第一話 狙われた少女
「ハッハッハァッハッ」
一人の少女が息を切らしながら路地裏を全力疾走していた。
『ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!』
足を止めることなく後ろを確認すると、2人組の男が少女を追いかけていた。
『なんで…なんでこんな事に……。』
1時間前ー。
「だいぶ東京にも慣れて来た。もー駅とか複雑すぎ……。東京に憧れて上京したての頃は大変だったなぁ…。」
少女は上京したての頃を思い出してしみじみとする。
上京をきっかけに一人暮らしを始めるも、環境の変化や毎日家事をこなさなければいけない日々は想像していたよりも大変で、最初の頃はよく愚痴をこぼしていた。
思い出に浸っていたその時、目の前のビルに備え付けられてある街頭モニターから気になるニュースが聞こえてきて、少女は足を止めた。
『昨夜未明。【協会】のデータベースに何者かが侵入したと見られ、現在警察が犯人の行方を捜索しています。』
映像では協会のお偉い様方が今回の事件に対して記者会見をしており、少女はそれを観ながらまた歩き始めた。
「何者かが侵入ねぇ。私も【異能】持ちだけど、どうせ一般学生の私には関係ないか…。」
【異能】
それは人智を超えた特殊能力。生まれ持ちにして能力は現れ、多種多様な能力が確認されている。全ての人が異能力者というわけでは無く非能力者も存在している。
そして協会とは異能力者を管理する組織を指している。今回の事件ではデータベースに侵入された際、個人情報も流出したと言う。
少女は自分にも関係する事柄のニュースを聴いていても胸中は他人事のように感じていた。
しかしこの事件がのちに自分を巻き込んでいると気づくのにそう時間はかからなかった。
少女は帰路についている間に今晩のご飯について考えを巡らせていた。
今日の晩ご飯どうしようかなぁ…。昨日はお肉食べたから、お魚でも買って焼こうかなぁ……?
うんうんと唸りながらスーパーに向かっていると急に後ろからトントンっと肩を叩かれる。
突然の事に肩が跳ねる。心臓の鼓動は、まるでエイトビートでも刻んでいるのかと錯覚するほど早まり、大きな音を立てていた。
少女が後ろを振り向くと、黒のグラサンに黒のスーツを来た大柄の男が二人立っていた。
えっ…。誰この人たち……。
少女は戸惑いながらも「な…なんでしょうか?」と男たちに尋ねた。
「君は野中 恵さん…かな?」
背筋に悪寒が走る。
なんで…なんでこの人達私の名前を知ってるの……?
それにこの人の声見た目に反して若く無い…?
目の前の男は確かに見た目は20代なのに聞こえて来た声はどこか4 , 50代の男性の声に聴こえる。
「君には少し私について来てもらいたい。」
そう言うや否や男は恵の腕を掴んできた。
ヤバイ……ッ!これはヤバイッッ!!
「離してください!!」
恵は掴まれた腕を懸命に振り解こうとするが一向に解ける気配は無い。
「くっ…こんのっ!!」
恵は振り解けないと察するとあえて男に向かって体当たりをした。すると男は姿勢を崩し、その拍子に掴まれていた手が離れる。
すると恵は持っていたスクールバックをその場に捨てて全速力で逃げ出した。
「………。」
男はそのまま起き上がると、恵の後を追いかけて行った。
なんでっ…なんでっ!?私の腕掴んで来たッ!!もし私あのままだったら拉致されてた……ッ!?
恵は男達を振り切るために路地裏に入っていた。
恵は後ろを振り向くと、男は執拗に恵を追いかけ続けていた。
しかしここで違和感に気づく。
「あぁ!っもう!!しつっこい!!」
恵は長いストレートの黒髪を振り乱しながらも、必死に男の追求から逃れる。
恵は男から視線を切るために曲がり角を曲がる。しかし、この直後に恵の体は一瞬固まってしまう。
曲がり角を曲がった先に、もう一人の男が待ち伏せしていたのだ。
もう一人の男が丸太のように太い両腕を伸ばしながら、恵を捕まえようと飛びかかってくる。
恵は咄嗟に姿勢を低くして、男の脇を潜り抜ける。
「あぶな….…っ!!」
ダメだ…。路地裏だと死角が多すぎてさっきみたいに待ち伏せされると今度は避け切れない……!ここはひとまず人がいる大通りに出ないと…!
脳内マップに従い恵は大通りに向う。
なんとか男達の追跡から辛くも逃れ続ける事ができ、大通りの目の前にやってくる事が出来た。
やった大通りに出れる!
そして大通りに出た瞬間、人にぶつかった。
「キャッ!!」
「ウォッ!?」
「ご…ごめんなさい!!」
恵はぶつかった少年に謝ると、また走り出した。
「……なんだアイツ。ウオォ!?」
ドンドン!!
恵とぶつかった少年は更に男達にぶつかられ、こけそうになる。少年は走り去っていく男達を睨みながら悪態をつく。
「んだよアイツら……。人にぶつかっておいて謝りもしないのかよ……。ったく気分悪いなぁ…。」
そして三人の消えた方向を見つめていた少年はふとある考えに至る。
「…もしかしてさっきの女の子追いかけられてたのか……?」
「ハッハッハッハッハァッハッハッ…!」
『もうダメ走れない…。このままじゃ追いつかれちゃう……。』
恵の予感は的中し、恵はすぐに男達に捕まった。
「ハァハァ…。はな…ハァ……してっ!」
しかしそんな事を聞いてくれる相手でも無く、そのまま何処かに連れて行こうとする。
「誰か…助けて……!」
恵は思わず誰かに助けを求めるが当然届くはずも無く…。
「おいおいアンタら。欲求不満なのは分かるけど女の子を無理矢理捕まえて連れ去ろうとするのは流石に事案でしょ?」
恵は突如聞こえた声の主を確認する。するとそれは先程恵がぶつかった少年だった。
なんでここにいるのかと疑問に思っていると、少年が恵に問いかけた。
「ねぇ君。『助けてほしい』?」
そんなの決まっている。
「お願い!私を助けて!!」
「任しとけ。」
少年はそう言うや否や男たちに向けて手をクイクイッと挑発する様な仕草をした。
「来いよ。悪いオニーサン達にお仕置きしてやる。」
能無しの『英雄体現』の一話はどうでしたか?
もし面白いと感じてくれたり、続きが気になると感じてくれたらブックマーク登録等をよろしくお願いいたします!!