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完全犯罪計画部! 史上最悪の青春ミステリー!?  作者: 夜野舞斗
2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
36/45

30.黒い心眼には真実が宿る

「ユニちゃんを困らしちゃダメじゃない……」

「ああ……」


 彼女は少しだけ僕を叱ると、いつも通りの顔に戻り今後の計画を考え始めた。

 

「捜査を陽介君だけに任していた私たちにも問題はあるんだし……次は三人でいこうか」

「……次は犯人候補……湯治さんに……話を聞こう……」


 河井さんの考えに同意し、僕たちは客間へと迷わず直行した。まだ鈴岡警部が古臭いテーブルをはさんで、湯治さんと話している。これはチャンスにと僕たちは笑みを浮かべて、彼らに近寄った。


「あれ。鈴岡警部直々に事情聴取だなんて、珍しいですね」

「……なんだ? 東堂か。まだお前たちの事情聴取の番は回ってきていない。庭で待ってろ……」


 勿論、東堂さんは鈴岡警部に食い下がる。ここで諦めたら、捜査終了ですからね……。


「私は湯治さんが見た状況を教えて欲しいんですよね。アリバイとかの主張とか……」

「えっと、君も僕を疑っているのかい? なんか悲しいなあ。僕はやっていないというのに」


 湯治さんは目で「自分は無実」だと主張している。確かに携帯電話の番号を忘れたり、死体をうごかしってしまったり……そこには少々疑いの余地はあるが、完全に黒といえる確証はどこにもないし、そうも思わない。いや。思えない。と言った方が適切だ。

 僕は彼にアリバイについて尋ねてみる。


「あの……コンビニに行ったって言ってましたが、レシートとかありますよね。まさか、捨ててませんよね」


 その答えは鈴岡警部が先に出した。


「いや。あるには、あるんだが。証言もある。近くのコンビニなんだ。それと死亡推定時刻を考えて、走ればギリギリ犯行が不可能ではないんだな。つまりは犯行が可能な人間が彼しかいないんだよな。一応、こっちは湯治さんが殺人を犯した後にコンビニへ行ったと思われる。」

「僕はやってません!」

「あれ……」


 東堂さんが小さく口を開けて、不可思議な事実の根拠を確認している。


「どうして……彼にしか可能な人間がいないと思うんですか? 強盗……の可能性だってありますよね」

「それはだな……鍵だ。鍵を開けて犯行をしている。湯治さんからは戸締りをして用事とコンビニに行ったという証言があるからな」

「……? としますと、最初から疑問に思っていたんですが。ここに集まった容疑者は合鍵を持っているということですか?」


 鈴岡警部は頷く。集めてはみたものの全員アリバイ持ちだった。その努力は徒労に終わった。少し悲しいが、少し疑問が残る。このまま彼が犯人だということにしてしまうと、永遠に悩みが打ち消されない感じがする。

 僕は湯治さんに頭の整理をさせてもらった。


「湯治さん。貴方は、まず何処か違う場所……外にいたんですよね」

「ええ。緊急でやんなきゃならない大学の研究レポート……自然についてのね。それがあって……勉強のために電話してくれたみたいだけど、出れなくてすまんな……それが終わってコンビニに行った」


 そこで鈴岡警部にも話しかける。疑問は残らず拭い去ったほうが良いと思うから。

 手は絶えず震えているが、随分と緊張がほぐれてきた。たまには、調子に乗ってみても、許されるだろう。


「えっと、荷物とかは……」

「荷物? ああ。コンビニの店員が証言してたな。確かに資料とかが入ってそうなリュックも持っていたし、さっき台所よりも奥にある部屋でそれを確認させて貰った」

「じゃあ、この部分はいいですね。では、湯治さん。その後に戻ってきて、死体を発見してしまった。ここで、僕たちが電話をかけて……」

「思わず触ったって訳だ。お願いします。警部さん……僕はやってません。その時に指紋がついたんです」


 湯治さんの言葉に鈴岡警部は何も言わなかった。ただ瞼を閉じて……静かに窓の外を見ていた。

 指紋について、何かあるのか……?


「ちょっと……いいですか……何で……黙ってるんですか? 指紋……について」

「何処にもついてなかった。そこの容疑者が用心のために消したんだろう」


 ……! 東堂さんが微か、本当に僅かだけれど小さな微笑みを顔に出したみたいに……まるで、もう真実を見抜いたかのように。容疑者全員とも話していないのに、頭が回る……そんな彼女を見て、体を縮めてしまった。


「……で、警察を呼んで、待っているときに君たちが来た……でいいかい?」

「ええ。だいたい……ありがとうございました。そろそろ、ここを……」


 僕たちは客間に一礼してから、廊下に出た。今はもう、心が静まって清らかに。胸に手を当てて、東堂さんがたどり着いたはずの真相を考える。

 東堂さんも女子高校生。僕だって、高校生だ。彼女に負けてはいられない!


「何考えてんの?」

「いや。東堂さんには、もう犯人が分かったでしょ?」

「うん。犯人はね……けど、何か物足りない」


 彼女はカップのソフトクリームにシリアルが入っていない位、自分の考えに不満があるようだ。河井さんは珍しく口を尖らせながら、考えている。


「河井さんは何が……」

「分かんない……東堂さんが誰を……怪しいと思うのか……もう分かり切ったことなのに……」


 何を言っているんだ? 僕のその思いの裏にある期待は自分の何かを押していた。

 両手に力が入ってくる……何が、この何かが分かれば、彼を殺した真犯人が分かるかもしれない……。


「あっ! 待ってください! そこの電話は……」

「こっちの自由だ! ここの電話を使わせてもらう! アリバイ証人だっているんだ! 怪しくないだろう! 本当はすぐにでも帰らしてもらいたいものだが!」


 東堂さんは、警官に対して傲慢な態度を取る傍若無人な蛭間と言う男に黒い視線を向けた。

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この小説を読んでいただき、感謝の限りです。これからも宜しく御願い致します。
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