第十四話 『英雄体現』
「まだ……俺は立ってるぜ?」
「ッッ!!本当に厄介だよッ君は!!」
彼方の笑みに不快感を示す蔵智。
「あまり調子に乗るなよ……。先程は、まぐれで当たったにすぎん。」
彼方のカウンターで吹き飛ばされたネメシスは何事もなかったかの様に上体を起こした。
「殺れ。ネメシス。」
蔵智の命令を遂行する為、冷徹な殺戮人形は、命を刈り取らんと彼方に襲い掛かる。
ネメシスは彼方の首をヘシ折らんと、その凶手を伸ばす。
「フッッッ!!」
ガンッッ!!とネメシスの手を弾き返すと、胸板に掌底を叩き込む。
「なにっ!?」
またしても当たる攻撃に驚愕する蔵智。
掌底でバランスの崩れたネメシスに追撃をかけんと、彼方は蹴りを繰り出した。
しかしこれはネメシスにガードされ、クリーンヒットとはならなかった。
またアイツの攻撃がネメシスに当たっただと……?さっきのカウンターは偶然では無いと言うのか?
いや……私のMeiの未来予知は絶対だ。
ネメシスが負ける事は有り得ん。
蔵智の絶対的な勝利の確信に変わりはなく、また戦闘を傍観し始めた。
ネメシスが左フックを繰り出すと、彼方は攻撃を受け止め、そのままネメシスの腕を捻り上げた。
ネメシスは彼方から距離を取ろうと膝蹴りをしようとするも、彼方がお返しとばかりにネメシスの胴体に左フックを叩き込む。
殴られた衝撃で地べたに倒れるネメシスは、すぐさま立ち上がろうと身を起こすも、その隙を逃す彼方では無かった。
ネメシスの顎部分に強烈な蹴り上げをお見舞いする。
先程とは打って変わって、一方的に彼方に押される展開に、蔵智は愕然としていた。
「何故…ネメシスの攻撃が当たらない……ッ!」
予想だにしない展開に、蔵智は努めて冷静に情報の分析をし始めた。
アイツは、火や水なんかを出して攻撃をせずに徒手空拳で戦っている点を見ても十中八九、身体強化系。
つまり……………。
「身体能力が現在進行形で上昇し続けているのか……っ!?」
だが、その結論に至るとすぐさま頭を振った。
いや、それは無い。脳のリミッターがある以上、出力を上げるにも限界がある。
そんな漫画の様なご都合主義はあり得ない。
だが、現にMeiの超超高速演算の予測を上回る身体能力を発揮しているのは事実。
ならば、
「Meiッッ!!奴の身体能力上昇率を再計算の後、情報修正ッ!計算は少しオーバー気味にして構わんッ!やれッッ!!」
「承認。対象の身体能力を再計算。
ーー計算完了。情報修正実行。完了しました。」
「よしっ!これで!!」
情報修正を完了したネメシスは、彼方に再び襲い掛かる。
もう、彼方の攻撃はネメシスに当たる事はなく、Meiの未来予知は完璧となり、またネメシスの一方的な展開になる。
ゴンッッッッッッッッ!!
ーーーそのはずだった。
ネメシスが思い切り床に叩きつけられ、鈍い音が鳴り響く。
「………………………………………………嘘だ。」
呆然とした声で蔵智が小さく呟く。
「………………嘘だ。嘘だ!嘘だ!!嘘だァッ!!!」
ぎこちない動きをしながら再び立ち上がろうとするネメシスを見ながら蔵智は絶叫していた。
「こんな事はあり得ないッ!!
Meiの超超高速演算に間違いは無いんだぞッ!!
Meiの未来予知は絶対なんだッッ!!
私の『芽依』はッ!!人類を超えた存在なんだぞッッ!!」
ガンッ!ガンッ!と、拳を人工知能の本体である大型の機械に打ち付ける。
「なのに何故だッッ!!何故!このガキがMeiの超超高速演算の予測を上回れるのだッッ!!」
先程までの優位から来る余裕の笑みは消え失せ、半ばヒステリック気味に叫ぶ。
「……教えてあげましょうか?」
「なにッッ!?」
突然聞こえた声のする方を見ると、入り口の所に一人の可憐な少女が立っていた。
端正な顔立ちに、さらさらとしたロングヘアの銀髪は、一目見るだけでその少女から目が離せなくなるほど美しかった。
「あ……。」
視界が赤く染まっていて見えづらいが、恵は確かにその少女の事を認識できた。
「アリスさん……ッ!」
「待たせてしまってごめんなさい。恵さん。助けに来たわよ。」
恵に優しく微笑むアリスの体は所々にかすり傷がついており、アリスもまた激しい戦いの後だったという事が分かった。
「………貴様は知っているのか?このガキが私のMeiの予測を上回る理由を。」
先程アリスが口にした言葉について聞き返す蔵智。
「………えぇ。知ってるわ。」
アリスが蔵智を見据えながら、質問に答えた。
「貴方のMeiとやらの予測を、彼方が上回れる理由。
それは、彼方の異能ーー『英雄体現』によるものよ。」
「『英雄体現』……だと?」
「彼方の『英雄体現』の能力は、発動する為にある条件を満たさなければ発動しない。
その条件とは『人に助けを乞われる事』。」
「人に助けを乞われる………。」
恵はアリスの言葉を反復しながら、初めて彼方と会った時のことを思い出していた。
じゃあ初めて会った時に、『助けてほしい?』って聞いて来たのは確認なんかじゃなくて、能力を発動させる為の条件だったんだ…!
