20.またも漏洩される内部の機密
「結局……あれ? 貴方たちの仕業だったの? あはは……気をつけないとね」
ぼくたち完全犯罪部の四人は駅前のジャンクフード店で、ハンバーガーを食べながら会議をしていた。東堂さんは追加に頼んだポテトをつまみながら、呆れるようにぼくたちの起こした騒ぎを笑っている。
河井さんは何を思っているのだろうかと向かいの席を見ると、彼女は小さいCDプレーヤーを使って何かを聞いていた。
「あ、あれ?」
彼女はコーラを飲みつつ、英語を耳にしていたようだ。そこに東堂さんが彼女を称賛する。
「エナちゃんってこういうところで勉強してるもんで、英語に関しては高校で最初にあったテスト一位だよ! リスニン――」
「その答案用紙……特に英語なんてビリビリに破いて捨てたような気がする……」
「陽介君。テストの保管方法だなんて、人それぞれだから気にしなくてもいいと思うよ。それに勉強だけで人の良し悪しが決まるわけじゃないんだし」
何故か慰められてしまった。微妙に虚しい気持ちはどこかへ放っておくとして、これから部活動だ。
その計画の一端でもある練習。軽い気持ちで臨んではいけないと、顔を両手で叩く。引き締まったぼくの精神。邪念のない心。そして、この胸にある決意。
「どこ見てんのよ!」
「まあまあ、古月さん。そう怒らない。怒らない。計画をもう始めようよ」
「あっ! 待って」
そう言いながら、東堂さんは立ち上がって嬉しそうな顔をして手を上げた。
「まだ私、アイスクリーム食べるから待ってて!」
女子の別腹とは恐ろしいものである。ぼくはチーズバーガーとシーザーサラダとオニオンフライ、ホットケーキを食べただけで満腹になったというのに……
――――――――――――――――――――
ぼくが駅前の電話ボックスの前に入る。勿論、携帯電話等で通話等したら記録が残ってしまうからである。
昨晩、東堂さんが決めてアプリで連絡してきた計画。古月さんは電話を必要とする人がいないか、遠くから見張る係だ。人が近くまで寄ってきてしまうと、通話内容が漏れてしまう恐れもある。
河井さんはぼくと共に電話ボックスの中に入り、余計なことを言わないか聴取する役割だ。まるで彼氏と彼女が親に電話をして、お付き合いの許可を貰っているように見えるらしい。
東堂さんに「いささか、それは古いんじゃないか」と問いかけてみたところ、「これしかなかったのよね。どうにかしたいんだけど……まあ、貴方影薄いし、大丈夫よ」とすぐに答えが返ってきた。
「そう言えば、河井さんはアプリを入れてないの?」
「……ない……スマホすら……ないけど」
「あ。そうだったんだ……」
河井さんは恥ずかしさを紛らわすためなのか、指をいじっていた。悪いことを聞いたかな……
電話ボックスの外では、ぼくたちをからかう様な目つきで東堂さんが怪しく笑っている。ひびの入ったスマートフォンを持って素早く「怪しくしてるとバレるぞ」と、さらに「そう言えば、昨日教えてもらった電話番号。彼の家のものだよね。携帯電話じゃなかったの?」と思いついた疑問を付け加えて送信した。
光の如く、返信が来て、思わず携帯電話を落としそうになってしまった。
「……大っぴらな……行動……目立つ。やめた方が……いいと……思うよ」
「ああ。返信は……」
内容を確認してみた。どうやら東堂さんと古月さんが依頼人の塩見さんに会ったとき、彼は携帯電話を家に忘れてしまっていたようだ。その上、彼は彼自身の携帯電話の番号も忘れていたために彼女たちは家の電話番号を受けとることになったみたいだ。
「分かんないな……一応……携帯の番号……覚えてるし」
「いや。ぼくは忘れることもあるかな。携帯も置き忘れることが良くあるし。別に不自然なことじゃない……そう言えば、東堂さん練習するって電話して伝えてくれたんだよな……大丈夫か?」
「大丈夫……だと……ほら、詐欺の練習……始めるよ……」
「ああ」
何故か。本番でもないのに、緊張してきた。後ろに河井さんと東堂さんがいるから失敗できないというか。高校で今さっき失敗をしてきたばかりだから、また似たようなことをしてしまうのではないか。
固まってしまった。
「ほら……」
どうしよう。台本忘れた。頭の中、真っ白だ。
河井さんは首を傾げて、こちらを心配そうに見ている。表情に見かねたのか、アドバイスをくれた。
「こんな……完全犯罪……少し失敗した……くらいで……首……飛ぶわけ……」
「分かった。やってみる」
一旦、深呼吸をする。気持ちを落ち着かせると、ぼくは公衆電話に百円玉を入れた。受話器を取る。ここでもう一度、深呼吸。間違いのないよう、河井さんに電話番号を何度も言って貰った。
「あ、ありがとう。えっと……」
長い時間。相手が応答するまでにぼくの頭で「完全犯罪」の単語が幾つ飛び掛かったことか……。
「はい。塩見です……」
男の深い声。大学生の出せる声ではないようだが……いや。詐欺だ。詐欺のことについて!
「オレオレ! オレだよ! 今、交通事故起こしちゃって……」
河井さんが眼鏡を外し、目を擦ってぼくの顔を黙視していた。やめてくれ。ただの失敗だ。相手の確認も取らずに、詐欺を始めるなど詐欺師の片隅にもおけない超初心者だ。少なくとも完全犯罪計画部の部員がやることではない!
「それで…………銀行に行けばいいんだよな。明日でもいいですか。ほら、後十分で銀行閉まってしまいますし……それでいいですよね」
「あっ。そうですね」
混乱して、どうでも良くなっていた。明日でも明後日でも自由に振り込んでください。
塩見さんの父親だ。きっと、息子がどうにかしてくれるだろう。家族に他言無用と言われてたはずではあるが……
「では口座の」
「えっと、こう――」
「うわあああああああああ!」
電話は切れた。まだ耳に残っている。切り裂くような悲鳴が……悲鳴が……。




