おまけ3.御影と男と古月と東堂とある一日の修羅場~そもそもぼくの日常が根本的に間違っている気がする~
「あああ……何処かにいい男でも転がってないかしら?」
「ユニちゃん。そんな人がいたら、たぶん死体か変態だよ。普通、転がらないと思う」
一般人の日常。ぼくは、帰り際に古月さんと東堂さんが廊下で話をしているのを耳にした。古月さんが恋愛に興味があっただなんて、意外だ。失礼だとは思いつつ、近くにある教室のドアに隠れて立ち聞きをしていた。
「……結局、お金とかなの? どういう対象でユニちゃんは見てんの?」
「イケメンに限る。それだけ」
「へえ……てっきり……」
東堂さん。「てっきり」って何ですか。ぼくのクラスにいい男なんて、いませんよ(独断と偏見)。
彼女は人差し指を古月さんに出して、話を急かした。
「で……どんなタイプの子がいいの」
「えっと。あれ。テレビに出演してる。そうそう古月ITのCMをやってくれてる俳優かしら」
古月さんは答えを出してはいるのだが、自分のいる教室をチラチラと見ている。ポニーテールを揺らして、何だか落ち着かない様子だ。まさか、ぼくが立ち聞きしていることを知られたのでは!? そんな訳はないか。
「あっ。けど、実はね」
その言葉に胸がいきなり走った。どのくらい突然かと言うと、発明家が発明に大切なものを気づくくらいだ。実は……一体、なんなのだ。
それを知らない限り今日は睡眠をとるどころか、風呂に入る事すらままならないだろう。大昔の話だが初恋をしたとき、その子のことしか考えていなかったために湯の深さを確かめず、本気で溺れかけたからな。
そんな愚かな話を考えていると、後ろからぼくに耳栓を入れてくる男がいた。影が薄いから、気づかれないと思ってたのに。
「人のクラスに入って、不審者っぽく何やってんだ? 御影」
「耳栓外せ! 聞こえないじゃないか!」
「ひっひっひー。やだよー!」
猿みたいに笑う男のせいで、古月さんたちの会話を聞き逃してしまった。この野郎。幾ら、中学校からの友人だとしても許さねえぞ。
「乙女の話を立ち聞きするもんじゃねえだろ」
「それはお前が単純に恋というものに、興味がないからだろ?」
「え?」
ぼくの口に石鹸が塗ってあるようだから、次からは滑り止めをつけておこう。自分のあほらしさにはつくづく痛感している。
これでは、ぼくが恋に興味があるみたいに思われてしまうではないか。
「……えっと、違う。彼女たちは同じボランティア部だから、ぼくが勘違いすることがあったら。困るじゃん。だから……だよ」
「へえ。勘違いの恋の連立方程式か」
「だから、違うって言ってるだろ……何そのカッコいい恋愛漫画のタイトルみたいなやつは」
「まあ、いい。お前がリア充だというのは良く分かった。今度、活動があったら臨時としてオレも行ってやる。そして、ハーレムルート目指してレッツゴーだ! ちゃんと、全員女子を誘って来いよ!」
彼が後ろに何か持っている。横目で確認してみると、それが部活の名簿だということが分かった。こいつ……学年全部の女子がどの部活に入っているのか、調べていたんだ。
この女たらしの行動力には、中学の時から驚かされるばかりだ。知らない人へ普通にナンパするし、男としてどうかしている。友人としても縁を切りたいと思った。
「やだなあ。このリアル充実野郎。裏切ったら、お前の首を裂くからな」
「ええと、もし裏切らなかったら?」
「報酬として極上のエロ本を」
……後ろに女子が会話しているというのに。しかも、あの古月さんが好きな人のことを語っているというのに。ぼくたちは何と、破廉恥なことをしているのだろうか。
自分にさえ、嫌悪感が出てきた。もし彼女たちに自分たちの心を見透かされたら、前にいる男を窓から突き落とし、アイツにそそのかされたと言えばいい。完全犯罪計画部に入っていて良かった(部活全く関係ない)。
それにしても。エロ本で取引するとは。本当に彼はぼくの心が分かっているのだろうか。
「人妻だぞ」
「はい! 分かりました」
何故だろう。ぼくは同じ部員をエロ本で売ったような気がする。これが彼女たちに知れ渡ったら、海外に内蔵を渡されるだけで済むかな……
ぼくって、本当に最低だな。そう言いながらも、彼に笑顔を見せる。そして、彼と拳を合わせた。
「契約成立だ」
「ちょっと、なんの成立なのかな? アタシ気になるんだけど」
ぼくは耳と目を擦ってみた。間違いない。古月さんと東堂さんだ。しかも、こちらを見て殺人を犯そうとするくらいに睨んでいる。
蛇に睨まれた蛙みたいに固まっているのが隣にいる男。ぼくはそれすらなれず、変な笑顔をして誤魔化そうとする。
「いやはや。何のことやら。ぼくたちは最新作のゲームの話を」
「聞いてたんだから。一応、話せば御影だけ二階から突き落として彼は助かるけど、どうする?」
「その選択肢ってぼくに向けるもんじゃないよね。どっちにしても死ぬんだから」
こちらが立ち聞きしていたはずなのに、いつの間にか逆転していた。こちらを見たときには、もう気づいていたらしい。金輪際、立ち聞きも盗み聞きもしないと誓わされたある晴れた夏の日のことであった……。
これで2ndプロジェクトは終了です。お楽しみいただき、ありがとうございます!
良ければ、このまま3rdプロジェクトをお読みください。青春ラブコメミステリーが火を噴きますよ!