「この能力は『助けを乞われた人の思いの強さ』に比例して身体能力の強化率が高くなる。
つまり、恵が『助けて欲しい』と願う想いが強ければ強いほど、彼方は強くなる。」
「……だがっ!人間の生存本能がかけるリミッターがある限り、異能の出力には限界があるはずだッッ!!」
そう。そこが問題なのだ。
いつになっても訪れない能力の限界値。
いま現在でさえも、Meiは再計算と情報修正を繰り返している。なのに、彼方はその予測を上回る。上回り続ける。
「何故ヤツには限界が訪れない!!もう出力の限界が来てもおかしく無いはずなのに!!」
「ここから先の説明は、彼方が前に話していた『推論』なのだけれど、身体強化系の異能力者はある一定のラインを超えた強化率を出すと、脳のリミッターを『外しやすく』なるらしいの。」
「なっ!!?嘘だ!異能力者が脳のリミッターを意図的に外して、出力を上げる事が出来る事例なんて今まで聞いた事が無い!!」
「当たり前でしょ。奥の手をわざわざ言いふらす阿保がいるわけないじゃ無い。
まぁでもよく考えてみたら当然よね。
訓練次第で脳のリミッターを外す事が出来る人もいるらしいし、身体の能力値を自在に上げる事の出来る人間が出来ない道理は無いわ。
そして当然、彼方もリミッターを外す事が出来る。
彼方はリミッターを外す事を、こう名付けたわ。
『解放』、と。」
「ッッ!!」
蔵智は確かに『解放』と言う言葉を聞いていた。
それは彼方が量産型の機械人形に頭を撃ち抜かれそうになっていた時の事だった。
『解放』と聞いた時は、よく意味が分からなかったがあれはリミッターを外していたのか……!
ならば、さっきの説明が本当だったとしたら納得出来る事がある。私があのガキに頭の装置について説明した時やけに理解が早かったのは、頭の回転が早いという訳では無くて元々知っていたのか!!
「諦めなさい。」
アリスの口から冷たい口調で言い放たれる。それはまさに最終勧告だった。
「貴方じゃ彼方には勝てない。」
「〜〜〜ッッ!!っふざけるなぁッッ!!私が何年この計画に時間を費やしたと思っているんだっ!!22年だぞっ!!
この計画は人類の為なんだっ!!異能犯罪に苦しむ人々の為にもッ!私の様な被害者をこれ以上生まない為にもッッ!!
私はこの計画を成就しなければならないのだッッ!!」
蔵智の狂気を孕んだ思想を真正面から受け止めたアリスは、毅然とした態度で見つめ返した。
「………貴方の様に苦しむ人を出さないと言う思想は素晴らしいと思うわ。
ただ……。方法は褒められたものでは無いわね。」
「…………ッッ!!」
堪らず彼方の方に向き直ると、ネメシスはほとんど壊れかけで、今にも機能停止をしそうだった
「………ッッ!っお前のせいで計画は滅茶苦茶だッ!!なんなんだ貴様はッ!
お前は一体なんなんだッッ!!」
ネメシスにトドメを刺さんと、体を限界まで捻り、右手を振りかぶる。
「俺は恵の………ッッ!!」
ッパッッゴォンッッッッッッッッッッッッ!!!
彼方の渾身の右ストレートはネメシスを吹き飛ばし、後方にいた蔵智をも巻き込んで人工知能Mei本体の機械に激突した。
ネメシスは完全に機能停止し、蔵智も気を失っていた。
「英雄だ……!!」
やっと来ました主人公のキャラ紹介!!
夏目 彼方 17歳 男性
主人公の能力は身体強化系
能力 『英雄体現』
1. この能力は人に助けを乞われないと発動されない。
2. この能力は助けを乞われた人の思いの強さに比例して身体能力の強化率が高くなる。
3. この能力は自身がピンチの時だと発動しない。(つまり自分自身に助けを求める事は出来ない。)
4. この能力の付属効果で脳の情報処理能力を自身の意思で上げることも可能。主人公は《解放》(リベレイション)と言う。
性格
基本的に変態。あんまりリアクションは薄いタイプ。誰かを助ける時は別人のように変わる。能力の発動条件が厳しすぎるため能力を使う機会が無く『能無し』と皮肉を込めて言われている。格好は制服にパーカーを合わせている。
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やっと物語もひと段落しました。まだまだ書きたい事はいっぱいあるんですけど一章書き切るのに時間めちゃくちゃかかりました。僕の執筆スピードが上がれば毎日投稿出来るのですが、いかんせん遅筆でございまして。
次回で一章最終回となります!!
飽きずにここまで読んでくださった皆皆様方には感謝です!!
これからも頑張りますよ!!
ブクマ、コメントも励みになりますので是非そちらも!!
それではまた次回!!




