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この我が役に立たない、だと?

「私はサキュバス。人間の精気を吸い取る魔物よ。この男の子、私の好みだったから攫ってやろうと思っていたのに。こうなったら。そこの妖精、私と勝負よ!」


 ということで、サキュバスと勝負をすることになった我ら。ララがやけに張り切っちゃっているのだが、大丈夫だろうか。

 サキュバスというのは、男の精気を奪う悪魔なのだが本当に恐ろしいのはそこではない。


魅了(チャーム)! そこのドラゴンちゃんも私にメロメロよね」


 クッ! 敵だとわかっているのに目を奪われてしまう。我はこの状態では戦えない。


「ピピィピ! ♪ピーピピピピーィピピピ……(よくもっ! ♪クローくんとコウユウくんをー傷つけたヤツは八つ裂きやぁ……)」


 なんて恐ろしいスキルなんだ。我に掛かっていた強力な幻惑を歌で解くだと。

 だが、本当の悪夢はここから始まる。


「あら? いい歌じゃないの。でも私のこのスキルは防げないんじゃない? ドレイン!」


 ララは急に弱り、地面へと落ちてきてしまった。


「ピッピィ……(クッ、魔力がぁ……)」


「ッフ。この程度の妖精、私の手にかかればチョロいわ。さぁ、もう一度幻惑スキルをかけ直さないと」


 サキュバスが再び我と主に幻惑しようとしたその時だった。


『ファイアボール!』


 横からサキュバス目掛けて炎が高速で飛び、先程まで確かに存在していたはずのサキュバスを消し飛ばす。こんなこと出来る魔物なんてそうそう居るものではない。よっぽど強い種族なのだろう……ってえ?


「ピピィ!?」 「ガオガ!?」


『フッフッフ。ボクは千年前にこの世界を改変した賢者様と共に歩んだスライムの末裔アラモード族サイコーのスライム。どう? 驚いたでしょ』


 ……。

 何コイツ。絶対近づかないほうが良い奴ではないか。触らぬ神になんとやら、だ。


『待って待って引かないでよ! ボク、お腹が空いてて……。村から見え張って旅立ってきたものの食べるものもロクになくてぇ。お願い、ボクを仲間にしてよ! ボクが居ればヒーラーには困らないよ? あとタンクも。なんてったって最硬(サイコー)のスライムなんだから』


「ガオガオ(駄目です)」


 我ははっきり言った。こんな訳の分からないヤツ仲間にするのも恐ろしい。ララの相手で手一杯なのに、これ以上は流石に無理だ。


「ピピィ!(いいじゃないですか。私たちの命の恩人ですし、危うくクロくんも大人の階段を登ってしまうところだったのですよ!)」


 それもそうだな……って今何か恐ろしいことを口走っていたような。

 ララの言葉を聞いたスライムはニィっと笑って主の方へ向かった。主の前でぴょんぴょんと跳ねるスライム。だが我が主はそんなことで心を許すような軽いやつでは……。


「おっ、黄色いスライムかぁ。一緒に旅をしないか? サモンジュエル! 契約(アグリーメント)!」


 スライムの周りに輝く光が。契約成立だ。


『よろしくね、クロ兄』


 く、クロ兄だと? ララといい、このスライムといい、何故我はこの姿にされてからこんな目に合わなければならないんだ!


「黄色くてぷるぷるしてるから……『ゼリー』だ! よろしくな、ゼリー」


『うん! よろしくね』


 ゼリーは嬉しそうに体をぷるぷるさせていた。


「っていうかオレ、風呂で何やってんだ! 明日も早いし早く寝ないとな」


 そうして我らは脱衣所に戻った。


 ガサッ! ガタン、ガンッ!


 何か物音が聞こえたのは気のせいだろう。


「どうじゃったかのぅ、うちの温泉は」


 宿の爺さんだ。散々な目に合わされた、とは主が言うはずもなく。


「すごく良かったですよ。あ、オレたち明日水使いのいるシーシーレに行くんです。でも、どんな場所かわからなくて……」


「あぁ、シーシーレはいいモンがたくさんあるよ。港町だから新鮮な魚も食べられる。あとは水族館とか、シーシーレ海浜公園なんかはどうかね」


 へぇ、主が次に目指す街は港町なのか。我が一番言ってみたいのは水族館、一体どんなものなのだろうか。


「ピッピピィヤッ……!(水族館、海浜公園……ラブがバーニングするスポット。クロくんと……)」


 水族館とは、そのような……如何わしい場所なのか……! 絶対に行くものか。我は心に誓った。


『えぇ魚ぁ……ボク鶏肉がいいんだけど』


「ガゥオ!(我儘なスライムだな。少しはララを見習え)」


「ピピィ(いえ、私はクロくんと共に長く続くヴァージンロードを歩めればいいので)」


 前言撤回。こっちの方が質が悪かった。


 我らは夕飯を食べて今日泊まる部屋に入った。因みに夕飯はポッポという鳥モンスターを使った料理。ポッポの里というだけはある。

 ゼリーは『鳥だーっ! よっしゃぁあーっ』などと発狂していたのだが、そこはガン無視する方針で行くことにした。


 布団で眠りにつく前、主は我らに語りかけてきた。


「……オレさ、何の考えなしに風習だからって村を出てきて、やっていけるか不安だったんだ。でも気がついたらこんなに頼れる仲間がいて。本当にありがとうな」


 ゼリーはもう呑気に寝てしまっていた。


「……ピィ(コウユウくんって本当にイケメンですね)」


「ガオ(我が主なだけはあるな)」


「ピピィピ(でも、私はクロくんの方が好きですけどね、それは誤解しないでくださいね)」


 むしろ、誤解であって欲しいのだが。

 我が主は温かい心の持ち主だった。……さてこの妖精はどうするべきか。

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