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能無しの『英雄体現』  作者: 神田 明
18/31

第十八話 星宮 かりん

「………ねっむ。」


 陽気な日差しと、東京湾から来る潮風が、髪を遊ばせながら吹き抜けていく。


 午前7:00

 彼方達は休日を利用して依頼会場の下見に来ていた。


 『異能戦闘科』に所属する生徒は、基本的に室内での警備依頼を受けると、建物の下見をする事になっていた。

 事前に建物の構造を把握して置く事によって、もし緊急の事態に(おちい)っても最善の行動をしやすくなるからである。


「……ったく。なんでこんな朝早くから下見しなきゃ行けないんだよ…。」


 休日なのに朝早く起こされた彼方は、不機嫌そうに不満を漏らしていた。


「しょうがないじゃ無い。先生の方から依頼人に下見をしても良いか聞いてもらったら、『朝の9時にはコンサートの準備を始めるからそれまでに終わらせてくれ』って言われたんだもの。」


「とりあえず会場全体を細かく見て回るなら、あまり時間も無いし早速行こう。」


 優に背中を押されるように、彼方はその重い足取りを歩ませた。





 東京湾岸アリーナ。

 数年前に東京湾の一部を埋め立てて、建てられたコンサート会場で、日本最大級の収容人数を誇っていた。

 この東京湾岸アリーナは、他のコンサート会場と違い様々な特徴があった。

 会場の形が、天井部分を切り取った球体状の建物で、ステージ側の壁が自動ドアのように開く事で、海や夕焼けも一緒に見られる仕様になっていた。



 彼方達は会場の下見をしながら当日の動きについて話していた。


「今回の警備依頼は、会場内で不審者がいないか確認したり、迷子の子供を保護したりやる事自体は結構あるわ。」


 アリスが、彼方や優に詳細な依頼内容について説明していた。


「まぁいつも通りの依頼だな。当日も今までと同じやり方で良いだろ?」


「そうなるだろうね。当日は基本的に支給されるインカムで連絡や指示を受けて行動する。もし爆弾なんかが仕掛けられてあったら、僕の異能『繋ぐ鉄腕』で解除する事で対処する。」


 優の異能『繋ぐ鉄腕』は、機械同士をリンクする事が可能で、プログラミングや指示、データを一斉送信させる事が可能。

 またその逆も然りで、リンクした機械から通信の傍受や、情報を入手する事が出来る。

 リンク自体は優が明確なイメージを持って指定すれば良いため、最悪実物を見なくても出来る。

 最大リンク数は5まで可能。


「特に当日の動きで不安そうな事は無いな。じゃあ残りの見てない所の確認終わったら帰るか。」


 彼方の考えに他の二人も同意すると、会場の下見を続けた。




 彼方達は会場内の下見を終えると、会場の周りを一度ぐるっと回ってから帰ることにした。


 東京湾岸海アリーナは、海が見えるよう設計しているせいか、入り口と比べて裏手側は一本道が会場を囲むようにして続くだけで、ベンチがいくつか置いてあるだけだった。

 一本道には人の気配は感じられず、海の音しか聞こえなかった。


「……静かだな。」


「誰もこの道を通らないからね。私は好きよ。こういう静けさ。」


「確かにこういうのって良いよね。海の音だけが聞こえて気持ちが落ち着く感じ。」


 三人が海の音を静かに聴きながら歩いていると、彼方が急に立ち止まった。


「ん?」


「アレ?どうしたの彼方?」


 急に立ち止まった彼方を不思議に思ったのか優が聞いてくる。


「なんか聴こえないか?」


「え?」


 彼方の言葉につられてアリスと優が注意深く周りの音を聴く。


「〜〜〜♪〜〜〜♪」


「……本当だ。(かす)かに聞こえる。」


「……これは。歌…かしら?」


 海の音に()()されていて聞こえなかったが、誰かが歌っていた。


「綺麗な歌声だな。」


 遠くからでも分かるほど綺麗な音色。歌声が耳朶(じだ)をくすぐるたびに不思議な気持ちになる。きっと()()れするとはこの事なのだろう。


 歌声は一本道のもう少し向こう側から聴こえてきており、歌声に()かれるかの様に彼方達は足を向けていた。


 少し歩くと、一人の女の子がベンチに座りながら歌っていた。


 走り込みでもしていたのか女の子は深めにかぶったキャップに、上下スポーツウェア。首にはタオルをかけていた。


 あの人が歌っていたのか……。


 彼方達が近づいていくと、女の子がこちらに気づいたのか歌を歌うのをやめてしまった。


 あぁ…。なんか悪い事したな……。


 せっかく一人で気持ちよく歌っていたのに邪魔をしてしまった事に少しだけ罪悪感を覚えながらも、彼方達は何事もなかったかの様に女の子の横を通り過ぎようとした。


 女の子は(うつむ)きながらも覗く様にして、彼方達が通り過ぎるのを待っていると、その中に見知った顔がいる事に気がついた。


「………!」


 女の子は話しかけるかどうか一瞬迷ったが、なけなしの勇気を振り絞って立ち上がって声をかけた。


「あっ、あのぉ!!」


 盛大に声が裏返った。


 急に声をかけられた事に驚いた彼方達は目を丸くしながら女の子の方を見る。


「ぁ、…ぁぅ…あっ……。」


 声が裏返った事で焦っているのか、思うように言葉が出せていない。


 見かねたアリスが女の子に助け舟を出す。


「どうしましたか?何か私たちに用ですか?」


 アリスが地母神の様な笑顔を女の子に向ける。


 なんだこのアリスの笑顔……。俺こんな表情された事ないぞ。


 いつも冷やかな目で見られている彼方は、アリスの表情の変わり様に内心驚く。


 女の子はモジモジとしながら深く被っていたキャップを取る。


「あ。」


 キャップを取ってあらわになった女の子の顔を、彼方は知っていた。


 それは一週間近く前に、ナンパをされていて困っていた女の子だった。


「あー!もしかしてあの時の!?」


「はい……。あの時は…お世話になりました…。」


 相変わらず小さい声で喋る少女に、思わず苦笑いをしてしまう。


「か、彼方……。もしかしてこの人知ってるの?」


 優が何故か小声で聞いてきた。

 やめろ離れろ。男に耳元で(ささや)かれる趣味なんてねぇぞ。


「おう。この前ナンパされてる所を助けたんだよ。」


 なっ?と目線で聞く様に少女の方を見ると、小さくコクリとうなずいた。


「彼方……。この()、星宮 かりんだよ……。」


 ………………………………………え?


 星宮 かりん。それは、ここ東京湾岸アリーナでコンサート予定の国民的アイドルだった。

本当はもっと書きたかったんですけど長くなりそうだったので、書き切れなかった分は次回に回そうかと思います。

いつも長い後書きを書いているのですが、今日は特に書く事もないので、謝辞を。

いつも読んでくださりありがとうございます!!

ブクマ、コメント、出来れば高評価お願いします!!

それではまた次回〜。

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