33.真相を告げて、駆け抜けろ!
「いい? アタシが考える今回の事件の流れを言うと……まず、貴方はたぶん……えっと」
僕が手を入れた方が良いだろう。頭の中の繋がったコードをしっかりと整理してから古月さんのもとに走り、蛭間氏に立ち向かった。
「最初は殺害ですよね。あの虎の置物で殴ったんじゃないかな……少し不可解な点がありますが、後で説明します。きっと、貴方には関係のないことでしょうから」
「関係ないってなんだ!? お前ら! 警察に捜査を任せ、ガキ共はさっさと帰ってろ! どうして、取り調べられた上にガキ共の詮索を受けなきゃならんのだ!」
蛭間氏の怒鳴り声に僕たちは思わず目を瞑った。予想通りなのだが、やはり勢いと威圧感がある。古月さんでなければ彼を打ち倒せないような気がした。
「不快だ! 捜査は終わりだ! 帰らせてもらう! いちいちガキ共の探偵ごっこに付き合ってられるか!」
「……すみません。これも捜査の一環ということにさせてもらえないでしょうか」
鈴岡警部の言葉が刺刺しい辺りの雰囲気を少しだけ丸くしてくれた。鈴岡警部……。
僕たちはチャンスを貰えたのだ。たぶん東堂さんたちの力なのだろうが、この奇跡を無駄にするわけにはいかない!僕は期待感と希望によって弾む心臓の音を聴きながら、古月さんと共に豪快な推理を披露した。
「では、行くわよ。たぶん、被害者の遺体は電話のところにあったけど、それってたぶん……アリバイトリックの証明のために動かしたんだわ。だってそうしないと、電話前で亡くなったっていう御影の証言がおかしくなって、アリバイトリックが滅茶苦茶になっちゃうから!」
「はっ……馬鹿馬鹿しい! 何がアリバイトリックだ!? どう見ても、この状況は地震か何かじゃないのか! きっと、話している最中にどっからか飛んできた置物に頭をぶつけて、死んだに決まっている!」
……落ち着け。たぶん、彼の発言で警察の目は光った。この発言には真相が隠されているはずだ。その考えをもとに僕は蛭間氏に向かって証拠と一緒に大口をたたく。
「地震じゃ、ありませんよ!」
「あっ……アタシが言おうとしてたのに……」
「まあ。まあ。古月さん……大事なことを言うからちょっと静かにしてて。……それで、その証拠は花瓶ですね。地震だったら、真っ先に倒れて割れますよね。それに貴方の発言おかしいですね……警察は現場にあった現金が紛失してることから、強盗が金目のものを探すために現場を荒らしたと考えています。まあ、真珠はたまたま。忘れてたみたいだけど。まるで、今の発言は強盗だったことを避けるように言いましたね。もしかして、被害者の持っていた現金を貴方が持って行ったんですか?」
「……あ? どうやら最近の若者は人を小馬鹿にしているようだ……人を強盗呼ばわりするなんて……ちとお仕置きをしないといけないな!」
青ざめる顔の蛭間氏が拳を僕の頭狙って、飛ばしてきた。僕は身を屈めて横に逃げる。そして、顔全体の筋肉を緩めた。笑えるだろう。犯人自信が警察の心証を悪くしているのだから。
「殴るのはなあ……おい! 取り押さえろ……」
鈴岡警部によって蛭間氏は取り押さえられる。だが、彼は体を左右に動かし振り払うと台所に逃げていった。僕たちは呆気に取られていたが、東堂さんが走ると同時につられて動き出す。
何か、嫌な予感がした。身を震わせながら台所へ向かう。
「……おい……! ガキ共」
「甘い甘い。陽介君。ユニちゃん。もっと派手に言っていいわよ!」
東堂さんの声に合わせて、僕たちはさらに彼を推理で追い詰める。もう証拠は分かっているのだ。今度は顔を引き締めて、彼を睨みつけた。
「そんな逃げ場のない場所に行ってどうするつもりだ……まあ、いいか。強盗呼ばわりしてたって言ったけど、何かもっと隠したいことがあるんじゃないか」
「ご、強盗呼ばわりの他に目的があるのかよ!? 煩い奴らだな……」
その言葉に古月さんは手を合わせ、頬を上げる。そして、蛭間氏を厳しく弾圧した。随分前の話だが、前言撤回。一番怖いものは殺人犯より調子に乗った古月さんだったな……
「強盗に見せかけたのは、お金のこともあるけど本当はさあ、殺人の証拠を隠すためでしょ。現場の床には執拗に穴があった。知ってるわよ。その穴に一つ、血が残っていたことを! さあ、蛭間 堅蔵! 白状しろ! あのリビングで次郎氏を殺害したと!」
「うっ!?」
彼女は台所のシンクに思い切り手を突いたため、近くにあった食器を割るところだった。そのせいで怖くなり固まってしまったが、考える。亡くなった人の悲しみや恐怖はこんなもんではなかったと……そう考えたら、喉に言葉が溜まっていく。
そう後は喋るだけだ! 真実を明らかにするために!
「古月さん。僕が言うよ!」
「もう! 後でどうなるかわかってるわよね」
「完全に古月さん……ヤのつくところのお嬢様だよね!? まあ、いいか……蛭間氏が隠したかったのは穴……そこから、みなさん、蛭間氏は携帯を持ってますよね……勿論、電話のアリバイがあるんだから持ってますよね! それとどうしても腑に落ちない点を合わせれば、この事件は解決です!」
後ろで誰かが口に指を当てて笑っていたらしい。それに見た東堂さんが僕に伝わらないよう呟く。
「……陽介君。まだだよ。まだ、事件は終わっていない。陽介君、勝手に事件を終わらせないで」




