、彼方は星宮の曲をちょくちょく聴いており、今日は警備の仕事があるとは言え、生の歌声をもう一度聴く事が出来るので楽しみであった。


 もう少しで始まるコンサートに、彼方が期待に胸を(おど)らせていると、優が少し眉根を寄せながら口を開いた。


「でもこれだけの人がいると不審人物を見つけるのも容易じゃ無いね。」


「…そうだな。非異能力者なら凶器を取り出したりするから分かりやすいんだが、異能力者は凶器が無くても犯罪行為を出来るからなぁ…。」


 優の言葉に首を縦に振る。


 現代、異能犯罪の中で比較的高い割合を占めているのがハイジャックや強盗である。


 異能力者は自分の意思一つで簡単に人の命を奪うことの出来る超常の力を発揮出来る。

 その為、飛行機に乗る際に検問に引っかかる事も無く、ハイジャックをする事も可能であったりする。

 現在では一部異能力者の公共交通機関を制限したり、一時的に睡眠薬で眠らせるようにしている。


 今回も飛行機の例と同じように異能犯罪をしやすい状況なので、しっかりと警備を強化しないといけない。

 ちなみに彼方達の他にも、警備会社から派遣されて来た人や、異能力者を管理する『協会』から、対異能犯罪のプロも数人警備についている。


「もう少し開演には時間があるけど、そろそろ自分達の持ち場につきましょ。」


「そうだな。じゃあ一仕事(ひとしごと)頑張りますかぁ!」


 気合を入れると彼方達は指定された自分の持ち場へと移動を開始した。




 ドクンっ ドクンっ


 本番の時刻が近づくにつれ星宮は鼓動をはやらせていた。


「……フーー。」


 椅子に深く腰かけながら肺から空気が無くなるほど吐き出し、落ち着かせようとする。

 しかし、鼓動は依然として早いままで、一向(いっこう)に落ち着く気配は無かった。


 手に持っていた500mlの水が、星宮の手の震えと共に揺らぎを起こしていた。


「………………ッ」


 酷い顔をしていたと思う。


 目は思いっきり開いて、下唇を噛むように口を結んで、眉間にはシワを寄せる。


 およそアイドルの星宮 かりんが今までテレビでは絶対にしない様な顔をしていた。


 そんな顔をしていたせいだろう。マネージャーが肩まで伸びた癖っ毛のある髪を揺らしながら星宮の側まで来ると、かがんで顔を(のぞ)き込む様にして言葉を投げかけた。


「大丈夫よ、かりん。貴女(あなた)なら出来るわ。」


 マネージャーは星宮の手を両手で包み込むようにすると、優しい声音(こわね)(はげ)まし始めた。


「貴女は短期間でこの東京湾岸アリーナでコンサートをするほど上り詰めた。並の芸能人なんかには出来っこない。貴女には才能が溢れてるのよ。」


 期待に満ちたその眼差しで。


「いつも通りにしてれば貴女は必ずファンの人達の期待に応えられるわ。」


 静かに彼女を言葉で殺す。


「『頑張って!!』」



 ……………………………………………。


「…………ッ!ハイッッ!!」


 (こう)不幸(ふこう)か、彼女の作り笑顔はいつも通り完璧だった。




 時刻は夕暮れ。会場に明かりはついておらず、ステージ側の壁は開いており、海と夕焼けが織り成す絶景が観客のボルテージを更に上げる。


 もう後5分で始まるな……。


 彼方は柵の向こう側にいる観客達の前に立ちながら時計を見ていた。


 彼方が警備を任されたのは、ステージからほんの数メートルしか離れていない場所だった。

 警備の仕事をしている都合上、コンサートをまじまじ見たり、聴き()れる事は許されないが、絶好の位置と言えた。



 いくらかの時間が流れた後、警備の仕事に従事しながらも彼方は違和感を覚え始めていた。


 ……………おかしい。


 時計を見てみると開演時間から10分も過ぎていた。観客達も違和感に気づいたのだろう、会場全体がざわつき始めていた。


 何かあったのか……?


 彼方が時計を見ながら懸念(けねん)をしていると、場内アナウンスが流れてきた。


『現在。機材トラブルが発生しており、開始時刻が遅れています。申し訳ございません。』


 場内アナウンスを聞いた観客達は一様にして「なんだよ〜。」と軽いヤジを飛ばしていた。


 ……機材トラブルね。スタッフの人達も大変なんだな。


 裏方で(せわ)しなく動いているスタッフ達の姿を想像しながらそんな事を考える。

 すると、右耳につけていたインカムから連絡が流れて来た。


『警備中のスタッフに連絡。現在、星宮 かりんが行方不明になり、コンサートの開始が遅れています。

 観客達には機材トラブルと言って誤魔化していますが、それも時間の問題です。

 場内の見回り警備をしているスタッフは、星宮 かりんを見つけた場合即座に連絡する様に。』


 ブツッと切られたインカムを抑えながら、思わず呆然としてしまう。


 …………行方不明?


 インカムから流れた驚愕(きょうがく)の連絡を受けた彼方は、自分の持ち場を離れ、星宮を探しに走り出した。

皆さんお久しぶりです。

告知はしていなかったのですが、自分の中で勝手にゴールデンウィーク中毎日更新する事を掲げていたのですが、前回と前々回の小説のクオリティが下がっている気がして一週間ほど休みを設けました。

僕のTwitter上では休む事を報告していたのですが、「なろう」でしか僕の事を知らない読者の方には連絡が出来ず申し訳ありませんでした。

今回からまた不定期、もしくは週一更新に戻りますのでよろしくお願いします。

ブクマ、コメント、高評価お待ちしております。

よろしくお願いしま〜す!!

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