この我が契約、だと?
今日は5話投稿の予定です。
我が名はダークライトニングドラゴン。伝説のドラゴンの一体で黒雷を操りし者だ。
今から1000年前の戦いで力を使い果たし、永い眠りについていた。
……はずなのだが。
「わぁ、可愛い黒いドラゴンだぁ! オレ、アキド村のコウユウ。オレ、寝坊して村長のアキドさんから旅立つときにくれるドラゴン貰えなくてさ。お前、オレと一緒に旅をしてくれないか?」
なんだこの少年。1000年の眠りについていた我を起こしてしまうとは。そもそも我が可愛いドラゴンだと?
我は眠っていた洞窟の水たまりを見る。
「ガオガオギャオッ!(なんだこの姿は!)」
おかしい。おかしいぞ、我。外見だけでなく、会話まで出来なくなっておる。ま、まさか! まさかあの戦いで力を使い果たして、退化したのか!?
「そうか、そうか。一緒に冒険したいよなぁ! オレの夢はグランドサモナーになることなんだ。一緒に最強目指そう!」
な、何故か一緒に冒険することになってるし! そもそも我は最強のドラゴンのうち一体。目指すなど……。待てよ。この少年と共に旅をすれば、我を打ち倒したあの忌まわしきライトバーニングドラゴンを見つけ出すことが出来るのではないか? 丁度いい。あいつは一発殴らないと気が済まねぇ。
「ガオギャッギャオ!(少年よ、協力してやろう)」
少年はバッグから宝玉を取り出した。確かあれは。
「サモンジュエル! 契約っ!」
これはサモンジュエル。魔物や我のようなドラゴンと契約するのに使われる物だ。
昔は何人もの人間が契約を迫りに来たが、全部追い返してやったものだ。その我が今、少年と契約している。
「よし、これからよろしくなクロ!」
少年と我の間に金色の輝きが一瞬光る。これは契約完了の証だ。
く、クロだと? このダークライトニングドラゴンの我が? ネーミングがペットか。
まぁ良い。問題は、こいつが我と平然と契約を結べることだ。契約は強い種族ほど難易度が上がる。力が弱まったとて、我は伝説のドラゴン。高位のサモナーでも困難を極める契約をこうも容易く……。
「ガウッ、ガオガオ!(お主、見どころがありそうだな)」
「嬉しいか! オレらはこれから港町モナミに行くんだ。そこには水魔法の達人がいるんだってさ。よし、先に行ったショウには負けられないぞ!」
ほう、水魔法の達人と。フッ、勝ったな。
我を誰だと思っている! 黒雷を操りしドラゴンであるぞ。相性的にも負ける筈がない。
「あぁ、そこにいるのは優秀なボクとは違って、寝坊した村の恥晒しのコ、ウ、ユ、ウくーんじゃないか! 丁度いい、バトルをしようか……おっとごめん、ドラゴンを貰っていなかったんだっけ」
少年の後ろから現れたのはムカつく野郎だった。我の見込んだヤツに喧嘩を売るとは……! 泣いて後悔しても遅いぞ。
「なんだよショウ、オレだってドラゴンと契約したし! こいつはクロ。オレの初めてのパートナーだ。そのバトル、受けてたとうじゃないか!」
そのバトルへの執着、良いぞ。我の見込み通りだ。
「クロ行け! 取り敢えず一番強い攻撃やっちゃって!」
一番強い攻撃、それはあの戦いでも使用した『稲妻11』のことか。11発の雷を御見舞する必殺技だな。よし、行くぞ。
「ガオーッ!(稲妻11)」
しかし何も起こらなかった。
はっ。退化したことで発動に必要なMPが足りないのか! なんということだ。
「フッ、その程度の雑魚か。この先の森でピクシー共を倒した成果を見せろ。フレイドラ、ファイアボールだ!」
フレイドラの口から炎の玉が飛び出る。あれくらい避けられる。
か、軽い! 身体が小さくなったおかげで小回りが効くぞ。昔じゃこれくらい当たる前に消せたがな。
「なん……だと?」
次は必要MPが少ないあれで行こう。
「ガオッ、ガブッ!(雷牙)」
我はフレイドラに噛み付いた。
このスキルは、牙に電気を纏わせ、噛み付くという名前のまんまのスキルだ。偶に相手が麻痺したりする、そこそこ優秀なスキルだ。ほれ、もうフレイドラは麻痺して動けない。
我はそれを見計らって、何度も噛み付く。
「ボクの……負けだ。なんだよこの雑魚が! もっとボクの為に戦え、ボクに恥をかかせるな!」
ショウはそう言って傷ついたフレイドラに追い打ちをかけるように攻め立て、殴りつけていた。
許せん。我がぶっ殺して……。
「ショウ、お前なんてことをするんだ! オレらと同じ、命あるものにそんなの……あんまりじゃないか!」
お主、流石じゃ。我が言いたかったことを代わりに言ってくれるではないか。
「は? 何言ってんの? 召喚獣は奴隷だ。ボクの為に働かないならこうするまでだろ? だって奴隷なんだから」
「お前っ!」
少年は手を上げた。頬を叩くバシンッという音が洞窟に木霊する。
ショウは「フッ」と鼻で笑って、洞窟を後にした。フレイドラは潤んだ瞳でこちらを少し見た後、ショウに連れられて行ってしまった。
「うわぁぁぁん! オレ、人を……この手で殴ったんだ。こんなのアイツのやってたことと同じじゃないか! ごめんな、ごめんな……」
我が主は泣き虫だった。そして、誰よりも他人を思うことができる男だった。