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完全犯罪計画部! 史上最悪の青春ミステリー!?  作者: 夜野舞斗
2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
31/45

25.笑われる意思で絶望を打ち破れ!

「……二時間ですか」


 刑事ドラマで聞いたことのある情報だ。人が殺害された後一定の時間が経てば遺体は硬直していく。亡くなってから二時間。それが死後硬直の開始時間である。

 すると、やはりおかしい。ぼくたちは既に故人となった人と通話をしていたことになるのだ。

 何か、策略がある……悪戯トリックが……指を口に近づけて、考えた。思考を一つにして考えた。

 鈴岡警部は悩んでいるぼくたちを見捨てることができなかったようで、アドバイスをくれる。


「仏に冷やされたり、温められたりした痕跡はなかった。別に死亡推定時刻を変えたトリックはない。まあ、こちらの死亡推定時刻の推定が違っている可能性もあるが、一番高い可能性としたらアリバイトリックだな」

「……鈴岡警部さん?」


 今までぼくたちの捜査に否定的な態度しか取らなかった彼をぼくは無言で見つめていた。今も嫌な顔はしているのだが、確かに前よりも柔らかい表情だった。

 その疑問に答えるのが、彼の強い意思。


「……何か、勘違いしてないか。情報をくれたのは、死んじまった被害者が少しでも安心してあの世に行けるようにするためだ。そんためなら、何だってやるさ。どうやら今、鍵を握ってるのは陽介……お前なのかもなあ」

「私は?」

「さあな。東堂の方は知らん」

「もう!」


 何故か東堂さんの頬は膨れ上がっていた。ぼくが彼女をなだめていると、鈴岡警部は更なる希望をぼくたちに渡してくれる。

 もう顔から足まで彼に感謝の意を提示するので精一杯だ。


「一応、被害者の死因と状態を伝えておこう。仏の後頭部の一番上に小さい痣があった。これは置物の丸い部分で殴られているようだ。これは死因に関係ないんだがな。命を奪った原因は下にあった大きな殴打の痕が示していた。出血してるのは見てただろう? その二回目の殴打が原因だ」

「ええ……それで……結局の死因は? 殴打なんですよね……」

「その殴打による頸椎の骨折による窒息死だ」

「……とにかく殴られて殺されたんですよね……情報、見ず知らずの自分にまで、ありがとうございます!」


 すると、彼は首を人差し指を掻きながら何かを囁いた。


「……会ったのは初めてだが……何かアイツに似ている気が……すんだよなあ」

「アイツですか……?」

「いや。なんでもない」


 彼の説明により、かなりの真実を追求できるかもしれない。そう感じたぼくは再度、彼に感謝をしてから家の外に出た。入れ違いに容疑者が入ってくる。本格的な取り調べが始まるのだろう。

 ……どうなるのか。亡くなった湯治さんの父親。大事な人を失った彼の悲しみには共感することは不可能だけれど、自分ができることをしたい。そう思えた……。


「ほら。ぼおっとしてないで、さっさと外に出て証人として呼ばれるまで待ちましょう」

「ああ。彼女たちにもこの情報を伝えよう!」

「ええ……!」


 玄関の引き戸を開けるとき、一瞬だけ東堂さんは大いに振るっていた勢いを弱めた。そして笑っていた顔を緩める。緩めすぎると彼女の瞳から水滴が流れ出しそうで、見ているぼくも怖かった。

 きっと、彼女は共感したのだ。彼に……。


「ど、どうしたの? 早く彼女たちに言わないと、ユニちゃんから文句の嵐を食らうことになると思うよ」

「それは怖いな……」


 全く恐れてなどいなかった。この状況に比べれば、彼女の気合や威圧なんて蚊みたいなもんだろう。


「色々……手に入った? ……あの警部……結構……甘いんだよね……」

「へえって河井さんも知り合いだったの?」

「アタシもね。あの人はあの人なりにいろんなもんにぶつかってるからね……そこら辺の刑事や警部に負けないと思う」


 そんな彼に託された、ほんの少しの希望の炎を燃やし続け、消えないように頑張らないと!

 そう考えながら、河井さんと古月さんに情報を伝えた。


「……なんか、不思議よね。その殴打とアリバイトリック……ってああ!? 江並! アタシたち聞いてたんだっけ! アリバイ!」

「早い! 大手柄だよ! ユニちゃん! エナちゃん!」


 不在証明。その詳細が明らかになった。

 塩見 湯治。彼のアリバイはないらしい。コンビニに行っていたと言うが、そうすると「家にいた」夫人の証言と対立してしまうようだ。

 塩見 尚子。彼女のアリバイもない。アリバイを言わずにただただ「息子が犯人だ」という戯言を壊れたCDプレイヤーのように繰り返し訴えていたと聞く。スポットを当てて調べるべき人物だと推測できる。

 蛭間 堅蔵。アリバイが電話相手と少し特殊なもの……それは殺人をしながら、電話での通話はできないと言う主張だった。それは確かだろう。思い出してみると、被害者は彼よりも体格が大きかった。電話で話しながら殺そうとしたのなら、返り討ちに合っているはずだ。


 さて、どうしよう……ぼくに迷いの表情を顔に出す。


「……!」


 突然、東堂さんはすぐに人差し指をぼくの喉に突きつけた。その勢いに逆らうことはできずに、彼女の指示を実行する!

 

「今は尚子夫人の嘘を暴いて情報を手に入れる! それが今の貴方がやること!」

「……分かった!」


 迷いが意思に変わる。

 沈み込む夕日が静かにぼくたちを嘲笑っていた。

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この小説を読んでいただき、感謝の限りです。これからも宜しく御願い致します。
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