第二十話 痛み
「本日のゲストは星宮 かりんさんでーす!!」
番組の司会者が盛大な声と共に呼んでくる。
私は、星宮 かりん。臆病な女の子じゃ無い。
心の中で自分自身を塗り替えていくと、スポットライトが照らすステージへと走り出す。
「アナタの一等星☆星宮 かりんでーす!!」
快活な声で出て行くと、星宮の登場を観客の拍手が彩る。
全身に喝采を浴びながら、観客や、テレビの向こう側で観ている視聴者に届けるように笑顔を振りまく。
「いやーかりんちゃん今日も元気いっぱいだね!」
「ハイッ!私、元気が取り柄なので!!」
ズキッ
テレビの収録が終わると、すぐさま機材を持った人達が星宮の周りを囲む。
今日から東京湾岸アリーナが終わるまで間、密着取材を受けることになっていた。
カメラが回っている間、ひと時も笑顔を絶やさ無い。
なぜなら自分は、星宮 かりんなのだから。
ズキッ
車での移動中、学校での宿題をする。
星宮は中学三年生。受験生である。芸能活動で忙しくてもそれを理由に勉学をサボる事は出来ない。
もちろん宿題が終わっても、密着取材を受けている為、スタッフの質問にも笑顔で答える。
休む暇なんて、無い。
ズキッ
「ワンツーワンツーワンツーワンツー。」
ダンスのコーチが手を叩きながらリズムを刻むと、星宮はその音に合わせながら激しいダンスをしていく。
「ハイッ。ストップ!星宮、またダンスが上手くなったんじゃ無いか?流石大人気アイドルだな。まさに天才だよ。」
「本当ですかっ!?ありがとうございますっ!!」
ズキッ
「ーーーーーーーーー♪」
澄んだ声が空気を振動させる。その歌声はまるで、かの童話「人魚姫」に出てくる、人魚姫のような美しさを彷彿とさせる。
星宮は、東京湾岸アリーナに向けてボイスレッスンをしていた。
「うん。いい感じ。でももう少し歌に伸びが欲しいかな。」
「はいっ!やってみますっ!!」
ボイストレーナーのアドバイスを参考に、すぐさま歌を歌い出した。
もっと上手く、もっと上手く、もっと上手く。
ズキッ
東京湾岸アリーナ。
迫る本番に向け、演出の人達と話し合いながら内容を詰めていく。
観客の人に喜んで貰うために。
星宮 かりんに向けられる期待に応える為に。
ズキッ
全てのアイドルとしての予定が終わり、密着取材のスタッフ達も撤収する。
帰宅すると、玄関まで母親が元気な声で出迎える。
「お帰りなさい、かりん。もうあと数日で東京湾岸アリーナね。どう?準備は順調?」
「うん…。大丈夫だよ。」
母親に心配をかけまいと笑顔で返事を返す。
母親は満足そうにうなずくと「まだお風呂が沸いてないから、先にご飯を食べちゃいなさい。」と、促した。
母親と居間に移動すると、父親が黙々とご飯を食べていた。
「ただいま……。」
「…………お帰り。」
父親は星宮に一瞥もくれずに挨拶を返す。
別にお父さんとの仲が悪いと言う訳じゃ無い。
元々お父さんは寡黙な性格で、お互い口数が少ないのもあって会話はこれが普通だった。
多分自分の性格もお父さんに似たのだと思う。
晩ご飯を食べようと机に座ろうとすると、机の下で父親が貧乏ゆすりをしているのが見えた。
東京湾岸アリーナが決まってから、ほぼ毎日の様に貧乏ゆすりをしてる…。
きっと口に出さないだけで私の事を心配しているんだ……。
すると、それを表すかのように星宮の父親が「……仕事は、忙しいのか?」「……コンサートは大丈夫か?」と、短い言葉で聞いてくる。
父親の言葉の端々から、娘を心配する気持ちが見え隠れしていた。
星宮は、自分と似た父親に苦笑をしながら質問に答えた。
ご飯やお風呂などを済ませた後、疲れた体を放り出すかのようにベットに倒れこむ。
ほぼ分刻みのスケジュール。そして人見知りの性格を殺してのキャラ作りの疲れが一気に体を襲う。
「………………………ッッ!!」
少女は、自身の体を抱き抱えるように丸めると、両親に聴こえないように声を押し殺してただ泣いた。
東京湾岸アリーナでのコンサートがもうすぐそこまで迫っていた。
本当はもう少し早く更新したかったのですが、諸事情で更新が送れました。
それと、皆さんに報告があります!
なんと皆さんが呼んでくれるおかげでユニーク数が300を超えました!!
ありがとうございます!!
是非これからも『能無し』をよろしくお願いします!!
ブクマ、コメント、高評価もお願いしまーす!!
 




