1.悲劇のきっかけ
「今、なんて言ったの?」
「さあ、完全犯罪計画部にようこそ! さあ、二人とも入って入って!」
半ば強引に被服室の中央へと連れてこられたぼくと古月さん。
東堂さんは自分の仲間ができた喜びなのか、笑っていた。完全犯罪計画部……ここはボランティア部と聞いていたのだが。
再びパンフレットに目を通す。
「完全犯罪計画部」
勿論、そんな部活はどこにも表記されていない。逆に書いてあったら、この学校の不祥事にだってなり得る。
そのことについて、東堂さんへ質問を試みた。
「ねえ。東堂さん? 完全犯罪計画部って何? どこにもそんなのないけど」
「名の通り、完全犯罪を計画して達成させる部活です! 現在部員四名いまーす!」
「……えっと」
ぼく、古月さん、東堂さん。もう一人、誰かいるとすると計算が合わないような。パンフレットにはぼくと古月さんが来る以前から三名となっていたはずだから。
しかし、ボランティア部のこともある。まさか、本気で一人だけボランティアに熱中している部員がいると。今すぐにでもそいつを讃えてやりたい。
この部活はボランティア部と称して、完全犯罪を成功させる……それが東堂さんの嘘であることも信じたい。
古月さんはぼくの顔に書いてあった文字を読むかのように、その真偽を語ってきた。
「きっと本気よ。絵里利は本気の本気で完全犯罪計画部を創立したんだと思う」
「そうだよ。私の頭の中には、IQ何百の漫画、小説キャラクターにだって負けないほどの完全犯罪の方法が渦巻いてるんだから!」
1年E組の東堂さん。その無邪気な様子を見て、僕の心臓は大きく揺れていた。だって、この少女の頭でグロいこと考えてるなんて想像がつかないからだ。
古月さんは彼女の言動に愛想をつかしたように、窓の外を眺め始める。ぼくも東堂さんから目を離すことにした。
この部室(被服室)は薄暗くて、合唱部や吹奏楽部、はたまた野球部の部室よりも狭い。学校側としては、功績のある部活に広い部室を与えたくもなるだろう。それに集まってもこの人数。生徒としても広過ぎる部屋をもらうと、期待がのしかかってきてしまう。この部活としては、最適な部屋なのだろう。
頭の中にまだまだ疑問が残っているので、思い切って東堂さんに違う話をしてみた。
「あの……よく学校から、まあカモフラージュですけどボランティア部なんて創立させてもらいましたね。許してくれたんですか?」
「ええ。一番気の弱い女教師、生物の花街先生に頼み込んだらOKもらえたわ。顧問を兼任してくれるみたい」
「へえ、まさかね……」
さすがに教師を脅してはいないだろう。きっと。
まあボランティア部があったとしても、学校側にはほとんど負担にならないはずだ。なったとしても近隣住民の人たちから信用を得ることができるのだから、安い話なのかもしれない。
それを思いついてしまうなんて、東堂さんは頭の回る人物なんですね……と自分と比べ感心してしまった。
「あ。君の名前は……?」
「御影 陽介です」
「分かった、陽介君。耳を貸してくれる?」
その彼女が、こちらにかなり重要な情報を耳打ちで伝えてきた。
「えっと、この完全犯罪計画部は現在ボランティア部の五名のうち、四名で行われています」
「ぼくたちが強制的に入るのがやっぱ決定してるんだね……で、仕事はあるの?」
「現在ない! 無償じゃないから、お客さん、ためらってるんだよね」
「いや……きっと……そのせいじゃあ、ないと思いまーす」
もしもあったとする。何処の誰が依頼するんだよ。そんな危ない仕事を。ぼくだったら、絶対に頼まない。他人と共有してしまったら、喋られる可能性だってある。笑い者になるだけならいいが、社会的地位だって危うくなることもあるはずだ。そんなの絶対に嫌だ。
そんな思考を探りこむように東堂さんが囁いた。耳がくすぐったい……。
「私の秘密厳守は、裏の世界じゃあ有名よ」
彼女から半歩遠のく。怖いよ……。
その時、足音がした。この部屋に駆け込んでくる人の影が一瞬、ぼくの眼に映る。その人物は封筒をこちらに飛ばして、走っていった。まさか、これが!?
「あ、あれ依頼?」
心底驚いた。もう依頼が来るなんて。
古月さんは声を出しながら足元に落ちているそれを拾い、封を切ろうとした。
「あ。ユニちゃん。待って。私がやる」
「……まあ、いいわ。アタシ、見る気なかったし」
早速、中身を見ようとする古月さん。見る気満々だったじゃねえか!!
東堂さんは落ち着いた表情で、封筒を受け取る。窓の外から流れ込む異様な雰囲気。この緊張感。やけに心臓の音が響いていた。
これが犯罪計画部の初仕事……。
「じゃあ、いくわよ」
ビリッと、何とも心地よく、それでいて奇妙な音が耳に入ってきた。
……なんたる奇行であろうか!?
その封筒は予想外にも真っ二つに破られた。その後、どんどん封筒が残酷な姿へとなっていく。彼女は手紙の文字までもが読めなくなるまで、紙を切り裂いていた。
「ねえ、ユニちゃん?」
「はい?」
彼女の言動に呆気にとられて、立ち止まっていたぼくたち。
彼女は笑っていない目で古月さんを見つめ、こう言った。
「どっかから、ライター調達お願いできる?」