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完全犯罪計画部! 史上最悪の青春ミステリー!?  作者: 夜野舞斗
2ndプロジェクト 殺人詐欺の怪奇談
27/45

21.焦りと恐怖と東堂さんの狂想曲

「えっ!? ……え? え? な、なな。なにが……起こったの?」


 河井さんは電話ボックスを飛び出し東堂さんに助けを求めに行った。ぼくも急いで、彼女に起こったことをありのままを伝える。


「東堂さん。ぼくが電話したら、いきなり悲鳴が聞こえて……」

「はしょり過ぎ……大事なこと……」

「そこは教えないで欲しいんだけどなあ」


 東堂さんはぼくのした事を察したのか、あえてスルーしてくれた。まあ、そのための練習だもの。仕方ないよね……。

 古月さんは不思議そうな顔をして、ぼくたちの場所に集まってきた。


「どうしたの? 案外早いじゃない? もしかして留守だったとか、じゃなさそ……うね」

「うん……」


 妙に引っかかった。あの悲鳴は悲痛を感じたときに発する声、他ならないようなものに思える。

 東堂さんたちが息を吸い込んで喋り始める。彼女たちなりに気になるものがあるみたい……。


「一体、何があったのかな。殺人事件が起きたり、強盗に出会ったりなのかなあ」

「東堂……ちょっと……危ない妄想……しすぎ。たぶん……ゴキブリ、ネズミ……驚いたんじゃない?」

「悲鳴? 出すときと言えばねえ。お化けとか雷とか、本当に怖いものなんかアタシにはないんだけどね」


 古月さんが多少気になることを言う。今度、脅かしてみるか。

 それで今はどういう行動をとるか考えるべきだ。練習中のハプニングについては誰も予想していなかったから、全員が困惑している。

 東堂さんはついに本性が現れたのか「殺人事件かあ……はあはあ」と言っている。やっぱり、サイコパスだ。この人!

 そんな妄想を無視した古月さんと河井さんは帰路の方に足を向ける。確か……河井さんは昨日、ぼくと会った時に家の前にいたらしい。


「じゃ……計画は……もう一度……彼に電話……しといて」

「そういうことで。また明日に」


「ちょっと待ってよ」


 東堂さんが手を出して、慌ててストップする。ぼくも定期券を鞄の中から出して電車に乗ろうと思っていたが、そうはさせてくれないらしい。また古月さんや河井さんも足を止めるしか術がなかった。


「何? アタシたちの時間を割いて、何かしようと考えるわけ? 無駄よ。無駄無駄!」


 その声は東堂さんに届かず、スマートフォンで電話を始めた。


「よし……少し待ちなさい。ほら、すぐに出た!」

「あっ。スピーカーにして貰える?」

「はい!」


 何が起こったのか。その真相がわかれば、気分は晴れる。だいたいそうだ。

 ぼくは電話に出る声に期待する。


「あの……完全犯罪――」

「依頼は取り消しです! すぐに、あの話はなかったことにしてください!」

「な、なにがあったん――」

「外部には……関係のないことです。僕のことは忘れてください。貴方たちも」

「そうはいきません!」


 東堂さんがいつになく、真面目。ぼくが失敗したときだって、さっぱり水に流してくれたはずなのに。どうして食いついて離れない?


「い、いや……」

「なにがあったか、教えてください! 私たちは貴方の味方になるため、この仕事をやってるんです!」


 相手も勢いに負けたらしい。困ったような声を上げた後、一言語った。


「……殺されたんだよ……親父が……」

「分かったっ!」

「へ?」


 彼女は電話を切って、急いで古月さんの肩を揺すった。……なんだよ。「殺された」って。ぼくは何も分からないまま、頭をおさえていた。

 古月さんの方は苦虫を嚙み潰したような表情でスマートフォンを取り出し、GPSという代物を使うと断言した。


「あの人はスマホでSNSをやってたから、うまくGPSが使えるかも」


 良く分からないが、依頼人の現在地を特定できるのだそうだ。

 とにかく、モヤモヤしている。煙が脳内に溜まって、苦しい。早く、真実を知りたい。そう思ったぼくは、彼女を急かした。


「行くよ!」

「モチロンよ!」


 ぼくたち四人は無我夢中になって走った。東堂さんが先を追い越し、ぼくが古月さんと彼女を追う形で手足を動かし、風を切って駆け抜ける。

 途中で柄の悪い年よりを見かける。何故か睨みつけられ、震え上がりながらぼくは足を飛ばした。


「もう……走れない」

「あとちょっと!」


 そう言われ、十五分位移動した。理不尽だな。

 いつもならそう思うのだが、パトカーの音が思考を邪魔している。広い水田の中に一軒家を見つけた。


「もしかしてあれがっ!?」

「そう! 急いで!」

「……遅く……おねがい……おそく」


 河井さんに同情などできなかった。したいのは山々だ。けれど、古月さんの必死さはぼくの心の何かを打った。彼女は引き戸を開けて、その家に飛び込む。ぼくも行くしかない。


 怖い。恐ろしい。頭が痛い。嘘だ。悪夢なんだ。

 ぼくが荒らされた部屋の中で死体を見つけて感じたことは単純なことであった。

 それは恐怖である。頭が痛くても、動かなければならない。本当である。現実なんだ。

 そう。自分の立ち位置のリビング前から前後に一歩でも動くためには、この残酷な状況を脳裏に焼き付け、理解するしか術がなかった。逃げることも、避けることもできなかった。


「な、なにがあったんだ? 何だよ……」


 ただ腰を落とすことしかなかった。

 電話の近くで髪を紅に染め上げた中年の男がいる。もう息はない……もう生きてない……生きてないよ。

 な、何が起こってるんだ……?


「そんなとこで突っ立ってる場合じゃない! この不自然な状況を確かめるのよ。警察が来る前に!」


 東堂さんの怒鳴り声。タンスもテレビも倒れて無事なのは電話とテレビの近くに存在していた青くて細い花瓶だけだと思う……。

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この小説を読んでいただき、感謝の限りです。これからも宜しく御願い致します。
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