18.とあるものにとっては、最悪な完全犯罪
「流石に『アダルトサイト』はまずいだろ……これ見られて怒られても何も言い返せねえぞ」
東堂さんたちにそう言い、牙を向けた。
「そうね。後は記憶に残しておくってことにしよう。それで……だから、今回は陽介君の大好きなアダルトサイトを作戦に利用するの!」
「好きじゃねえから!」
ここで否定しておかないと、勘の良い部員たちはより一層気づいてしまうだろう。
全くこの部活はいつから「アダルトサイト監視部」になったのか……疑問に思いながら、東堂さんの話の続きを聞いた。彼女が話しているはずなのに、何度も古月さんたちの目がぼくに集まるのだが……特に「アダルトサイト」の単語が出るたびに。やめてくれ。ぼくは悪い人間ではない……だけど見たっていいじゃないか。えっ? 年齢詐称は悪いことだって……?
十回程「アダルトサイト」の単語を耳にした後、東堂さんが話をまとめて始めた。
「アダルトサイトからの架空請求なら、ターゲットの蛭間氏も騙せると思うの。古月さんの情報技術を借りればね。でしょう?」
「疑問提起……どうやって……? ワンクリック詐欺の架空請求……作るの?」
古月さんが煌びやかな笑顔で懐からスマートフォンを取り出し、こちらに見せてつけてきた。
彼女ももう東堂さんの計画を了承していたらしい。
「これを見なさい。蛭間氏のメールアドレスは依頼人から聞いて来たから。蛭間氏宛てにこんなメールを書いたの」
「えっと、どれどれ。このURLの中に貴方の秘密が眠っております。どうか開いてお確かめください。差出人不明……後これってあのサイトのURLか……」
「なんで、サイトの名前を知っているのかしらねえ……」
「だ、男子の中では有名だからだ! 口コミで評判だっていいし! 画質だっていいのばっかあるし! 結局は無料で見れるんだし、ワンクリック詐欺の被害もほとんど聞かないし。安心性がバッチリだ! だから何度もクリックしてるうちにURLも覚えちゃうって話なんだよ!」
部室に氷河期がやってきた……しまった。古月さんの誘導尋問に乗ってしまったのだ。
「あそこまで……のるって…………この部活で……やってけるの?」
古月さんたちは凍りつきそうな目でこちらを見下している。絶望だ。失望だ。悪魔の罠にはまるなど、あってはならないことだった……。
空気に押し潰され、ぼくは黙って汚れきった床を見ているしかなかった。
「あそこの変態野郎は置いといて、絵里利。江並。話を続けるわね。これを相手のところに送れば、良いわけ」
「……そのサイト……さっき御影が……ワンクリック詐欺……危険性が少ないって……そこで作るの?」
「サイトの人の大きな営業妨害にもなり得るから、それはやらない。ただ蛭間氏だけをターゲットにするの」
「そういうプログラムを……作るんじゃ……ないんだ……へええ……じゃあ……どんな技術を……」
そこで東堂さんが古月さんの持っているスマートフォンを指さして、説明をした。完全犯罪計画部に染まりきった古月さん。ぼくは悲しいです。
「このメールを送ればユニちゃんの技術……確か、相手が受け取ってメールを閲覧したこと。その中のURLを開いたこと。そこからサイトの何処へ進んだかまで分かるんだよね」
「ええ。これを調べあげることが今のITならできるわ。アタシにかかれば、個人情報なんかないってことを忘れないでね」
ああ……クラスの委員長がここまで変わってしまった……人が何故、変われることができるのか非常に興味深い。今度、心理学でも勉強してみよう。
開き直ったぼくは前を向いて、古月さんの顔を視界の隅に入れた。
「まあ、これ全部考えたの絵里利なんだけどね」
「はあ。一部の人にとっては、最凶に恐ろしい作戦ですね……」
残りは東堂さんが計画の利点を発言した。
「蛭間氏は自分の不正を金でなかったことにするプライドの高い男。きっと、そういうアダルトサイトのことだって『そんなものは見とらん!』というでしょ。そこで電話で架空請求をし、見た動画の名前を次々と口にしていけば……」
「蛭間さん。お気の毒に……」
架空請求というよりは脅迫に近いような気もするが、目的は達成できるはずだ。……この作戦は少し失敗する可能性も見受けられる。まあ、完全犯罪には賭けのチャンスがあるからこそ言い訳ができるのだろう。「そ、そんな証拠、ただの賭けだ。もしアイツが違う場所を選んだら、事件は起こらなかったじゃないか!」と犯人が喋り、「いいえ。貴方は確実に被害者をその道におびき寄せたんだ! 被害者の苦手な毛虫でね!」と探偵が反論する。そんな推理アニメを昔見たことがあるような、ないような……。
「まあ、一週間は時間があるんだし、失敗した場合は明後日に持ち越し。明日、計画実行よ!」
「東堂さん。依頼人の連絡と役割分担はどうするの……?」
「陽介君。いいところに気がついたね! 忘れてた! ありがとう……どうしようかな」
東堂さんはそう言って左の掌を右手の人差し指でたたきながら、考え事を始めていた。
「じゃあ、まず。陽介君が電話の係でいいかな」
「えっ!? ぼく?」
この選択がこれから起きる悲劇を左右させることを誰も、犯人さえも知らなかったのだ。




