スライムが強い、だと?
我らは今、港町シーシーレに向かって歩いている最中である。
「ピピィ(ねぇゼリーちゃんの故郷の村はどんなところなのですか? スライムでありながらあの強さ、とても気になります)」
確かに我も気になっていた。スライムとは普通、武器を軽く溶かしたりなど地味に痛い攻撃をする種族の筈。それが何故「ファイアボール!」などと火属性の魔法スキルを使いこなすのだ!
『ふっふーん! よくぞ聞いてくれた。我らアラモード族の村は鳥を狩って生活している。勿論、その為には訓練も怠らない。プリン式訓練法と呼ばれる村に伝わる訓練をすることで我らは高い戦闘能力を持つのだ。』
なんだそのバーサーカー村は。主の村も想像するにかなりヤバイ所だということは分かっているが、それ以上では……?
『まぁ、それもこれも全部ボクたちの先祖で尊いお方、マザー・プリン・ア・ラモード様のお陰なんだけどね。マザー・ラモード様は人間に擬態したり、癒やし手として活躍したという伝説があって……』
ここからはゼリーが尊いお方があーだこーだ話しているだけの時間が続く。というか、人間に擬態って絶対作り話だな。あり得ない。
『……だから村のスライムはみんなファイアボールが使えるんだよ』
「ピッピぃ!?(村の全員が魔法を? 汗がキラキラ情熱色、青春の風、熱い練習、フレンd……)」
また始まった。毎度毎度聞かされるこっちの身にもなってくれ。
「おっ、君もサモナー? 目と目があったらバトルだよね!」
主より少し年上に見える男がバトルを仕掛けてきた。
さて、主は誰を戦わせるのだ?
「よし、ゼリー行け!」
『ボクの出番だね。並の攻撃じゃボクの前には無力だって証明してあげる』
相手はホーンラビット。すばしっこく、攻撃が高いのが特徴だが、耐久が紙切れ程度の雑魚だ。我ならブレスだけで抹消できるだろう。
「ホーンラビット、ドリル!」
ホーンラビットはゼリーに攻撃を仕掛けてきた。
『ふふっ、絶望を味あわせてあげる。ポイズン!』
ゼリーはホーンラビットに毒を盛った。ま、まさか。
「マズい早く倒すぞ、ドリル!」
男は焦ったように指示を出す。
『これでお相手さん、絶望じゃない? ヒーリング!』
ゼリーに付いたただでさえ小さかった傷はみるみるうちに癒えていく。
「ホーンラビットおおおぉぉぉぉぉっ!」
ホーンラビットは地面に倒れ込む。
ゼリーは毒だけでホーンラビットを完封してしまった。勝ったのになぜだか無性に謝りたくなるのだがなぜだろうか。
「負けた。毒でハメてくるとはなんと恐ろしいスライムなんだ。はい、賞金だよ」
主は今回もきっと受け取らないんだろう。というか今回のバトルは酷すぎた。
「ありがとうございます! バトルありがとうございました」
……えっ? 貰うの?
「いやぁ良かった。貯金が尽きそうで危うかったんだよねぇ」
「ガウガウ!(どういうことだ主!)」
「えーっと、5000ウェンか。明日は本格的にバトルしなくちゃなぁ。お母さんの言いつけ通り、女の子からはお金は取らないようにしないと……」
なんだその理由は。見損なったぞ主!
「ピピッ(面白いですね)」
『我が力を持ってすれば、当然の結果! 明日も殺るぞ!』
このままではマズい。バトルの相手に悪い。
「ガウガウ!(明日は我が戦う。いいだろう?)」
最後まで文句を言っていたゼリーをなんとか説得して、明日は我が戦うという話で纏まった。主が選ぶ前にこっちから戦いを挑めば、ゼリーの地獄絵図を見なくて済む。
「おっ、ラーソンだ。寄っていこうか」
「ガオッ?(ラーソンとは何だ?)」
「ピピッピピィ(色んな物が売っているお店です。2階に格安で宿泊できる部屋があったり、召喚獣を回復させるサービスもしていたりするんですよ)」
そうなのか。我が眠りに就く前はそんなもの無かったが、世の中は変わるものだな。
『ボク、ラーソンのバトルスタジアムで殺ってこよーっと』
「ガウ(させねぇよ)」
我はゼリーを掴み、ラーソンへと入店した。
「いらっしゃいませ! 召喚獣の回復は一匹5000ウェンですよ」
お金を取るのか。まぁ、商売なのだから仕方がないのだが、それにしても高くはないか?
「ただいまフライドチキンが揚げたてです! 500ウェンです、いかがですか」
フライドチキンまで売っているのか! 本当に何でも屋と言った感じだな。
『鶏肉! タベタイタベタイタベタイ!』
掴んでいたゼリーが暴れ始めたので、更にキツくゼリーを締める。
「ピピィ!(ゼリーちゃんだけクロくんにハグされてズルいです! 私の情熱ハートも受け取って、スイートスイート・ソー・スイート!)」
我が主はよくわからない。そしてスライムも、鳥が好きなこと以外は。