おまけ2.御影と古月の文化祭戦争(後編)
「ええと、かき氷はどうなんだろうか。その方が一番妥当だと思うんだよな」
「かき氷? それも値段が滅茶苦茶高くなるんじゃないの? 数百円じゃあできないわよ?」
呆気にとられ、次に出そうとしていた言葉を声にして発することができなかった。
「かき氷と言えば、アイスクリームがあって……」
それは分かる。だが、乗っていないものと比べても異議を唱える話ではない。それが古月さんという人間であれば、決まりきっていることだ。
「その上に金箔を振り乱し、さらに金色にした氷を粉々に砕き、カップにまき散らし……それを目と口で楽しむもの……違ったかしら?」
「違います。特に……庶民のかき氷は」
「じゃあ、今度勉強するとして、別のものを考案しましょう」
項垂れながら、彼女の常識を疑った。誰が委員長にしたんだ?この女を……
そんな表情をまったく気にもせず、彼女は別の提案をした。それにぼくも対応するしかないだろう。
「展示会なんてものもいいんじゃない? ダメかしら?」
「模擬店だから……お金を取ることができれば、そういうのもありなんじゃないか?」
「それなら、武器の展示会をやればいいのよ!」
「はっ!?」
ぼくは早く部活に行きたい衝動を抑えるため、ずっと貧乏ゆすりをしていた。勿論、この下らない話によってさらにその強さと速度は大きくなっていく。
「誰もやったことのない文化祭の模擬店。この学校の歴史にも轟いていくわね」
「生徒が文化祭のときに、武器準備集合罪で警察に捕まったつう事実だけだろ!? 犯罪史にも永遠に記録が残るわっ!」
息を切らして、彼女を糾弾する。その後、椅子に腰を掛け呼吸のペースを整えた。
「……じゃあ、これはいらないわね」
彼女は二つの何かをすっと背中から出し、ぼくがその正体を感知する前に懐に隠してしまった。何やら、彼女の胸が少し大きくなっているような……
「ま、まさか……だから文化祭でセクハラとかで捕まったら全部、古月さんの責任ですからね。ぼくはもともと、そういう商売をやりたいわけじゃないんだし……」
「何言ってんの?」
彼女は渋い顔をして、こちらを下から見つめていた。
まただ。何か、顔が熱くなってくる。胸に詰まるものがある……今はまだその正体を知るわけにはいかない。彼女と知り合ったばかり、喜ばせる方法も……傷つける方法だって分かっていない。
それはそうとして、彼女は何を持っているのだ?
「爆弾……」
「はいっ!」
この時のぼく。廊下を駆けだし、いつの間にか非常ボタンに手を押していた。
廊下に鳴り響くブザーの音が耳にしみる。やってしまった……
「何やってんの!? 冗談よ!? ただの不審者撃退用のカラーボールよ!」
真っ青な顔の彼女は汗や唾を飛ばしながら、ピンク色に輝く玉を突き出してきた。これだから、いけない。ぼくの早とちりする癖を何とかしなくては。そうで……ないと……。
彼女と言い争いをしながら、何とか教師に見つからずに学校を脱出した。何だか、後ろに覆いかぶさってくるものもあったが、今は逃げるだけで精一杯だった。
この後何とか教師にバレず、一件は悪戯だとして処理をされた。反省してます……もう絶対にやってはいけないことだと存じております。
ぼくの膝も彼女の膝も笑っている。血眼になって逃げきることに成功したのだ。駅前まで来たぼくは彼女に頭を下げて、一生懸命謝罪した。
彼女は目の色を変えて、こちらを見ている……。
「謝罪よ! 謝罪会見を開きなさい! ……って興奮してる場合でもないか」
「あれ?」
彼女の顔から怒りが疲れに変わっていったように感じとれた。本当にゴメンなさい……
謝罪の意を心に持ち、本当に申し訳ないと謝った。
古月さんの表情が呆れて下を向いていたのだが、「い」の言う前にはもう明るい、まるでぼくを嘲笑うような顔――いつもの古月さん――に戻っていた。
「いいわ……ここら辺りでアリバイでも作るよう、執事に命じておくわ」
「ありがとう……脱出……ふう。大変だったな」
ぼくの言葉に古月さんは目を見開いて、大声で叫んだ。
「そう! それよ! 脱出ゲーム……またはゲームセンターのどっちかを作っちゃえばいいのよ! アタシにその分の費用はある! クラスのみんなには整備や位置の確認をお願いすれば……」
名案……かもしれない。ぼくもそれに、明るい声で賛成の意を示した。
ここで彼女との小さな文化祭戦争は幕を閉じ、収束を迎えた。
「うん! じゃあ、早速」
ぼくと彼女は文化祭のことについて話し合う。賑やかな駅前がぼくたちの声で、さらに盛り上がったような気がした。
ぼくと古月さんの何か……が深まったように感じる。
あれ? 何か、忘れていないか……?




